演劇集団キャラメルボックス 舞台『サンタクロースが歌ってくれた』

演劇集団キャラメルボックスが、2019年5月にサマーツアーの代表作の一つである『ナツヤスミ語辞典』を上演した後、活動休止して2年半。
2021年12月にクリスマスツアーの代表作の一つである『サンタクロースが歌ってくれた』(成井豊脚本・演出。以下、本作)で活動を再開した。

これまでも劇団の危機を救ってきた本作は、活動再開を宣言するのに相応しい演目だと思う。

キャラメルボックスのファンにとって忘れられないハプニングのひとつに必ずあげられるのが、97年末のクリスマス公演における突然の「演目変更」だろう。この年、最後の公演となるクリスマスツアーで、キャラメルボックスは新作『さよならノーチラス号』を上演する予定だった。ところが本番3週間前、成井豊が突然、体調を崩す。

守本一夫著『キャラメルミラクル~演劇集団キャラメルボックスの5000日』
(TOKYO FM出版、1999年)

幸い症状は軽く予定通り新作を上演するつもりだったのだが、『緊急会議』で状況が一転する。

この会議に参加していたのは成井と(当時のプロデューサー)加藤と(劇団員の)真柴あずきと西川浩幸と「たまたま通りかかった上川隆也」(成井)。続行を主張する成井に、「無理はさせられない」と断固反対する加藤。ほかのメンバーも全員、加藤の演目変更を支持。
(略)
結局、その上川が
「サンタ(『サンタクロースが歌ってくれた』)にしましょう」
と提案して演目変更が正式に決定。

(同上)

その年の「サンタ」は、上演まで3週間しかない中での異常な集中力と、看板俳優・西川浩幸とNHKドラマ『大地の子』で全国的有名人になった劇団員・上川隆也の真剣勝負、劇団の人気者である近江谷太郎の怪演などで、当時のファンの中で1、2を争うほどの名作として記憶されることになった。
(劇団同期の上川、近江谷とも現在は退団)


そうやって劇団の危機を救ってきた本作の2021年活動再開版を観てきた。
劇場は、劇団のホーム・池袋のサンシャイン劇場。
しかも、12月24日のクリスマスイブ公演(昔は、カーテンコールで俳優が客席に降りてきて、観客全員(2階席の人にも)に森永キャラメルを手渡していた)。

久しくキャラメルボックスから遠ざかっていた(活動休止前の『ナツヤスミ語辞典』が数年ぶりの観劇)ので、ほとんどの劇団員がわからない状況だったが、全く遜色なく、作品自体の魅力・実力が証明された形となった。

ただ、やっぱり前半のオーバーアクション、オーバーアクトはちょっとやりすぎのような気がした。そう感じたのは、私が年を取ったのもあるだろうし、劇団としても活動再開で少し浮足立っていた(もしくは、祝祭のつもりなのかもしれないが)からではないかと思う。
後半、すずこ(林貴子)と芥川(多田直人)がタクシーで会話する場面あたりで重心が下がってきてからが面白かっただけに、前半のはしゃぎっぷりは少し残念に思った。
何と言うか、『ハイカラ探偵物語』自体がちゃんと伝わらず、サヨ(石森美咲)、フミ(木村玲依)、ハナ(山本沙羅)の3人がただの「にぎやかし」みたいな感じになってしまい、結果「サンタクロースが歌ってくれた」シーンがあまり印象に残らなかったり、ミツ(原田樹里)の切実さがイマイチ伝わらなかったり…

だが、とは言え、若い劇団員が奮闘していたのは、とても良かったと思った。
特に、すずこと、ゆきみ(森めぐみ)がテレビ局の屋上で太郎(畑中智行)を説得する場面は、2人の一生懸命さが伝わってきて、結構、感動した(個人的には、1997年の坂口・岡田ペアよりグッときた)。


さて、劇団を代表する名作で復活した演劇集団キャラメルボックス。
活動休止の理由を成井は、本作の無料配布リーフレットで『主に経済的な理由』と明かしている。
その一因として、一部では観客動員の減少とも報じられていた。

正直に言えば、本作の前半、若干「内輪受け」の要素が強く、新参者が取っ付きづらく、また固定ファンも付きづらいのではないか、と思った。
後半を観れば、ちゃんとした物語が展開できる実力ある劇団だとわかるのに、もったいないなぁ…と。

しかし、上述したように、今回は再開を祝う祝祭の要素が強いのだろう。
ちゃんとした物語を展開する実力があるのは、劇団員たちが良く知っている。
何故なら、2022年2月に上演される「キャラメルボックス・アクターズプロデュース」公演として、劇団員たちが『自分たちの力で公演に挑戦したい』と選んだ演目は、『ミス・ダンデライオン』と『水平線の歩き方』のハーフタイムシアター2本立て。
劇団初期の超名作『広くてすてきな宇宙じゃないか』でも『銀河旋律』でもなく、近年の落ち着いた作品であるところが、劇団員の意気込みを感じさせる。
なお、劇団としての次回本公演は、2022年のクリスマスツアーとのこと。

(2021年12月24日 @池袋・サンシャイン劇場)

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