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商人のDQ3【60】悪夢からの帰還

 極光ゆらめくドリームウェイから、目的地へ。視界が一気に開けました。眼下に広がる大草原、そして遠くには大森林と常識外れな大樹の姿。

「アッシュ!!」

 マリカが、聖竜の背から声を上げます。視線の先には、ずっと探してきた大切な人。見たことのない兜をかぶり、光る剣を天にかざしています。刀身に流れ込む光の帯は、シャルロッテのオーロラヴェールと同じ色に輝いて。

 光の帯の両端は、アッシュと仲間たちにつながっていました。まさしく、人と人の「つながり」が可視化された光。

「あれは、ポポタに預けた兜。アッシュに託してくれたのだな」

 少し見ない間に、たくましくなった。オルテガが懐かしそうに、息子と兜を見ます。光を通じて、父と息子の間に暖かな想いが通いました。

「そんなバカなっ!?」

 勇者アッシュと対峙しているバラモスは、精神的な動揺からアンゴルマの姿を維持できなくなったのか。ジパング武者の姿ではなく、巨大なトカゲの怪物と化していました。よほどその醜い姿が嫌いなのでしょう。

「バラモしゅの正体って、あんなんでちたか?」
「魔王バラモスは、大魔王ゾーマの手下のひとりに過ぎず。しかも同じ姿の怪物が何体もいると、ルビス様から聞きましたの」

 シャルロッテの疑問に、アレフガルドのユッフィー姫が答えます。

「バラモス本人が言うには、彼はアンゴルマの征服王チンギスハンにしてジパングの勇者源義経その人らしいですが…復活の際、魂を怪物の身体に吹き込まれたようですね」

 アッシュの思念が、光の帯を通じて一同に伝わってきます。魔王軍の手で復活させられた歴史上の人物。

「クイーンヒュドラのヒミコと同じか」

 ここにいるメンバーでは、クワンダとシャルロッテ。イシスのピラミッドで遭遇したヒミコのことは、まだふたりの記憶に新しいものでした。

 アッシュ少年の後方に着陸する、聖竜ボルクス。仲間たちが勇者のもとに集いました。

「おのれ、おのれぇ!」
「来るわよ、イオナズン!」

 なかば錯乱したバラモスが、両手をかざして呪文を唱え始めます。魔法使いのマリカには、その意図がすぐ分かりました。自身の最大火力で一網打尽にするつもりなのでしょう。もう、武人の誇りはどこへやら。

「さあ、みなしゃん! 勇者アッシュに希望の光を!!」

 シャルロッテの合図でクワンダとオルテガ、ユッフィー姫と聖竜ボルクスそしてマリカが、絆のチカラをアッシュに注ぎます。
 聖竜と縁があるユッフィー、ユッフィーと縁があるオルテガ、そして親子の絆と。アッシュと直接の面識が無い者までもが「つながって」いました。

「アッシュ! やっちゃいなさい!!」
「いきます…オーロラソード!!」

 ミナデインの要領でギガソード。みんなのチカラを束ねるカギは、シャルロッテのオーロラヴェール。彼女がこの世界に派遣された理由は、この日のためにあったのでしょう。

「消え失せよ! 魔王に逆らう愚か者ども!!」

 バラモスの唱えた、イオナズンの大爆発に包まれたかに見えた勇者たち。しかしすぐに、それをはるかに上回るオーロラの爆発が呪文をかき消して、暴走する光の帯がトカゲの怪物を打ちすえ、飲み込み、聖なる炎で焼き尽くしていきます。
 そして、アッシュ少年を鎖のごとく縛っていたバラモスの呪いは。ここでついに完全に崩れ去りました。

 勇者と仲間たちの勝利です!

※ ※ ※

「ぎょ、ぎょえぇぇ〜ッ!?」

 バラモス城、玉座の間。城主バラモスが破滅的な悪夢から目覚めると、そこにはなんと。魔王軍幹部のヒミコに協力者の道化、そして魔王軍の同盟者フランシスコ・ピサロが一堂に会していました。とんだ恥さらし、公開処刑でメンツ丸潰れです。

 道化の悪夢を操る術で、全員が夢での戦いを見ていたのですから。

「貴様、我をはめおったな!」

 バラモスが目に殺意を宿して、道化をにらみます。今回の、悪夢に乗じて勇者を葬る作戦の立案者。

「いいえ。勇者たちがこれほどチカラを付けていたのを知れたのは、大きな収穫でした。この城でただ待っていたら…」

 夢渡りなら、夢の中でたとえ殺されても悪い夢で済みます。威力偵察としては上出来だと、道化が平然と切り返しました。

「なるほど。わらわはジパングの黄泉の国へ下り、死者の女王としてさらなるチカラを身につけよう」
バルセナの街を封鎖しよう。旅の扉さえ押さえておけば、物理的な手段でサマンオサに入ることは不可能。精神体でも好き勝手はさせん」

 ヒミコとピサロが、ふっと姿を消します。今回の結果を受けてそれぞれに対策を練るようです。後に残るのは、道化とバラモス。

「ぐぬぬ、この上ホワイトオーブまで勇者の手に渡れば。こうなれば手段は選ばん、エビル軍団を従えて天界にまで攻め入ってくれるわ」
「オリハルコンの武具、やはり脅威ですね。ワタシはアリアハンのどこかに眠るはずの『オリハルコンの加工技術』を先におさえておきましょうか」

 新たに動き出す魔王軍。戦いはますます厳しくなっていくようです。

※ ※ ※

 ところ変わって、ロマリア領主の館。アッシュ少年の部屋に、一同が戻ってくると。

「お前ら、何やってるんだ」

 クワンダが見ると、アッシュ少年の寝ているベッドの両脇にネグリジェ姿のマリカとシャルロッテが添い寝していて、目を覚ましたアッシュに抱きついてるではありませんか。

「ちょ、マリカさん、シャルロッテさん?」

 どうにも恥ずかしい場面を父オルテガにまで見られ、顔を赤くする少年。

「もう、心配したのよ! あんたに二度と会えないって思ったら、急に胸が苦しくなって」
「アッシュしゃんは、いますぐマリカしゃんをお嫁にしなしゃい!」

 いきなり、話が飛躍しています。これには、おばばもカカカと笑い出し。エルルははしゃいで、祝い酒の用意をする始末。

「おぬしら、若いのう」

 ふと、アッシュがシーツの中に妙な手触りを感じて取り出すと。出てきたのは青く輝くオーブに、オルテガの兜。夢から持ち帰ったアイテム!

「ブルーオーブか! 試練はこれで完了だな」

 こうして、勇者一行に初めてのオーブと、その他いろいろと大切なものが一気にやってきたのでした。


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