商人のDQ3【49】植民地主義の行く末
「ちょっと待つでち!!」
バハラタ郊外で、にらみ合うポルトガ軍とモスマン帝国軍。そこへシャルロッテとおキクが、両者の間に割り込みます。
「シャーリーか」
「シャルロッテ、ここにいたのか」
ポルトガのバスコダ総督と、モスマンのアルスラン王。両者の視線が小さな女神官に向けられます。
「シャルロッテちゃんはアルスラン王のお友達で、バスコダしゃんにも助けられた恩があるから。この場を話し合いで解決してほしいでちよ」
自分の本名はシャルロッテで、本当はロマリア領主だとバスコダに訴えるシャルロッテちゃん。
「ロマリアの新興領主、だと?」
「彼女とは、一度ロマリアで会談した。魔王軍がロマリアを襲った後だ」
話したときに感じた教養の高さから、バスコダもただの冒険者ではないと思っていましたが。ちょっとした水戸黄門か、暴れん坊将軍です。
「これは、とんだじゃじゃ馬娘を寵姫にしたな」
「その呼び方、恥ずかしいでち」
バスコダがハハハと、鷹揚に笑います。そして赤面しつつも正面から否定しないあたりに、アルスラン王は首をかしげ。
「シャルロッテ、バハラタでポルトガ軍に捕まったのではなかったか」
「ポルトガの船がバハラタを砲撃したのは事実でちけど、ここで争ってたら魔王軍の思うツボでちよ」
両軍の兵たちも、シャルロッテとキクを見ています。一触即発の状況に、まるでゴディバ夫人のごとく現れたふたりの女性。
「それで、お前はどちらの味方なのだ」
アルスラン王の言葉に、シャルロッテは即答で。
「魔王軍の敵でちゅよ」
イシス女王クレオパトラ27世の望んだ、モスマンを含む人類諸国の団結。それを実現するために、ポルトガの暴挙をいさめてより良い方向へ導くと。シャルロッテはハッキリ宣言しました。
「こちらには多数の軍も、大砲もある。一度強硬な手段に訴えた以上、方針を変えるのは困難だろう」
悩んだ末、出した結論。ポルトガにもそれなりの事情があると切り返すバスコダ。綺麗事だけ言っても、結果を出せなければ意味が無いと。
「我がモスマンの潜航部隊も、お前たちの軍艦の下に隠れているぞ。マリンスライムの回転突撃は、その気になれば船をいつでも沈められる」
ちょ、硬い殻でドリルアタック。木造船メインの時代に魚雷があるに等しいです。海のモンスターで構成された、潜水艦のような隠密部隊。モスマン帝国恐るべし。
「今ならまだ、やり直せるでち。武力で奪うだけの植民地主義に待ってるのは、魔王軍のように排除される未来でちゅ」
シャルロッテが、バスコダの近くまで行ってじっと目を見上げます。キクも側で見守ります。考え込むバスコダ。しばらくの間、両軍が沈黙します。
「いいだろう。話し合いに応じよう」
「賢明な判断だ」
バスコダが停戦に応じ、兵に指示すると。モスマン側も矛を収めます。
「私は臆病な人間だ。その疑い深さと慎重さで、バハラタまでの航路を切り開いたが」
シャルロッテの背丈までかがんで、バスコダはそっと耳打ちしました。
「お前という『幸運の女神』がいれば、違う道も選べるかもな」
「まかせるでちよ、えっへん」
あれ、なんか歴史が変わってませんか? シャルロッテちゃんすごい。
※ ※ ※
「どうなってんだ、こりゃ」
クワンダたちが、人さらいの洞窟で盗賊カンダタをやっつけて。さらわれた人たちを一時ダーマ神殿に避難させた後、偵察にバハラタへ戻ってきてみれば。
「てっきり、ポルトガ軍と戦闘になってると思ったわ」
そこへ、マリカに手を振るシャルロッテ。象頭の杖こそ持っていますが、貴婦人のドレスに身を包んでいます。メイドさんまで従えて。おキクさんが館にあったのを応急処置で仕立て直したのでしょうか。
「バスコダしゃん、なんとか話し合いに応じてくれまちた」
「おい、ってことはオレはどうなるんだよ! な?」
盗賊カンダタはお縄になって、怪傑カンダタとアッシュ少年が見張っていました。ふたりとも、夢渡りでアバター体になって遠隔地から来ています。マリカも含めて、ロマリア残留組はみんなそうですね。
「これをいい機会と思って、心を入れ替えるんじゃな」
「許してくれよ! な?」
星降る腕輪を取り返したアントニオじいさんと、老人と思っていた相手に軽くあしらわれてしまったカンダタが涙目で懇願しています。
「腕輪のチカラに頼りすぎじゃ。身体の使い方が未熟じゃが、素質はある。アッサラームで、その鍛えたマッスルボディを活かしてみんか?」
「ありがてえ!」
盗賊カンダタは、アントニオじいさんの紹介で夜のアッサラーム新名物、プロレスラーとして再起するようです。のちにぱふぱふおっさんとの名勝負で「許せる男」として人気者になったとか。偽者呼ばわり卒業よかったね!
