嘘つき村の住民は自分に嘘をつく
嘘つき村の住民は、自分に嘘をつくのだろうか。
頭の体操でよくあるクイズだ。嘘つき村の住民は嘘しか言わず、正直村の住民は本当のことしかいわない。そんな厄介な相手に質問したり、嘘つきを見破ったりしないといけない。こういう仕事こそAIに奪われたい。
嘘つき村の住民は嘘しかいわない。本心を出さない。胸の内の奥深くに、上京してモデルになるという夢を抱えていても、自分に嘘をついて蓋をしている。地元の大学を出て、普通に就職して、普通に結婚して、それから…まぁ普通に暮らすんだと思う。夢なんか見たって叶うわけないじゃん。こんなこと親になんか言えないし。
父は家庭円満を演じながら外に女がいて、母はそれを知りながら家庭円満を演じている。ここは嘘つき村。本当のことを言えない村。眠れない夜を越えても、昼間は笑顔の仮面かぶる。よそ者が村に入ってきたら「ここは正直村です」と言う。たまに「『ここが正直村ですか』と聞いたら、あなたは『はい』と答えますか」とか聞いてくるやつがいる。なにそれ。意味わかんないんですけど。
家に帰る。お腹が空いているけど「ご飯いらない」と2階に上がる。「用意してないわよ」と母が答える。台所からはカレーの匂いがする。テレビを見にきた、とリビングに降り、余ったから置いとく、と盛られたカレーをまずいまずいと文句を言いながら完食する。父からは会社からまっすぐ帰ると連絡が来ていた。テレビの天気予報は明日から晴れ。傘を用意せねば。
私が東京に出たら母はどうなるのだろう。
「結局進路はどうするの」テレビに視線を向けたまま母が言う。「別に」と返すのが精一杯だった。
「そうよね」そうじゃないでしょ。「関係ないわよね」関係あるでしょ。「お母さん、別に大丈夫だから」大丈夫じゃないでしょ。
「だよね。別にお母さんどうなってもいいし」口からは嘘ばかり出る。「お母さんだって別にあんたがどうなってもいいし」だけど涙が止まらないのはなぜだろう。心と体がバラバラだ。
「嘘つき」お互い目を見て笑った。
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