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有機農業研修受入先の研修実態 有機農業への参入のきっかけと経営状況(5/5)

有機農業への新規および転換参入者を対象にアンケート調査結果から、研修生を受け入れている農家(団体)の研修受入状況をもとに、有機農業での新規参入者の輩出に重要な役割を果たしている、研修受入先の実態を明らかにしました。
11年前の調査結果ですが、実態を把握し今後の対策を立てるには有効な情報と考え紹介します。


調査方法など

調査対象および調査時期、新規参入者の概要などについては、有機農業への参入のきっかけと経営状況(1)を参照ください。
ここでは、研修生を受け入れている(受け入れたことがある)と答えた81件の実態をもとに紹介します。

研修受入先に求められるもの

新規参入者への支援には、農地・住宅の斡旋や技術習得のための研修制度、資金などの参入時対策と収入安定や地域との関わりなどが必要ですが、その取り組みは十分ではありません(江川 2012)。
一方、新規参入者の就農実態調査(全国新規就農相談センター 2022)によると、74%で研修を受講し、研修受入先の60.6%が一般農家で最も多く、続く農業法人は10.0%となっています。
一般農家が最も中心的な研修受入先であり、新規参入者のニーズにあった柔軟な研修が受け入れられる体制が求められています。

有機農業の取り組み状況では、新規参入者全体でのうち「全作物で有機農業」が 16.9%、「一部作物で有機農業」は 5.9%でした(全国新規就農相談センター 2022)。
就農当初から有機農業に取り組む事例が2割強存在し、有機農業の研修受入先の役割は重要であると考えられます。

研修受入農家(団体)の状況

本調査で、研修生を受け入れている(受け入れたことがある)と答えた数は81件で、うち57件は現在も継続して受け入れていました。
現在、受け入れている農家(団体)のうち、61.4%が新規参入者(新規)で、転換参入者(転換)は38.6%でした。また、新規の受入農家のうち、68.6%は研修経験がありました。
これらの研修受入先では、延べ956人(新規:507、転換:449)が研修を受け、うち、341人(新規:198、転換:143)が新規参入者に、81人(新規:33、転換:48)が農業法人に就職していました。
研修地周辺における就農の可能性ありが86.0%と高い割合でした。

現在、研修生を受け入れている農家(団体)の研修内容

受け入れ時期を特定していない(随時受け入れ)は78.9%で、男女の区別なしが91.2%でした。受入可能人数は、2人が42.1%で、1~3人が78.9%でした。
研修環境では、宿泊施設ありが52.6%、賄いなしが45.6%、自炊可が45.6%でした。また、研修費なしが84.2%、宿泊費・食費なしが73.7%、研修生への報酬なしが54.4%でした。

公的支援の利用

青年就農給付金(準備型)(現在は、「就農準備資金」)の給付対象の研修受入先に45.6%(26件)がなっていました。このほか、農の雇用事業を9件、県の研修生支援事業(里親制度など)を8件、市町村の支援および不明が4件でした。
青年就農給付金(準備型)の給付対象となる研修受入先(機関)として指定された理由として、次の点をあげていました。

〇研修生を受け入れ、就農者輩出の実績がある
〇認定農業者、指導農業士などの資格を取得している
〇県の就農支援制度(たとえば、長野県の里親制度)の受け入れ農家として登録している
〇行政と密に交流し、取り組み内容を公的機関が良く理解している
〇地域で、有機農業者として受け入れられている
〇他にない有機農業の技術レベル、総合的な取り組みが評価されている
〇公的機関では担えない民間の有機農業を志望する新規参入者支援団体(たとえば、オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村、熊本県有機農業研究会)の委託で、研修生を受け入れている

有機農業の研修受入先の実態とその役割

新規参入者で、しかも研修経験のある農家が研修受入先となり、研修地周辺での就農が可能なところで、多くの新規参入者を輩出しているようすがうかがえます。

研修受入先の多くは3人以下の受け入れで、宿泊施設があるのは半分程度。小規模での受け入れが目立ちます。
研修費、宿泊費・食費なしが多く、しかも研修生への報酬なしが半分程度を占めることから、有機農業者を増やしたいとの思いに加えて、研修生の労働力も当てにしているようすがうかがえます。

有機農家のなかでも、公的支援を利用した研修生の受け入れが進みつつあることがうかがえます。

有機農家と言えども、農業経営を維持するには、売れる農産物を生産できる技術と販路の確保が重要です。そのためにも、公的機関と連携した技術の確定、販路の開拓は欠かせません。
そして、有機農業を志向する新規参入者の定着率を高めるために、栽培技術、販路の確保を兼ね備えた経営力のある農業者が研修受入先になれる環境整備が急がれます。

新規参入者のグループ活動は、同質的体験を通して、経験豊かな者が未経験者のキャリアの発達を促進する効果を持っています(島 2008)。
地域農家にとって、新規参入者の対する当初の印象は決してよくないことを考慮すれば、仲立ち人の存在は大きく、地域農家の新規参入者に対する評価の変化は、一定期間を経ることで初めて可能となります。
研修生には、研修受入先の農家なり法人の経営者が仲立ち人として、その信用を背景にした経営資源の獲得ができるメリットがあり(内山1999)、新規参入者が地域に受け入れられるためにも、研修受入先の役割は大きいと考えられます。

※JAやさと有機栽培部会の研修制度は、経験豊かな者が未経験者のキャリア(技術、知識、経験、人間性、生き方など)の発達を促進する取り組みとして評価できます。

参考文献

江川 章(2012)「多様化する新規就農者の動向と就農支援の取組体制」『農林金融』65(11):14-27.
全国新規就農相談センター(全国農業会議所)(2022)「新規就農者(新規参入者)の就農実態に関する調査結果 令和3年度
藤田正雄・波夛野豪(2017)有機農業への新規および転換参入のきっかけと経営状況:実施農家へのアンケート調査結果をもとに. 有機農業研究 9(2):53-63.
島義史(2008)「新規参入者のグループ活動における相互支援」『農業経営研究』46(1):129-132.
内山智裕(1999)「農外からの新規参入の定着過程に関する考察」『農業経済研究』70(4):184-192.


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