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日本で初めて「オーガニック牛乳」を生産した酪農家グループーー北海道津別町

津別町有機酪農研究会は、「有機酪農を実践し、有機牛乳生産を目指そう」と、北海道、津別町、JAつべつなどの協力を得ながら、試行錯誤の末、日本で初めて「オーガニック牛乳」を生産した酪農家のグループです。


網走湖の水質汚濁を機に環境改善に取り組む

北海道津別町は畑作と酪農がさかんな町。
化学肥料・農薬や大型機械に依存した大規模農業を追求してきた結果、町内を貫通する網走川下流の網走湖の水質汚濁を引き起こすことになりました。
そこで、1995年に「網走湖浄化対策事業」が開始され、微生物を利用して家畜糞尿を浄化するシステム「ゆう水」(図1)を酪農・畜産農家に導入し、1998年には「畜産環境整備特別対策事業」で堆肥舎を整備し、糞尿の河川や地下への漏出ろうしゅつを防ぐ取り組みがなされました。

図1 微生物を利用して家畜糞尿を浄化するシステム「ゆう水」(山田牧場、2010年2月撮影)

有機酪農を実践し、有機牛乳の生産を目指す

ほぼ同時期の1999年、明治乳業が有機牛乳の生産候補地を探していました。
2000年に「津別町有機酪農研究会」を立ち上げ、北海道、津別町、JAつべつの協力を得ながら、2004年には圃場の有機JAS認証を取得し、2005年に日本で初めて「オーガニック牛乳」(有機JAS認証、見出し写真)の生産を果たし、2006年9月に製品化販売が始りました。
※「有機畜産物の日本農林規格」は、有機農産物の規格より約5年遅れた2005年10月に制定されました。

有機JAS認証を受けた飼料の確保と乳牛の健康管理に苦労

研究会では、試行錯誤のなかで飼料作物の試験栽培を実施。サイレージ用トウモロコシ、牧草の収量はともに慣行農業の5割以下と少なく、継続を断念する農家もありました。濃厚飼料も含め完全有機に転換する2005年には、飼料作物の栽培法を改善をはかり、雑草の繁茂、労働力の増加、減収を克服し、慣行農業と遜色のない収量になりました。
手探りの状態で始めた乳牛の飼養管理では、アニマルウェルフェアの観点に立ち、牛舎の清潔に心がけ(図2)、有機放牧地も確保(図3)されました。
薬剤に頼った乳房炎の予防ができず、多くの牛に発症したこともありましたが、作業工程を見直すことでほとんど発症しなくなりました。

20戸で発足した研究会のメンバーのうち、有機牛乳の生産に漕ぎ着けたのは5戸でした。有機酪農の実施が如何に困難であったかがうかがい知れます。


図2 山田牧場の明るく清潔な牛舎(2010年2月撮影)
図3 牛の健康に留意した石川ファームの放牧(2015年11月撮影)

TMRセンターによる省力化を実現

酪農家に飼料を混ぜ合わせた栄養価の高い餌を提供するためのJAつべつの「TMR(Total Mixed Ration)センター」では、有機JAS認証用と慣行用の2系統を備え、毎日餌を必要に応じて各農家に配送しています(図4)。

津別町有機農業推進協議会では、有機農業を実施する酪農家と畑作農家の共通課題として、飼料自給率向上と輪作体系の確立を目標に畜産と耕種農家との連携に取り組んでいます。
個人経営の負担を減らし、労力面、地域資源の活用面でも、持続可能な有機酪農を目指しています。

図4 JAつべつTMRセンター(2015年11月撮影)
有機JAS認証用と慣行用の2系統を備え、各農家の必要に応じて牛の餌を毎日配送

経営が成り立ち地域が認める有機酪農に

地域で有機農業が受け入れられるようになったのは、有機農業で経営が成り立つように努力してきた酪農家が、津別町有機酪農研究会として活動していることです。そのうえで、津別町有機農業推進協議会の事務局となっているJAつべつをはじめ、有機農業者、町、道など関係団体が協力し、地域一丸となった取り組みにより、栽培面積、農産物販売額ともに増加しています。

道、町、JAなど関係機関を巻き込んでグループとして活動

「研究会では、参加者がいなくても関係機関に案内を出し続けた」と初代会長の山田照夫さん。
農家が孤立して有機酪農を始めたのではなく、関係する人脈・組織を巻き込むように努力しながら、グループとして有機酪農を開始したことが、日本で初めて「オーガニック牛乳」の生産に繋がったと思います。

※2009年12月から数回にわたり津別町を訪問・取材したことをもとにまとめました。

追伸 オーガニック牛乳は、津別町の学校給食にも利用されています。

参考文献

藤田正雄・山本毅(2016)「多様なスタイルで有機農業を推進する北海道のJA ― JAきたそらち北竜支所、JA新しのつ、JAつべつ、有機農業をはじめよう!地域農業の発展とJAの役割, 10-11, 有機農業参入促進協議会.


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