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【ベナンダンティ】7夜 ロックダウン

今日も日本列島に夜が来る。地球上で何が起きていようとも、繰り返される自然のサイクル。見た目には何も変わりないが、何かが変だ。

夢渡りの「蝶」たちが、宇宙に上がってこない。地球へ遊びに来た魂たちも見えない何かに弾かれる。地上へ降りていくことができない。

「マリカさん、これって…!?」
「わかんないわよ、あたしにも」

「勇者の落日」を生き延びた「運命の三人」のひとり、ミキはマリカの案内で地球を訪れていた。イーノの紹介で、ミキはある人物と知り合い。彼から夢の中でフィギュアスケートの手ほどきを受けていた。

「…ミキちゃん、遅いなあ」

ロシア某所。かつて「凍土の皇帝」の異名をとった金メダリストがひとり、スケートリンクで氷都の舞姫を待っていた。

宇宙に上がれなかった夢渡りの蝶たちは、地上に落ちてご近所をさまよっていた。世界中が見えない壁で分断され、まるで現実世界の出来事が夢に影を落としたみたいに外国へも飛べない。これでは「夢歩き」だ。

「そこのアナタ。夜の『怪物』を退治するハンターになりませんか?」

日本のどこか。東京近辺だろうか?

戸惑う地球人たちの精神体に奇妙な仮面を配っているのは、あの道化人形。おそるおそる仮面をつけた地球人たちは、それぞれが思い描く姿のアバターへと変身してゆく。

仮面は、ヴェネローンで使われる「器」の代用品だった。ただしこちらは、現実に一切干渉できない。拡張現実の夢へのパスポート。

どこかで銃声やら、剣戟やら、爆発音が聞こえる。すべて拡張現実であり、起きている人間には聞こえない。日本はいつから紛争地帯になったのか。

現実の裏側、夜の街で繰り広げられる戦闘。
それはまさに、現代版「ベナンダンティ」。

「気をつけろ、こいつ強いぞ!」
「ぐああああ!!」

誰かがやられたようだ。同時に、どこかの寝室で「プレイヤー」がガバッと悪夢から飛び起きる。幸いにもライトノベルめいたデスゲームではなかったらしい。寝不足には悩むかもしれないが。

マリカとミキが、以前イーノと対面したヴェネローンの酒場に戻ってくる。トナカイの看板が入り口につるされたその店は一同の行きつけで、名前を「白夜の馴鹿亭」といった。

「エルル先輩、来てませんか?」

ミキが店員の子にたずねるも、見てないと返事が帰ってきて。

「まさかとは思うけど、紋章院に行ってみない?地球の観測ならあそこよ」

マリカがミキに提案する。どうやら、天文台のような場所らしい。
地球に起きた異変。それは202X年春、イーノのヴェネローン追放から数年後のことだった。

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