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商人のDQ3【75】チェックメイト

 アメリカ独立戦争は、1775年4月19日から1783年9月3日までの、イギリス本国と北アメリカ東部沿岸のイギリス領の13植民地との戦争である。

 なんと8年間も戦争やってたんですね。イギリスの植民地に過ぎなかった当時のアメリカには、まともな陸軍も海軍もありません。あったのは練度が高いとは言えず、軍服すらない民兵部隊。
 当然、海軍力で圧倒的に勝る英国相手に、アメリカ側は海上で戦おうとはしなかったでしょう。イギリス本国を攻めるなど、とうてい不可能。

 書類の上でジョージ・ワシントンが総司令官に任命されたのは、開戦から3年後。組織だった作戦行動の必要に迫られてのことでした。

 一方で、こちらの世界では大きく事情が違います。魔王軍が人類共通の敵なのに、8年もチンタラ戦争やってられません。ヴィンランド側にまともな軍隊などないのは同じですが、シャルロッテたちヴェニス侯国の後ろ盾と、マリスたち海賊勢力の助太刀があったおかげで。
 海軍力では少数精鋭ながらも、エジンベア海軍の威力偵察部隊をほとんど戦わずに追い返す成果をあげることができました。イタズラ万歳。

 なおシャルロッテは、形式上はポルトガ王の臣下ですが、最初から行動の自由を約束されています。元植民地で独立を勝ち取った国と、旧宗主国との関係に近いかも。

「ヴィンランド独立戦争に際して、ポルトガは一切軍を動かさない。代わりにエジンベアには、武器や物資を売らないと約束しよう」
「ありがとでち、バスコダしゃん!」

 シャルロッテが無邪気に、ポルトガのインド総督バスコダにハグします。この奇妙な「愛人関係」は、形の上ではまだ続いているようで。ときどき、こうして「おねだり」に行くようです。ポルトガ王もシャルロッテとの折衝はバスコダに一任していました。

 海賊同然の振る舞いをしていたバスコダの運命を、自身の機転でひっくり返したシャルロッテ。いまではすっかり性格も丸くなり、バハラタの住民とも良好な関係を築いているようです。

「バスコダ様のおっしゃる通り、お嬢様は彼にとっての幸運の女神なのかもしれません」

 バスコダの元メイドで、寵姫シャルロッテのお世話係からそのままシャルロッテ専属メイドとして再雇用されたおキクさんが、新旧の主人をよく知る立場からコメントしました。

「戦争を早期に終結させるには。エジンベア王にチェックメイトをかけて、まいったと言わせるしかないだろう」
ネファタフルみたいなゲームのことだな」

 ソルフィンたちバイキングの間では、戦士団を率いる者に不可欠な戦略的思考力を養うために好まれるボードゲームがありました。チェスとはまた、違うルールを持った独特のものです。攻める側は四方から中央の王を狙い、守る側は中央から王を四隅へ逃がす

「へぇ、面白そうだね」

 ハイランダーのクワンダと、元バイキングのソルフィンの会話を。元エジンベアの勇者だったアーサーも興味深く聞いています。

「それなら私の『クロックナイト』で陽動をかければ。エジンベア軍の注意を引いてる隙に、王手をかけられるね」

 アーサーの乗るキラーマシン・アルビオンは、名前を時計仕掛けの騎士と改められ。両肩をワインレッドに塗られて右肩にはヴィンランドのシンボルぶどうのマークを。左肩には時計の長針と短針を図案化したアーサー自身のパーソナルマークが描かれていました。

 ちょ、それ悪名高い最低野郎の代名詞です。コーヒー吹いてむせる。今のアーサーは、不必要な殺生を抑えようとする優しき勇者。
 ヴィンランドは、ぶどうの豊かに実る土地なので。ワインつながりでたまたまこんなことになっちゃいました。

