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字が綺麗
先日わが家に保険の外交員がやって来た。夫を名指ししたものの、あいにくの不在でインターホン越しに私が対応する。しかし、チャイムの音で昼寝から目覚めてしまった次女の泣き声に追い立てられるように、外交員の女性は資料だけを置いてすぐに帰っていった。
それは、夫に頼まれて私が資料請求のハガキを出した会社で、透明なビニールの袋の中には、冊子とおまけの絆創膏そして手書きの手紙が同封してあった。
とても読みやすくさっぱりとした綺麗な字だ。
「赤ペン先生の字」といえば分かる人には分かってもらえるだろうか。しかしひとつだけ、どうしても気になることがあった。名前の漢字が間違っているのだ。同じ漢字が数カ所間違っているのでうっかりということは考えづらいだろう。しかも、間違え方が妙だ。例えるなら田中さんの“田”という漢字、これの真ん中の横線がないというような具合。少なくとも日本では使われていない字になってしまうので、何か別の漢字と間違えた可能性も低い。
おかしな間違いをする人もいるんだな、と思いながら再び手紙を読み直した。改めて綺麗な字だ。こういったことが契約に繋がるかどうかは分からないが、乱雑な字で書かれた手紙より綺麗な字で書かれたそれの方がなんとなく嬉しい。
そこではたと気がついた。こんなに綺麗な字を書く人がこんな間違いをするだろうか。資料請求をするときに私が間違えておかしな漢字を書いて送ったのではないだろうか。
私の字はすごく綺麗なわけでも、逆にすごく下手なわけでもない至って普通の字だ。しかしこんなに綺麗な字を目の前にすると、私の普通の字はなんだか信用が足りない気がしてくる。
綺麗な字には「こんなに綺麗な字を書く人が間違えるはずない」という説得力があるが、私の字にはそれがないのだ。
どれだけ手紙を眺めていても、結局どっちが間違ったのかは分からない。
私は手紙をビニールの袋にしまいながら、少しペン習字でも習ってみようかなという心持ちになったのだった。
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