「シャルロッテさん! …心配しましたよ」
「アッシュしゃん、ありがとでち」
相手がアバター体だということを忘れて、シャルロッテがアッシュ少年をハグしようとします。でも、すり抜けない。
「あり?」
「ふむ、実体化の修行を積んだのじゃな」
アミダおばばが元の姿で、アッシュ少年に声をかけます。おねえさん姿を見てない相手だと、誰だか分かりませんよね。
「まだ途中だが、修行は順調に進んでいるよ」
怪傑カンダタも、飲み込みの早い弟子に誇らしげな様子。
「いずれ、僕の手で。ランシールのブルーオーブを持ち帰ってみせますよ」
「シャルロッテちゃんも、この後ポルトガとモスマンの話し合いに参加ちまちゅ。いい結果を期待してくだしゃい」
会談の結果、以下のことが決まりました。
・ポルトガは、バハラタの慣習や商習慣を尊重する。
・ポルトガはモスマンとも、誠意ある公正な取引を心がける。
・奴隷は全て自由身分とし、希望者は適正な賃金と労働条件で再雇用する。
・解放された者のうち、希望者は故郷まで送り届ける。
・強引な布教や勧誘は行わない。異教徒であっても対等に接すること。
・以上に付随する細かいことや、その他問題が起きたときは誠意をもって話し合い解決すること。
なお、おキクさんはシャルロッテ専属のメイドとして再雇用されました。本人いわく、故郷で迫害された難民なのでジパングに戻る気は無いとか。
※ ※ ※
後日。平穏を取り戻し、復興の槌音が響くバハラタの街に、さらわれたグプタとタニアが戻ってきます。
いらっしゃい。ここは胡椒の店です。
やや! あなた方は!? 僕ですグプタです。
助けていただいてありがとうございました。胡椒をお求めですか?
▶︎はい いいえ
では、差し上げましょう! お金などとんでもない!
タニア「私たちお祖父ちゃんからお店を譲ってもらったんです。
老人「本当にありがとうございました。
胡椒の店にいた戦士「お陰で買うことが出来た。ありがとうございました。
「え〜と、これだとまだ船の建造費と大聖堂の建設費に足りないんで…お店とコショウ農園ごと、買ってもいいでちか?」
「えっ!?」
それはつまり、ロマリアの資本をバハラタに投資して。街の復興だけでなく今後の発展のチカラ添えをすることを意味します。もちろん迷惑をかけた償いとして、バスコダも協力を申し出てくれました。
愛人関係なのかどうか分かりませんが、シャルロッテはその後もバスコダと会って話をしているようです。
「バスコダしゃんも、諸国連合艦隊に加わってほしいでち!」
「魔王軍に対抗するための、列強諸国の連合軍か。夢のような話だが…」
なぜか彼女が言うと説得力がある。残虐な征服者だったバスコダも、すっかり我らがシャルロッテちゃんに籠絡されてしまったのでしょうか?
アーティストデートの足しにさせて頂きます。あなたのサポートに感謝。