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商人のDQ3【22】フライングな地下の面々

ネクロゴンドの山奥にギアガの大穴がある。
全ての災いはその大穴よりいずるのじゃ。

「この世界には、他の世界より渡ってきた者が紛れ込んでおる。それらが、世界の命運を狂わせたのじゃ」

 魔王軍は、この世界の者ではない。地底の大穴を通り、上の世界へ攻めてきたのだとおばばは語ります。中でも、おばばたち魔女の一族は魔王軍ともまた別の世界から流れてきた「よそ者」ゆえ、冷遇されていたようです。

「ネクロゴンド…父さんが消息を断った場所」
「おぬし、オルテガの息子か。あのバラモスにおかしな入れ知恵をした連中がおっての、勇者は奴のかけた呪いで歩くことすら叶わぬと聞いたが」

 機械の「足」を手に入れていたアッシュ少年を見て、アミダおばばが驚きます。

「アッシュしゃんは、立派な勇者様でちよ!」

 シャルロッテがアッシュ少年との出会いから、彼がいかに困難を乗り越えてきたかをかいつまんでおばばに語ります。

「にしても、バラモしゅに呪いをかけさせた黒幕って、誰なんでちか」
「ふざけた道化じゃったよ。人を食ったような口ぶりのな」

 おばばの話によれば、その者がバラモスに「古の巫女王ヒミコの復活」を進言し、魔女の一族は儀式の遂行に駆り出されたようです。

「ヒミコは降霊術、ネクロマンシーの達人でな。神話の怪物を現代に蘇らせたり、非業の死を遂げたサマンオサの勇者サイモンを『地獄の騎士』として手駒に加えて瞬く間に魔王軍での地位を固め、気付けばわしらは窓際に追いやられておったよ。それでこの塔の攻略を進言したのじゃが」

 作戦は失敗。こうなるともはや魔王軍での出世は望めず、手ぶらで帰ればそれを口実にお払い箱なり、粛清なりされるだろうと。やけ気味におばばは語ります。ですが、勇者の話にどこか楽しそうな表情を浮かべました。

「なるほど、それほどの逆境を跳ね返すのなら。魔王バラモスはおろか、奴の背後にいる大魔王ゾーマすら、討ち滅ぼす真の勇者になるやもしれん」
「大魔王ゾーマ!?」

 初めて聞く名前に、今度は勇者アッシュ一行が驚きの色を見せます。出てくるの早いよ、フライング大魔王。

「魔王バラモスは、地上侵攻計画の指揮官。大魔王ゾーマの手下のひとりに過ぎんよ」
「本当かどうか、怪しいものだ」

 話のスケールの大きさに、クワンダはハッタリではないかと疑いますが。

「彼女の話は、本当です」

 突然その場に、白衣を思わせるローブ姿の女性が現れました。とはいえ、ベナンダンティのマリカをはじめ、シャルロッテ一行には見慣れた光景です。おばばも平然としていますが、何故でしょう。

「あなた、アバター体ね」
「私は、アリアハンの科学者ルビス。カンダタに依頼して、あなた方をここへ来るよう誘導した者です。ご指摘の通り、私は地下世界アレフガルドから夢渡りで意識をこの場に飛ばしています」

 だからキミたち、出てくるの早いって。まだバラモスも倒してないよ。

「かつて世界の全てを巻き込んだ戦争が終わった後、アリアハンの民は旅の扉を封印し、辺境の小国としてひっそり暮らすことになりましたね。その後私は地底に新たな世界を作っていたのです」
「そりが、アレフガルドでちか」

 古代アリアハンの超文明ならば、あり得なくもないですが。どうにも雲をつかむようなお話です。

「ですが、あるとき突然開いた次元の裂け目から、大魔王ゾーマをはじめとする異界の魔物たちがあふれてきたのです。アレフガルドは闇の結界に閉ざされて、私の本体は石に変えられてしまいました」

 あれは想定外のアクシデントだと、ルビスは語ります。一見して神のような存在であっても、全知全能とはいかないようです。

「お前さんが、下の世界で『精霊ルビス』とあがめられてる小娘かい。正体はなんて事ない、わしらと同じ人間だとはね」
「魔女が人間…!?」

 これまで、その正体について深く考えることもなく。農耕儀礼として夢の中で魔女たちを撃退してきたマリカが、おばばの発言に違和感を覚えます。

「魔法は門外漢だった私が夢渡りの技を知り、習得することができたのも。とある魔女との交流がきっかけでした。異世界のベナンダンティたち」
「まさか…!」

 話が見えない一同の中で、マリカひとりが驚きの表情で、おばばと自分の手を見ています。

「そう、わしとおぬしは同族。夢の中でベナンダンティが戦う、悪い魔女もまた。異教を弾圧する権力者の手で悪魔崇拝と関連付けられ、その姿を歪められた、別世界のベナンダンティなのじゃよ」

 夢渡りは、ただ寝ている間に遠くの土地へ精神を飛ばすだけでなく、異世界への転移さえ可能にするものだったのです。胡蝶の夢。

「畑を荒らすのは、あたしたちへの妬みってこと?」
「そういう動機の者もおるじゃろうな。じゃが夢渡りの技を持つ者が二手に分かれて『夜の合戦』に興じることで、作物の実りを支える儀式魔術として機能していたこともまた確かじゃ」

 自分たちは、知らずに無邪気なまま同族を虐げていたのか。真相を知って肩を落とすマリカに、アッシュ少年が優しく声をかけます。

「アミダおばばさんを、ロマリアに誘ってみてはどうでしょう?もちろん、領主様のシャルロッテさんがいいと言えばの話ですけど」
「難民を受け入れるのは、アウロラしゃまの教えに叶っていまちゅ」

 間髪を入れず、シャルロッテがアッシュ少年とマリカ、そしておばばに微笑みます。一番驚いたのは、これまで魔王軍以外に居場所がなく、よそ者として捨て駒にされてきたおばばでしょうか。

「ふむ、見かけによらず器の大きい小娘じゃな」
「フリウリ村に来る魔女しゃんたちにも、話をしてみるといいでち」

 シャルロッテとアッシュ少年の配慮に、マリカも落ち着きを取り戻して礼を言いました。

「ありがとう。そうしてみるわ」


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