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商人のDQ3【55】アッシュとオルテガ

「まさか夢渡りで、バラモスの呪いを無意味にされるとは。アミダおばばが裏切った時点で想定すべきでしたね」

 バラモスにオルテガの息子を呪うよう進言し、新たな勇者の出現を防ぐ。そしてモスマンの反乱による魔王軍の戦力ダウンは、いにしえの巫女ヒミコを復活させ彼女のネクロマンシーで勇者サイモンを手駒にしてカバー。ここまで順調に進んできた道化の企みに、予想外の邪魔が入りました。

「計画を狂わせたアナタを…『剪定』します」

 道化がその場で、刈り込みバサミをジャキンと鳴らせば。刃から一対の闇でできたイバラがメビウスの輪のように交差しながら伸びて、アッシュ少年を貫かんと迫ります。

「ふんっ!!」

 ところが、突然現れた覆面マントにビキニパンツのマッチョメンが少年をかばうように仁王立ちして、ボディビルのポーズを決めると。闇のイバラはガラスのように砕けてしまいました。記憶の中の怪傑カンダタです。

「お前の襲撃は、本来の試練に含まれていない。よってここは、私が助太刀しよう!」
「現れましたね、怪傑カンダタ…いえ、勇者オルテガ

 走るアッシュ少年の背後から、唐突に聞こえてきた父の名前。その驚きに少年も思わず立ち止まってしまいます。

「怪傑カンダタしゃんの正体が、アッシュしゃんのパパでちたか!?」

 これには、見守っていたシャルロッテもびっくり。

「う〜ん、今さらじゃないかしらね。正体隠す気なかったでしょ?」
「そうだな。怪しいとは思っていたが」

 マリカやクワンダは、とっくに怪傑カンダタの素性に気付いていました。いったいどこに、国家公認勇者に並ぶ強さのコソ泥がいるでしょうか。
 ファミコン版だとオルテガも、カンダタと同じグラフィックの色違いでしたね。なのでオルテガがカンダタを名乗って活動してても、違和感ありませんが…目立ちすぎました。本物より有名になるくらい。

「いずれは、話すつもりだったよ。こんな形になってしまったがね」

 正体を隠してですが、親子で修行する時間の持てたアッシュ少年とオルテガ。それは父として、わずかばかりの埋め合わせだったのかもしれません。

「勇者よいそげ!! オーブを魔王軍から守るのだ!!!」

 父の言葉を受けて、ダンジョンの回廊を再び走り出す息子。多少動揺してもそこは歴戦の冒険者です。

「これ以上、好きにはさせませんよ!」

 生半可な攻撃は、目の前の筋肉ダルマに弾かれてしまいます。そこで道化が選んだ手段は、世にも恐ろしい呪文。

「消えなさい、この死に損ないが…メアルーラ!」

 父は息子のために、どんな呪文でも受けて立つつもりでした。ですが。

「カンダタさん、避けてください!」

 あえて通り名の方で父を呼び、今まで通りの冷静さを保つ勇者アッシュ。父が見ると、息子がブルーオーブを手にして正面にかざしています。とっさにその意図を理解するオルテガ。

「いい判断だ、アッシュくん!」
「しまった!」

 道化の放った暗黒の球体は、とっさに避けた怪傑カンダタではなく。目的のオーブをしっかり抱えたアッシュ少年をどこかへ飛ばしてしまいました。

「おのれ! もうアバター体の実体化を身に付けるとは」

 肉体から抜け出た精神が形を変えたアバター体では。幽霊のようにモノに触れることは通常できませんが。身体感覚のイメージを練ることで実体化が可能でした。素質の高い者は無意識にやってのける場合もありますが、普通は訓練に時間のかかる技術です。

「このままでは済まさん! お前も消滅せよ!!」

 完全にブチ切れた道化が、不意にオルテガへメアルーラを放ちます。しかもさきほどより巨大な、回避も不可能なほどの黒き球体を。

「何ッ! ぐあぁぁぁッ!!」

 オルテガの姿が消えると、そこで急に視界がモノクロに染まって。まるで時間が止まったように全てが凍りつきました。迷宮を照らすかがり火まで。

 シャルロッテたちの前に戻ってきたとき、彼はひどくやつれていました。メアルーラで飛ばされた「悪夢の彼方」で、いったい何が…?

※ ※ ※

「夢の追体験はここまでだ。アッシュくんが飛ばされた場所から、夢渡りで彼の行き先をたどる」
「アッシュは、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 オルテガに詰め寄るマリカ。冷静さを保つためとはいえ、少し薄情なようにも思えたのでしょうか。ようやく再会できた息子なのに。

「アッシュくんは、バラモスの呪いを少しづつ克服しつつあったよ。いずれ自らのチカラで、鎖を引きちぎるはずさ」
「ホントでちか!?」

 シャルロッテも、これまでの旅で各地を回るたび秘かに呪いを解く方法を調べてはいました。ポルトガで、バラモスの呪いによって昼夜に引き裂かれたカップルにも出会っていました。

詩人「かつて愛し会う二人がよくここに来ていたのですが、あの二人はいまどこに?
「私はサブリナ。こうして恋人の事を思っています。でも夜になれば……。夜がこわい。ああ私のカルロス。
「ああ、愛しのサブリナ。でもいまはもう見ることも話すことすらできない……。サブリナを知っていますか?
▶︎はい いいえ

「では伝えてください。カルロスはいまもお前を愛していると!

「どこの神父さんに聞いてもダメでちたし、バラモしゅ本人を倒さない限り無理と思ってまちた」

 ひとり、クワンダは静かにアッシュ少年が消えた地点を見ています。

「勇者とは、血筋でも武勇でもなく。アッシュが秘めていたチカラが、もうすぐ花開くか」

 一同が顔を見合わせて、うなずきます。ここからは、未踏の魔境。



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