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新規参入者の経営、販売先実態 有機農業への参入のきっかけと経営状況(2/5)

有機農業への新規参入者を対象にアンケート調査を実施した結果、販路を自分で開拓し、農業粗収益、実施面積も、参入時に比べ増加していました。
しかし、経営が安定していない農家も多く、栽培技術の未熟さが課題でした。
販売先では、参入時は消費者への直接販売が多く、現在は流通業者の割合が増加していました。
11年前の調査結果ですが、実態を把握し今後の対策を立てるには有効な情報と考え紹介します。


調査方法など

調査対象および調査時期、新規参入者の概要などについては、有機農業への参入のきっかけと経営状況(1)を参照ください。
今回は、新規参入者(122事例)の経営状況、販売先などの結果をもとに紹介します。

新規参入後の農業粗収益の推移

新規参入者の参入時(平均9.7年前)と現在(2012年度)の農業粗収益の分布を示します(図2)。農業粗収益の中央値では、参入時が50~100万円で、現在は200~400万円に増加し、それでも200万円未満が36.4%いました。

図 2 新規参入者の参入時と現在(2012 年度)の農業粗収益の分布(藤田・波夛野 2017)
*印は、中央値

農業粗収益の平均では、参入時が174万円(50万円未満は32.0%)で、現在は632万円と3.6倍に増加し、有機農業実施面積の合計でも参入時の82haから現在の291haへと3.6倍に増加しました。
家族労働以外の労働力の合計は、参入時の20名(パート20名)から現在では241名(研修生45名、正規雇用40名、パート156名)に増加しました。
本人以外の家族(配偶者、子、親など)の合計は、参入時の209名から現在の269名へと1.3倍に増加しました。

新規参入後の主な販売先とその販売割合などの推移

主な販売先とその販売額の割合では、参入時は「消費者への直接販売(38.7%)」「直売所(18.1%)」「農協・生協(15.0%)」「流通業者(農協・生協を除く、20.8%)」でしたが、現在では「消費者への直接販売(31.9%)」と「直売所(15.4%)」が減少し、「流通業者(農協・生協を除く、24.9%)」と「飲食店(6.1%)」が増加しました(図3)。
その結果、現在では36.9%の農家(団体)で有機JAS認証を受けていました。

図3 新規参入者の主な販売先の販売額の割合(藤田・波夛野 2017)

価格決定の主体では、「消費者への直接販売」「直売所」「飲食店」は、参入時、現在とも農家の割合が高く、農協・生協を含む流通業者への販売価格決定の主体では、参入時は業者が、現在は農家、合意の割合が高くなりました。
販路開拓では、「農産物の品質向上への努力」が有効回答数の72.1%と最も多く、「グループ化による出荷量の安定(45.1%)」「インターネットの利用」と「直売所での対面販売」がともに35.2%と続きました。

新規参入者の経営状況と今後の意向

現在の経営状況は、「毎年、利益が出て、経営は比較的安定している」が28.7%、「利益が出る年と出ない年があるが、経営は比較的上向きである」が34.4%と、6割以上が安定または上向きの経営でした。
いっぽう、「利益が出る年と出ない年があり、経営がなかなか安定していない」「取り巻く状況が厳しく、利益が出ない年が続いている」と答えたうちの72.7%が、その理由に「農産物の収量、品質の不安定」をあげ、栽培技術の未熟さが経営安定の課題でした。
今後の意向では、「将来的には規模を拡大(多角経営を含む)していきたい」が39.3%、「規模は維持しつつ、効率性をあげていきたい」が49.2%を占めました。

新規参入者の就農実態

参入時に比べて現在では栽培規模が拡大した一方で、現在でも粗収益200万円未満の新規参入者が4割弱いました。
経営を安定し農業を継続するためには、農産物の収量、品質の不安定さの克服が必要であり、栽培技術の向上が欠かせません。
新規参入者の経営を安定させ、有機農業を拡大するには、地域ごとの条件に応じた作物ごとの栽培技術の確立が急務です。

多品目少量栽培から、品目数を減らし経営の効率化を図っているようすが、参入時に多かった「消費者への直接販売」の割合が減少し、「流通業者(農協・生協を除く)」と「飲食店」が増加したこと、有機JAS認証の割合からも伺えます。

新規参入後、子どもが生まれたり、両親を引き寄せたりすることで、家族数は参入時に比べ1.3倍に増加しました。幅広い世代が地域の住民となることは、地域社会の維持・存続にも寄与していると考えられます。

日本農業、とくに中山間地域では、小規模農家の存在は地域社会の維持・存続に欠かせません
相川(2013)は、有機専業農家が新規に参入した小規模有機農家の家族を雇用している島根県浜田市の事例を紹介しています。有機農業に携わりながら小規模農家の生活も安定し、大規模農家の経営も維持できる方法として検討することも必要です。

参考文献

相川陽一(2013)「地域資源を活かした山村農業」井口隆史・桝潟俊子編著『地域自給のネットワーク』,コモンズ,81-133.
藤田正雄・波夛野豪(2017)有機農業への新規および転換参入のきっかけと経営状況:実施農家へのアンケート調査結果をもとに. 有機農業研究 9(2):53-63.


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