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商人のDQ3【29】ロマリアの休日

「ジェラジェラジェラートは、ねればねるほど…ウッウッウマウマ!」

 あみだくじの塔で、古代アリアハンの遺産を巡る争奪戦に敗れた結果。立場を失ったアミダおばばは魔王軍を抜け、シャルロッテの計らいでロマリアにやってきました。その彼女が、今ではジェラート売りのおばばとして大人気に。

「あ〜、ジェラートうまうまでち〜♪」

 シャルロッテ一行が、カルカスの職人たちやアントニオじいさんを連れてロマリアに戻ってから1週間。街として大いに発展し、闘技場やテルマエもオープンしたロマリアですが、いくさへの備えはまだ発展途上。急ピッチで防壁の建設が進んでいます。

 もちろんホワイトな職場なので、ローテーションを組んで休みもとっています。今日はシャルロッテの貴重な「ロマリアの休日」。

 いつも一緒の傭兵クワンダは、冒険者たちに集団戦闘の訓練をつけています。マリカは久々にフリウリ村へ里帰りして、今まで悪い魔女とされてきた者たちが実は別世界の同族、ベナンダンティだった件を村人に説明しています。彼女らも対モスマン帝国の戦力に組み込めれば、大きな進展です。

「アミダおばばさん、ロマリアのみなさんとも仲良くなれて何よりですね」
倒れた敵に手を差し伸べ、許すアッシュしゃんは優しい勇者様でちゅね」

 珍しく、シャルロッテとアッシュ少年がふたりきりで並んでジェラートを食べています。何とも微笑ましい光景。

(ソルフィンしゃんがお兄ちゃんなら、アッシュしゃんは可愛い弟分でち)

 もっとも、見た目の幼さから。アッシュ少年もシャルロッテのことを妹的存在と見ているのかもしれませんが。それは言わぬが花でしょう。

 一方、アントニオじいさんはというと。

「アントニオ!やっちまえ!!」
「アントニオ!やっちまえ!!」

 古代ロマリアのコロシアムを修復・改装した闘技場で、花形スターになっていました。ガタイのいいあらくれ相手に、技でもパワーでも全然おくれを取らないスーパーおじいちゃん。老いてますます盛んとは、彼のためにある言葉でしょう。

「1、2、サンダー!!」

 こんな感じで、建築現場と闘技場を行き来して。夜はテルマエで汗を流しています。ときどき、西の大陸で街づくりに精を出しているソルフィンも、シャルロッテたちの仕事を参考にするため。相方のグズリーズと一緒に夢渡りでロマリアを訪れてきますが。

「カルルセフニのソルフィンとやら、いずれ手合わせしてみたいのう」
「組んだら負けな気がする、このじいさん…!」

 ソルフィンは短剣使いで、身軽さが取り柄。対してアントニオじいさんは組み技の名手で、驚異的な打たれ強さがあります。かつてソルフィンが一騎打ちで戦った最強のバイキングも、同じタイプだったとか。

「うちにも、こんな人がいたらねぇ」
「建築のことなら、いつでも相談に乗るぞい」

 商人の街の建物も、いくつかはガウディ様式になりそうです。

※ ※ ※

 夜、夢渡りのチカラを持つマリカの助けを借りて。身体から精神だけを抜け出させ、アバター体となったアントニオじいさんがロマリアからバルセナ方面に向け飛んでいます。シャルロッテとクワンダ、マリカにアッシュ少年も一緒です。おばばはマリカと交代で、魔女たちを説得にフリウリ村へ飛びました。

「こんな便利な技があったとはの。まるでダーマ神殿の修行僧じゃな」
「みんな無意識に夢を渡っているけど、ほとんどの人は忘れてしまうの」

 夢渡りのコントロールを会得した人から影響を受けると、他の人も次々と「明晰夢」の状態に入って、まるでルーラでも使うように好きな場所へ意識を飛ばせるようになると、マリカはアントニオじいさんに説明します。

「バルセナの街は、ロマリアより西。こっちじゃよ」

 じいさんの案内で飛ぶことしばし、月明かりに照らされた港湾都市の姿が一行の目前に広がります。その周囲には、都市を包囲するモスマン帝国軍の天幕が多数張られて、即席の街を思わせる様子になっています。
 アバター体の状態では、起きている者の目には一部例外を除いて視認されません。常時レムオル状態。カルカスの女領主が「斥候の技術」と評したのもうなずけます。

「大聖堂は、無事みたいでちね」

 城壁に囲まれたバルセナの街にそびえる、サクラダ大聖堂の威容に一行が息をのみます。ですが、アントニオじいさんは不機嫌そうにぶつぶつと。

「あれはまだ未完成じゃよ。全体の10分の1もできとらん」
「西の大陸で見た、古代アリアハンの塔より大きいですよ!?」

 あまりのスケールの大きさに、アッシュ少年が言葉を失います。

「完成まで、何百年かかるんだ」
「わしがくたばっても、後世の建築家があとを継いで挑戦を続ける。それでこそ、未完の大聖堂に意味があるんじゃよ」

 クワンダはあきれた様子ですが、アントニオじいさんは全く気にもしません。老人の瞳に、西の大陸で街の建設に励むソルフィンを思い出させる輝きが宿るのを、シャルロッテは見逃しませんでした。

「男のロマン、でちかねぇ?」
「それより、モスマン帝国軍の天幕をのぞいてみない?」

 マリカが好奇心に満ちた瞳で、一同に提案します。これまで話には聞いていますが、モスマン帝国の関係者を実際に見るのは初めて。魔王の精神支配を打ち破ったモンスターたちの国とは、どんなものなのでしょう。

 シャルロッテたちは一番大きな天幕のそばに降り立つと、こっそり中へと忍び込むのでした。


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