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商人のDQ3【79】人を食う山
サンパロ村から、山道を西へ。まずはサンタクルの街を目指し、そこからウユニ塩湖、チチカカ湖を経由してデチュ・マチュ遺跡へ。
ピサロが支配するサマンオサの街は、かつてインコ帝国の首都でクスコと呼ばれていたと。アッシュの携帯端末から、マリスが道中のガイドを買って出てくれました。
「ウユニ近くのポトシ銀山では、ピサロの奴隷にされた人々がいまも劣悪な環境で働かされてると聞くよ。それしか、まともな働き口がないんだって」
インコ出身のマリスの話に、マリカも気の毒そうな顔をします。
「インコの呪われた金銀って、いまも増え続けているのね」
「シャルロッテさんを見ていて、よく分かったよ」
山道を歩きながら、アッシュ少年が空を見上げてつぶやきます。
「魔王を倒しただけじゃ、世界は平和にならないってね」
それが、勇者にできることの限界。一般人を真に救えるのは経済のチカラであり、商人たちなのだと。お金に厳しいこの世界で。
「でも、まずは魔物たちをなんとかしないとね。無理することないわ」
マリカがアッシュの手を握ります。自分にできることから、少しづつやっていけばいいと。
「よっ、若夫婦!」
マリスも、通信の向こうから茶化してきます。
「少しづつ、ね」
マリカの手を握り返して。アッシュも微笑みを返しました。支え合う心強さを感じながら。
※ ※ ※
一日の山歩きを終えて。野営のテントで睡眠に入ったら、夢渡りの時間。サンパロ村でいったん別れて、エリクソン号に乗ったシャルロッテも船の中で寝ている頃。マリカとアッシュが夢渡りで寝室に飛んできました。まるで精神だけのルーラ。
「夢渡りで目的地へ飛ぶには、イメージさえできればいいんでちたね」
「そう、たとえ自分の足で訪れたことの無い場所でもね」
ルーラの目的地登録みたいなものです。身体が寝てる間、精神だけが抜け出した状態で連れてってもらった場所でも。強く記憶に残ってさえいれば、夢渡りでそこへ飛べます。
「エリクソン号の甲板上みたいな『乗り物』を目的地に選ぶと。それだけでいろいろな場所へ飛べますから、便利なことこの上ないですね」
アッシュ少年の指摘通り、街や村はその場から動かないのが普通ですね。
「今日はここまで進んだわよ」
「しゅごい山道でちゅね!」
マリカと手をつないだシャルロッテのアバター体が、ふたりの野営地まで夢渡りしてきました。テントも見えますが、拘束呪文シバルタを応用したと思われる植物のツタで守られています。痛そうなトゲも生えてて、これなら外敵は近寄れません。器用に外向きにだけ生えてます。
「こんな使い方もあったんでちね」
「火力はメラゾーマやイオナズンに及ばないけど、汎用性ならシバルタね」
賢者の修行を積むうちに、もともと植物の魔力に親しいベナンダンティのマリカはどんどん呪文の応用範囲を広げていました。
「それと。まだだいぶ先ですが、シャルロッテさんにもポトシ銀山を見てもらっていいですか?」
「名案ね。印象に残る場所なのは間違いないし、夢渡りの行き先に便利よ」
三人の精神は、コンドルのように山岳地帯を飛んでゆき。やがてスパニアの支配下にある鉱山街の上空へとたどり着きました。
「奥に見えるのが、グランマの言ってた『人を食う山』ね」
「マリスしゃんの昔話に出てきた、ポトシの銀鉱山でちゅね」
手前に立ち並ぶのは、スパニア様式の家々。中には、明らかに飛び抜けて豪華な建物もありました。煌々と灯る明かり、それらは全て鉱山で働く鉱夫たちの犠牲の上に築かれたもの。
「シャルロッテさん」
「アッシュしゃん?」
少年が、いつになく真剣なまなざしでシャルロッテを見ています。
「この街では、多くの奴隷たちが命を削る過酷な労働に従事させられているでしょう。いまそれを解放したとしても…」
ヒーローごっこにしかならない。彼らは職と行き場を無くすだけ。
ドラクエ3の二次創作では、商人が勇者一行の中で「自分は役立たずなのでは」と悩むお話があります。ですがここでは、立場が逆転。勇者が自分にできることの限界を悟って、無力感にさいなまれています。
「彼らを本当に救えるのは、勇者じゃない。シャルロッテさんみたいな…」
「アッシュしゃんは、やさしいでちね!」
見ると、精神体のシャルロッテが笑顔でアッシュを見上げてました。
「ホント、マリカしゃんにはもったいないイケメンしゃんでちゅ」
「ちょっ、何よ!?」
冗談っぽく笑うシャルロッテに、思わず本気にしてしまうマリカ。
「わっかりまちた! かわいいアッシュしゃんの頼みでち」
ピサロを倒した暁には。インコの民たちの復興も面倒を見ると。勇者の手を握って、商人の娘は満面の笑顔でこたえました。
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