商人のDQ3【85】勇者の結婚式
「オルテガ様！ 結婚式の招待状ですの」
「なん…だと！？」
ここは世界樹。ムオルのテント村の北にそびえる、天にも届きそうな大樹です。科学者ルビスからの要請で、アレフガルドのユッフィー姫と共にあるミッションを遂行していた怪傑カンダタことアッシュの父オルテガ。
「夢見の技で、イメージを具現化した招待状だな」
最初は、ハトの姿で飛んできて。ユッフィー姫の腕にとまるかと思った瞬間、封蝋が使われた格調高い手紙に化けました。凝った演出ですね。
オルテガが、同じくイメージのチカラで具現化させたレターオープナーで手紙を開封すると。今度は結婚衣装に身を包んだマリカとアッシュの小さなホログラムが飛び出してきて。唐突な結婚式の告知をしました。
「父さん、僕たち結婚することになりました」
「これでオルテガも、義父さんね」
マリカが可笑しそうに笑いながら、オルテガを見ています。ユッフィー姫との不倫を疑われて、マリカににらまれたときの記憶が蘇ります。
「ハッハッハ！ 息子よ、ついにやったか」
オルテガが思わず、正義のヒーロー怪傑カンダダを演じていたときの高笑いを浮かべます。ユッフィー姫も、それを見て微笑み。
実際は、マリカが強引に決めたんですけどね（笑）。
「では、冒険者のみなさんからもお休みを頂きませんと」
世界樹の頂上付近にいたユッフィー姫とオルテガが、夢渡りで下層へ飛んでいきます。
「世界樹に挑む、冒険者の諸君！ 私は息子の結婚式に出るので、その間の試練は休ませてもらうッ！」
「もしできるのなら、その間に頂上へ到達してグリーンオーブをゲットしてしまっても構いませんの！」
オルテガとユッフィー姫が進めていた、ルビスからの依頼とは。なんと、魔王軍と戦える冒険者たちの育成でした。世界樹の迷宮！
ちなみに、オルテガはまだ覆面姿のまま人前に出ているので。生死不明の勇者オルテガを探せというアリアハン王の依頼は、まだ冒険者たちの間では有効でした。
それがきっかけでアリアハンから旅立ち、幾多の困難を乗り越えて世界樹に挑戦していた冒険者の目標は…テドンの囚人が夢の中で世界樹の頂に置いてきたグリーンオーブです。
「俺たちにも、ついにチャンスが巡ってきたか！」
冒険者たちの中には。かつて金欠だった頃にシャルロッテからアルバイトを紹介してもらい、今は一人前に成長した者たちの姿もありました。
なんだか胸熱ですね！ シャルロッテちゃんがまいた種が、ここまで立派に育ちました。
後日。シャルロッテたちヴェニス侯国に、三つ目のオーブがもたらされました。冒険者たちはシャルロッテへの恩を感じて、グリーンオーブを提供してくれたのです。金銭欲のために、私物化することなく。
無名の冒険者たちの、大金星でした！ 残るオーブは、あと三つ。
※ ※ ※
ダッチマン号の甲板に流れる音楽は、結婚ワルツ。
「勇者一行の仲間で、地元出身の娘が結婚するなら」
これくらいのお祝いはさせてもらうと、カルカスの女領主が自前の楽団を夢渡りで引き連れてきました。
「参列者の実体化なら、こちらで手配しておるぞ」
夢渡りは誰でも、無意識に夜やってることですが。精神体を実体化させるのは、達人の技。それを誰でもできるようにと、アミダおばばとマリカが、ベナンダンティの秘術を駆使して甲板上に儀式魔術をかけました。
楽団員たちも最初は面食らっていましたが。自分たちの使い慣れた楽器の感触をもとにイメージのチカラで楽器を具現化すると、いつも通りの腕前を甲板上の結婚式でも発揮します。
「領主様、ありがとうね！」
「マリカのためなら、お安い御用よ」
マリカがカルカスの女領主と話してると。演奏の様子を海賊少女マリスがアッシュの発明した携帯ビデオ端末でちゃっかり撮影しています。カワイイおばあちゃんの親心。
「さてさてぇ、かわいい孫の結婚式をしっかり記録に残さないとね」
「ちょっ、グランマ！？」
カメラを新郎新婦に向けるマリス。文明の利器に適応が早いおばあちゃんを見て、開発者のアッシュもびっくり。
「ちょっと、恥ずかしいですね」
※ ※ ※
アウロラ神官の礼装に身を包んだシャルロッテが、甲板上に仮設した祭壇で控えています。いよいよ、指輪交換の儀式です！
「こほん。新郎アッシュしゃん。なんじはマリカしゃんを妻とし、ヤンデレなときも、元気はつらつなときも末長く愛すると誓いまちゅか？」
参列者から、思わず忍び笑いが漏れますが。シャルロッテちゃんは結構、真面目なようです。
「誓います」
キリッとしたイケメン顔で、うなずくアッシュ。続いてシャルロッテちゃんが白い花嫁姿のマリカを見ます。じ〜っ。
（シャルロッテちゃんを差し置いて、みんな早く結婚しちゃいまちゅね）
その内心は、新郎新婦にバレバレですよ。嫉妬する神父役に、アッシュもマリカも苦笑い。
「新婦マリカしゃん。なんじはアッシュしゃんを夫とし、オタク趣味が理解できないと思ったときも、伝説の勇者様になった後も末長く愛すると誓いまちゅか？」
なかなか珍妙なアレンジですね。でも個性に合ってると思います！
「誓うわ」
おかしさに口元をおさえながらも。マリカもしっかり宣言しました。
「では、指輪を交換して。誓いのキスをするでち」
新郎アッシュが、新婦マリカのヴェールをめくります。そして、ふたりの距離が最後の一歩まで近付いて。
そして 伝説がはじまった…！
でも違和感ないと思いますけど。もうちょっと続くんじゃよ。
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