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商人のDQ3【65】おばあちゃんはボクっ娘

「オリビアのこと、探してくれたんだね。ありがとう」

 マリカから、オリビア岬の人魚の話を聞いて。水兵服の青年エリックが、マリカに感謝を伝えます。

「けれど、ぼくはダッチマン号の航海士。ピサロと決着をつけるまで、船を降りるわけにはいかないよ」
「7年に1日の上陸以外で、船を降りる方法があるんですか?」

 不思議に思ったアッシュ少年が、ふと疑問を口にすると。

「いや、ないよ。ボクらの『誓い』を果たすまではね」

 海賊少女マリスが、腕を組んで勇者に告げます。アッシュは歩行サポート鎧があるので、バラモスの呪いの後遺症があっても。見た目は風変わりな鎧を着ただけの健常者です。

「その誓いって、ピサロを倒すこと? なら好都合じゃない」

 ピサロがバルセナの街を封鎖したせいで、勇者一行の恩人アントニオじいさんの夢、サクラダ大聖堂の建設がストップしている。その理由はたぶん、バルセナの街のどこかにある旅の扉からサマンオサに勇者が来て、ピサロが倒されるのを防ぐためと。マリカが自分そっくりなマリスに説明します。

 ロマリアとポルトガの間にあるほこらが、この世界ではバルセロナに相当する街になっています。もちろん、世界遺産サグラダ・ファミリアもある。

「いいねそれ! キミ、あのピサロが恐れるほど強いんだ」

 マリスが急に面白そうな顔をして、アッシュの顔をのぞき込みます。距離が近いし、胸の谷間が…! 当然、マリカがやきもちを焼いて。

「ちょっと、グランマ。あたしの彼氏なんだからね」

 アッシュ少年が顔を赤くしながらも、なんとか冷静に事情を話します。

「一応、夢の中で魔王バラモスを撃退しましたけど。あれはみんなの協力があってのことです。僕ひとりのチカラじゃ、ありません」

「おっと、ごめんごめん。ボクって若くて、可愛いおばあちゃんだからね」

 祖母と孫というより、双子の姉妹。呪いで年を取らないせいで、マリスは驚くほどマリカに似てました。瞳の色と、胸元のふくらみを除けば。

「改めてあいさつするよ。ボクはマリスフライング・ダッチマン号の船長で、マリカちゃんの可愛いおばあちゃんだよ」

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この作品は、株式会社トミーウォーカーのPBW『エンドブレイカー!』用のイラストとして、
イーノが作成を依頼したものです。 イラストの使用権はイーノに、著作権は遊佐まるぼろに、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。

 外見が若いのに引きずられたか、精神までも若々しく。ユーモアたっぷりのおばあちゃんです。さぞや船員たちを笑わせているのでしょう。

「だけどね、船の上じゃ『キャプテン・マリス・スワロウ』だからね」

 それが、海賊少女マリスの通り名。ちなみにスパローは英語でスズメ、スワローはツバメです。ついでに言うとマリカはアラビア語で女王マリスはラテン語で海。

「アリアハンの勇者オルテガの息子アッシュです。マリカさんと、結婚を前提にお付き合いさせて頂いてます」
「結婚式には呼んでよね、若き勇者くん」

 見た目はともかく、マリカの祖母。アッシュ少年はていねいにお辞儀をします。

「アミダおばばじゃ。元魔王軍じゃったが、そこの勇者殿に助けられての」

 モシャスの呪文なのか、あるいはアバター変身なのか。おばばもマリスの前で若い姿に変身して、対抗心たっぷりにアピールします。

「あはは、勇者様は強いだけじゃなく心も広いんだね。気に入ったよ」

 若い姿のおばあちゃん同士が、笑って握手します。

「ところで、面白い船に乗ってきたね。名前はなんていうの?」

 マリスが、幽霊船の隣に錨を下ろした大樹のマストを持つ大型船を珍しそうに見上げると。

レイフ・エリクソン号よ」
シャルロッテさんが、ヴィンランドのソルフィンさんと相談して決めたそうです」

 お船の名前は、ソルフィン号でち! いやさすがに恥ずかしいから、レイフ・エリクソンでどうだい? そんな会話があったのかも。
 この船が完成する前は、ソルフィンのバイキング船でノアニールから北米に渡ったりと。一行はずいぶん彼のお世話になりました。

「ああ! ヨーロッパ人で最初に新大陸へ到達したバイキングだよね。いいセンスしてるよ」

 マリスがポンと手を叩いて、船名の由来に納得していると。エリクソン号のほうから、夢渡りで飛んでくる人影がふたり。

「ノアニールの酒蔵『ヘイズルーン』のエルルちゃんでぇす!」
「ジパングのヤスケだ。故郷はテドンで、夢渡りで鉱山への道案内に来た」

 霧が出ている間に、夜になったのでしょう。外洋船に夢渡りしてきたエルルとヤスケのふたりも、ダッチマン号に乗り込んできました。

「いいなあ! 夢渡り。ボクら呪われた海賊は、眠ることができなくてね」

 年を取らないことは大きな利点に思えますが、それなりの代償もあるようです。夢渡りは心の癒しですから、それがないのは辛いでしょう。

「ピサロを倒す目的は同じ。可愛い孫の頼みでもあるし、めったに陸に上がれないけど、できる限りの協力はするよ。サマンオサに入る方法とかね」
「バルセナの街から、旅の扉を使う以外で!?」

 マリスの意外な言葉に、驚くマリカ。

「方法はあるけど、山越えはきついからね」
多少の岩なら、魔法の玉で砕くこともできます」

 今度はマリスが驚く番。目の前の勇者様は実力も人格も備え、力押し一辺倒でもない知恵者。彼ならと打倒ピサロへの期待もふくらみます。

「ボクらはかつて、ピサロの部下でね。新大陸の南で険しい岩山を越えて、デチュ・マチュ遺跡に入ったことがあるんだ」

 エルナン・コルテスにフランシスコ・ピサロ。コンキスタドールってほとんど冒険者みたいなものだったよとマリスが昔を語ります。それが、血塗られた悪の略奪者と呼ばれるようになるなんて。

 なんでしょうか。このシャルロッテちゃん「でちゅ・まちゅ」口調みたいな名前の遺跡は。困りまちゅぴちゅ。


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