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商人のDQ3【63】マリトッツォと枝豆
ロマリア復興、外洋船建設、そしてヴェニス再開発。これまでに建築家の枠を超えて、シャルロッテたちに協力してくれたサクラダ大聖堂の設計者…アントニオじいさん。彼の大聖堂建設が、ピサロによるバルセナの街封鎖でいま危機に陥っていました。
街に職人が出入りできなければ、工事はとても進められません。ピサロはすでに魔王軍と深いつながりがあることは明白ですが。スパニアの国家勇者かつサマンオサの地方長官=辺境伯の地位を利用し、好き勝手放題。本国もどうやら対処に手を焼いている模様。彼をなんとかしなければなりません。
「今回の旅の目的は、大きく分けて二つですね」
【1】先日エルルとヤスケ、それにおばばが夢渡りで偵察してくれたテドン近辺の探索。テドンのダイヤ鉱山にはダイヤオーブと、プレステジョアン城が落城する際に持ち出された強力な武器防具が隠されているらしい。
【2】マリカの祖母が船長を務める幽霊船、フライング・ダッチマン号との接触。彼らは単独で魔王軍や列強諸国の横暴と戦ってきた、義侠心の強い海賊。ピサロと戦う上で、心強い味方となってくれるだろう。
領主の執務室に集まる一同。アッシュ少年が黒板にチョークで議題を書いていきます。(イメージBGM:侯国の旗のもとに)
「こんかい、シャルロッテちゃんはお留守番でち」
冒険に出たそうな顔をしながらも、それができない悔しさをこらえながらシャルロッテが一同に宣言すると。
「エジンベアが、ヴィンランドで不当に重い徴税を行っている件について。お嬢様とクワンダ様、私でエジンベア城に出向いて抗議したのですが」
まともな話し合いにはならなかったと、専属メイドのおキクさんが補足説明をします。
「このまま対立が続くと、ヴィンランドとエジンベアの間で戦争になるかもしれん。俺たちはそっちに備える必要があってな」
クワンダは傭兵らしく、両者に流れる物騒な気配を察します。
「ちょうどいい機会でちから、勇者様! リーダーはまかせるでちゅよ」
「まかされました。マリカさんとふたり、チカラを合わせて頑張ります」
シャルロッテが留守番なので護衛のクワンダも残り、今回パーティの指揮をとるのはアッシュ少年。胸を張って引き受けます。
「みんな! コーヒー淹れたわよ」
アッシュとすっかり若夫婦な印象のマリカが、アンティーク調のテーブルワゴンにコーヒーポットと人数分のスイーツを用意して、会議の場にメイド姿で現れました。おキクさんとはまた違う、ミニスカメイド服です。
「お、モスマンの魔法の豆じゃな」
心地よい香りに、アッサラームを旅した経験のあるアミダおばばも思わず頬をゆるめます。昔、アラブの偉いお坊さんが。コーヒーの起源は中東なのでした。
「あ〜、マリトッツォおいち〜♪」
一同、コーヒータイムを楽しんで。シャルロッテちゃんもご機嫌です。
「ロマリア近辺じゃ、マリトッツォって婚約者に贈るお菓子なのよ」
この菓子の起源は古代ローマにまで遡ると言われている。 マリトッツォという名前は、この菓子を婚約者に贈る習慣に由来している。この菓子は男性から女性に贈られ、プレゼントされた花嫁たちは、贈った人を「夫(マリート)」(イタリア語: marito)の俗称である「マリトッツォ」(イタリア語: maritozzo)と呼んでいた。また、菓子の中には愛する人への贈り物として指輪や小さな宝石が入っていることもあったという。
(Wikipedia「マリトッツォ」の項目より引用)
とても嬉しそうに。マリカがお菓子の由来をアッシュに語ります。
「これ、マリカさんが?」
「そうよ。男から女に贈るものだけど、細かいことは気にしない!」
照れながらも、アッシュが笑顔でマリカお手製のマリトッツォを口に運びます。
「どう?」
「うん、甘くてフワッとしてますね」