※ ※ ※

「敵襲だ! キラーマシンが単機で突っ込んできた!!」
「アーサーめ、裏切ったか!」

 エジンベア城の南に位置し、奴隷の売買を含む三角貿易で栄える海商都市リヴァプル海軍の威力偵察部隊ほうほうのていで逃げ帰ってきた報を受けて、本格的に艦隊を差し向ける準備が急ピッチで進められていた矢先に。

「もう来たのか! いくら何でも早過ぎる!!」
「ヴィンランドの奴ら、少数精鋭で殴り込んで来たか」

 島国イギリスが直接攻められるのは、現実世界の歴史ではまれなことで。「ヴィンランド・サガ」で描かれたバイキングの略奪か、異世界転移ファンタジーの古典「ナルニア国物語」の発端ともなったナチスドイツのロンドン大空襲くらいではないでしょうか?

 余談ですがペベンシー家の子供たち4人は、空襲を避けた疎開先で異世界ナルニアに迷い込んだのでした。

「3倍のスピードで接近してきます!」

 あわてた水兵が、あり得ない速度で飛んでくる光の翼持つキラーマシンに大砲を放ちますが。まるでツバメのような旋回性能にあっさりと避けられてしまいます。

「港内で発砲するな! 街や味方に被害が出る!!」
「無茶してくれるね…!」

 敵に回ったとはいえ、余計な被害を出したくないアーサーが港から距離をおいて、敵艦隊を外に誘い出そうとします。

「船を出せ! 裏切り者を湾の外で叩く」

 これこそ、ヴィンランド側の狙い。陽動作戦にまんまと引っかかったとも知らず、エジンベア海軍の船が次々と出港していきます。沖に誘い出された軍艦は、深い霧に行く手を阻まれて。マリカとおばばの仕掛けたイタズラマリスの幽霊船におどかされて、あちこちから悲鳴ズッコケる物音が。

※ ※ ※

「おのれアーサーめ、国家勇者として親子で厚遇してやった恩を忘れて」

 田舎者を馬鹿にしない、心の広い王様というのは嘘だったのでしょうか。エジンベア王がはらわたの煮え返る思いで、お城のバルコニーから南にあるリヴァプルの街の混乱ぶりを見ています。

「エジンベアの王様、チェックメイトだ」

 そこへ突然、透明化を解除して姿を現したソルフィンたち。護衛の兵士も不意打ちで気絶させられたり、眠らされたり、恐れをなして逃げ出したり。
 結局最後まで消え去り草&レムオル無双でした。ソルフィンとクワンダ、ふたりの強者が相手ではまさに「詰み」。

「お、お前たちは…!」

 もはや孤立無援となったエジンベア王の前には、見覚えのある顔が三人。シャルロッテに護衛のクワンダ、そしてメイドのおキクさん。ソルフィンだけが初対面でした。

「また会いまちたね、田舎の王しゃま!」

 シャルロッテがドヤ顔で、エジンベア王の前でえっへんと胸を張ります。

「だから、ヴィンランドの人たちにムチャなぜ〜きんをかけるのやめてって言ったんでちゅよ」
代表なくして課税なし、それがオレたちのささやかな願いだった」

 面識こそないものの、初対面のこの男はヴィンランドの代表に違いない。曲がりなりにも国王をつとめる者の経験と直感が、相手の正体が誰なのかを告げていました。

「お前は、ヴィンランドの勇者ソルフィンじゃな。うわさは聞いておる」
「そうだ。オレたちはこれ以上の暴力を望まない、潔く負けてくれないか」

 漫画「ヴィンランド・サガ」の世界では、主人公トルフィンはイングランド王クヌートの近衛だった時期がありました。なんとも数奇な運命。

「ははは…まったく、わしとしたことが。若造に出し抜かれたな」

 言い訳のできない完敗。エジンベア軍は、優しい勇者たちに手加減されていたと悟り、王様も覚悟を決めます。

「分かった。わしの首ひとつで解決できるなら、負けを認めよう」


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