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新規参入者の就農実態 有機農業への参入のきっかけと経営状況(1/5)

有機農業への新規参入者を対象にアンケート調査を実施しました。
参入のきっかけは「安全・安心な農産物を作りたい」が最も多く、地域の有機農業者のもとで研修を受け、栽培技術のみならず、販路、農地、住宅の世話を受けながら就農した方が多いことが明らかになりました。
11年前の調査結果ですが、実態を把握し今後の対策を立てるには有効な情報と考え紹介します。


調査方法

調査対象は、有機農業への新規または転換参入後、10年程度経過し生産環境が安定し、かつ、有機農業推進団体、公的機関より推薦された農家(団体)です。
調査は、北海道から九州・沖縄まで、約60団体、83名の調査員の協力を得て、200件の有機農業実施農家(団体)を対象として、2013年9月から12月に実施しました。
回答者の内訳は、北海道19、東北18、関東50、東海20、北陸9、近畿23、中国四国31、九州・沖縄30で、うち10件(販売農家でない:8件、法人で規模が大きすぎる:1件、有機農業を実施していたが現在は辞めていた:1件)は集計・分析から除外しました。
アンケート調査結果をもとに、新規または転換参入別に、集計・分析を行い、その特徴を比較しました。
今回は、新規参入者(122事例)の調査結果をもとに紹介します。

調査した新規参入者の概要

平均年齢は45.5歳で、年齢構成では30代が32.8%と最も多く、次いで40代(29.5%)、50代(17.2%)、60代(15.6%)で、30代から50代は79.5%でした。
専業農家は82.8%で、農業歴の平均が10.8年、有機農業歴の平均は9.7年でした。
研修生の受け入れ状況では、39.3%が受け入れている、または受け入れた経験がありました。
有機農業の実施率は、参入時が90.9%、現在が95.8%で、85.2%が初年から栽培面積の100%で有機農業を実施していました。
水稲作(実施数は参入時が37件、現在が57件)で100%有機農業を実施していたのは、参入時が81.1%、現在が86.0%でした。有機農業歴では15年以下が81.1%(うち、10年以下63.9%)で、72.1%に研修経験がありました。

新規参入者の参入のきっかけ

「安全・安心な農産物を作りたい」が有効回答数の66.4%(うち、順位別第1位が86.4%)と最も多く、「(自分、家族、消費者の)健康のため(41.8%.うち、第2位が66.7%)」「環境保全に関心がある(39.3%)」「自給自足するなら有機で、自分も食べたいから(27.9%)」が続きました(図1)。

図1 新規参入者の有機農業をはじめたきっかけ(藤田・波夛野 2017)

新規参入者の技術の習得先、資金、農地・住宅の確保など

技術の習得先では、参入時は「書物を通じて(70.5%.うち、第2位が46.5%)」「研修受入先(68.0%.うち、第1位が90.4%)」「地域の農家(48.6%.うち、第2位が54.2%)」の順でしたが、現在は「書物を通じて(59.8%.うち、第2位が46.6%)」「地域の農家(51.6%.うち、第1位が46.0%)」「研修受入先(44.3%うち、第1位が83.3%)」の順でした。
資金では、参入時の就農資金、現在の営農資金とも自己資金(95.9%と94.3%)が最も多く、販路の確保では、参入時、現在とも「自分で開拓(66.4%と68.0%)」「知人・友人(親族を含む)の紹介(59.8%と59.0%)」が多くありました。
参入時の農地確保は「農家(研修受入先を含む)の紹介(49.2%.うち、第1位が83.3%)」「自分で交渉(44.3%.うち、第1位が48.1%)」が多かったが、現在の規模拡大では「自分で交渉(50.8%.うち、第1位が56.5%)」「周辺農家からの依頼(47.5%.うち、第2位が46.6%)」が多くありました。
参入時の住宅では、「農家(研修受入先を含む)の紹介」「参入時より持家(実家)」がともに25.2%と多く、「自分で探した(16.0%)」が続きました。
周辺農家の理解では、参入時は「変わり者(有効回答数の68.0%.うち、順位別第1位が54.2%)」、「良くやっている(47.5%.うち、第1位が55.2%)」の順で、現在は「良くやっている(79.5%.うち、第1位が70.1%)」でした。

新規参入者の就農実態

参入のきっかけは、「安全・安心」「健康」「環境保全」が上位を占め、「自給自足するなら有機で、自分も食べたいから」が続きました。

就農初年からすべての面積で有機農業を実施する事例が多くありました。
参入時には技術の習得、資金、販路、農地・住宅の確保など、多くを自らの努力で解決していましたが、現在では周辺農家とのつながりを大切にしていることが明らかになりました。

研修経験のある新規参入者が多く、就農後も技術の習得や販路など研修受入先との繋がりを大切にしていました。
地域の先駆者として慣行栽培農家が有機農業への転換参入を行い、新規参入者はその先駆者のもとで研修を受け、栽培技術のみならず、販路、農地、住宅の世話を受けながら地域で就農し、その新規参入者も研修生を受け入れながら、次世代の農業者の育成をしている様子が推測されました。
そして、ともに地域への有機農業の定着や地域農業の振興に寄与していくものと考えられます。

参考文献

藤田正雄・波夛野豪(2017)有機農業への新規および転換参入のきっかけと経営状況:実施農家へのアンケート調査結果をもとに. 有機農業研究 9(2):53-63.


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