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畑に共生関係を再現 トビムシ-作物-病原性微生物の関係を例に
トビムシ類が植物遺体や菌糸を食べたり、排泄したりして畑で生活することで、作物の生長に適した環境が形成されます。
そして、作物が生育量を増すことで土壌中に有機物が還元され、トビムシ類の餌が増えて、より繁栄しやすい環境が形成されるという、作物とトビムシ類の共生関係が見られます。
病原性微生物の抑制作用
トビムシ類の栽培に関わるはたらきのなかで、有機物の分解作用とともに、病原性微生物を抑制するはたらきが知られています(図1)。
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(シャーレー右:トビムシ放飼。中央:同拡大。左:トビムシ無放飼)
中村好男(愛媛大学名誉教授)さんらは、東北農業試験場(現・東北農業研究センター)にて病害が発生した土壌にトビムシ類を入れたものと入れないものを用意して、作物を栽培しました。この結果、キュウリ苗立ち枯れ病(図2)、キュウリつる割れ病、ダイコン萎黄病、キャベツ苗立ち枯れ病、アズキ白紋羽病の感染発病をトビムシ類が抑制することが明らかになりました。
トビムシ類の行動を室内で観察したところ、病菌と作物根があった場合、菌で育ったトビムシ類は根の周囲を動き回っても根は食べないそうです。そして、菌糸の伸びる先端をトビムシ類が食べて、菌糸が作物の根に到達できないことを明らかにしました。土壌中でも、このようなことが行われ、作物の感染発病が抑制されているのでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1715675416093-1xEjZI1qAi.jpg?width=800)
病原菌を接種した土壌に、トビムシ放飼(右)1週間後にキュウリを播種。
8日後の生育状況。無放飼(左)は、2週間後に枯死した。
※トビムシ類については、こちらもご参考ください。
共存から共生へ
動物・植物のみならず微生物に至るあらゆる生きものは、生活している環境(ある生きものの周りのものすべて)から切り離しては生きていけません。
植物は、エネルギーと炭素は光合成で獲得できます。しかし、窒素などの栄養源は、有機物を分解し植物が利用できる形にしてくれる土壌動物や微生物に依存しています。多くの生きものはさまざまな関係をもちながら「共存」(一緒に生活)しています。
さらに、異なる生物が互いに緊密な結びつきを保って生活している状態を「共生」と言います。たとえば、トビイロケアリがワタアブラムシの排泄する甘露を餌として利用する代わりに、ナナホシテントウなどの捕食者からワタアブラムシを守っているような「アリとアブラムシの関係」です。ほかにも、動物と植物にはさまざまな質の共生関係が知られ、直接的には関係ないと思われる生物が間接的に影響していることもあります。
畑に共生関係を
トビムシ類が植物遺体や菌糸を食べたり、排泄したりして畑で生活することで、作物の生長に適した環境が形成されます。加えて、作物が生育量を増すことで土壌中に有機物が還元され、その結果、トビムシ類の餌が増えて、繁栄しやすい環境が形成されます。このような作物とトビムシ類の関係は共生関係(相利共生)と考えられます。
畑に共生関係を再生するには、大量生産された市販種子ではなく、それぞれの地域、それぞれの畑で能力を発揮する自家採種された種子を利用することが重要です。そして、自家採種された作物の生長と土着の生きものとの関係を観察することが大切だと思います。そしてそれは、化学肥料や農薬に頼らない栽培法のヒントとなるでしょう。
※自家採種をしたエダマメのタネと市販のタネとを自家採種をした畑で比較栽培した結果、自家採種のタネでタネバエの被害がほとんどでなかったことは、「農地に適した栽培しやすいタネができる自家採種に挑戦しよう」を参照ください。
参考文献
江波義成(2022)畑地の土壌動物のはたらきを追いかけて, Edaphologia, No.111:7–15.
藤田正雄(2006)土を育てる生きものたち(7)共存から共生へ.ながの「農業と生活」, 43(7):9.
中村好男・板倉寿三郎・松崎巌(1991)福島県から採集された作物病原糸状菌を摂食する中型土壌動物, Edaphologia, No.45:49-54.
白石啓義・江波義成(2002)根圏土壌に生きるトビムシ・ササラダニ, 根の研究 11(1):7-10.
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