マリカとアッシュ少年、ふたりの幸せオーラが会議の場に明るく微笑ましい雰囲気をもたらします。
「マリカさぁん! 結婚祝い持ってきましたぁ!!」
「ええっ!?」
ノアニールの酒蔵の娘、エルルちゃんも会議に参加していました。隣にはなんと、エルフの隠れ里の道具屋ハティまでいるではありませんか。
「エルフの里も、あんたらの諸国連合に参加することになったの。世界は、人間だけのものじゃないからね」
原作だと、エルフたちは魔王軍と全く戦っていない感じでしたね。また、ドラクエの漫画やアニメでも出番がありません。この世界のエルフたちは、きちんと世界を守る意志を持っています。
シャルロッテがエルルと相談して、賢者用の武器としてハティに発注した不思議なカタチの剣。それは、巨大な枝豆の鞘に持ち手をつけたような珍妙なものでした。鞘が本体なので、抜刀はできません。
「名付けてぇ、エダマメソードぉ!」
「ちょっと、何勝手に名前つけてんのよ」
マリカが、不思議な剣をエルルから受け取ると。刀身からは植物の魔力を感じ取ることができました。
「見た目は剣でも、実質杖よね。それに植物の魔力を感じる」
「これなら、呪文を使う際の魔力消費を一部肩代わりしてくれそうじゃな」
マリカとおばばは、植物に親しいベナンダンティ。ハティがマリカ用に、この武器を製作した理由もすぐ理解します。
「植物を生きたまま魔法で武器に加工するの、大変だったんだからね」
「じゃあ、お手入れは水やりとお日様ね」
植物でできた、生きている剣の杖。魔力で硬化し、近接戦にも対応可能。使い手の攻撃魔力を打撃力に変換する、理力の杖に似た機能まであるようです。武器自体がMPを持っているので、使い手の魔力負担はありません。
「ありがとう、エルル。まだ正式に結婚式はあげてないけどね」
「わたしぃもぉ、ヤスケさぁんと夢渡りで参加しますぅ。一緒にがんばりましょお!」
マリカとエルルが握手を交わします。はしゃいで、手を握ったまま上下にブンブンするエルルちゃん。
「枝豆の花言葉は『親睦』『必ず訪れる幸福』よ。エルルにぴったりね」
次にいい人が見つかるのはエルルかもと、ハティも微笑みます。
「だいぶエルルしゃんと仲良くなりまちたね、ハティしゃん?」
「だってこの子、感性が人間だと思えないの。ホントに妖精みたいでね」
ハティが人間のお金での支払いを拒んだことが、逆に交流のきっかけを作りました。それに立ち会ったシャルロッテもニヤリ。
エルルの背中には、謎の羽があって感情に応じてパタパタします。透き通った蝶のような、妖精を思わせる羽。ただの人間にそんなものが生えるはずはないので、どうやらアバター変身の応用でイメージの羽を具現化しているようです。とんでもない素質の持ち主。
※ ※ ※
「では、まとめに入りますね」
会議は終始なごやかなムードで進み。リーダーを引き受けたアッシュが、黒板にメンバー分けを書いていきます。
●ヴェニス残留組:緊迫するヴィンランド情勢に備える
シャルロッテ、クワンダ、おキクさん
●テドン行き:幽霊船と接触&ダイヤ鉱山で宝探し
アッシュ、マリカ、アミダおばば、※エルル、※ヤスケ
※夜間に夢渡り、アバター体での参加
●ルビスの依頼で別行動
オルテガ、ユッフィー、聖竜ボルクス
「父さんたちは、ルビスさんからの頼みで何か動くみたいです」
またしばらく、別行動になるけど。そのときに成長ぶりを見せられるようにと、アッシュ少年が意気込みを語りました。
(やっと、この世界の者だけで旅立てるようになったか)
(シャルロッテちゃんたちは、あくまで助っ人でちからね)
かつて病弱だった少年は、ここまで立派に成長しました。いずれは、この世界での使命を終え、別れの日が来ることを。クワンダとシャルロッテは、喜ばしくも名残惜しく感じていました。
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