これを書いているのは 2020年の夏だが、pha著『どこでもいいからどこかへ行きたい』(幻冬舎文庫、以下本書)というタイトルは、今年の状況を踏まえてのものではないが、今の我々の気分にぴったりだと思う。
肝心の本書の内容だが、「旅に出て、様々な出会いを経験して、新しい自分を発見しよう」などといった旅礼賛ものとは全く違う。
著者は「旅に出て、何か特別な経験をしなければいけない」などとは考えていない。
2020年は、どこかに旅に出て「珍しい経験や素晴らしい体験」をすることが、かなり難しい。旅行が制限されている今、違う視点で「旅」を見直すことが必要なのではないか。
偶然とは言え、本書はその一助になっている。
近所を散歩してみる
近所を散歩するだけでも気分が紛れたり、新しい発見がある。著者は言う。
用のない駅で降りてみる
普段、通勤や通学で通り過ぎるだけの駅。定期券だと途中下車も可能だが、実際に降りることはなかなかない。
こうして目的もなく知らない街を歩くだけで、非日常を感じることができる。そして、こうして普段降りない駅の周りを歩き回ることについて、著者はこう言う。
昔住んでた場所に行ってみる
『同じ場所で生活し続けるのにすぐに飽きてしまう』著者は、『2、3年に一度くらい引っ越しをしている』という。
そんな著者は、以前住んでいた場所に行くこともあるという。
観光地を巡ったり、特別な体験をするだけが「旅」ではない
「知らない横町の角を曲がれば、もう旅です」と明言を残したのは永六輔氏だが、本書の著者も同じような感覚なのかもしれない。
遠くへ行かなくても、「観光地」とか「名勝」と呼ばれるところに行かなくても、自分の意識で少し「日常からの距離」を離してみることによって「自分だけの旅」ができる。
そのことを本書は気づかせてくれる。
そして、著者は「旅」というものをこう考えている。
2020年夏、世界中が閉塞感や鬱屈を抱えている。
「日常からの距離」に気づき、そこに「きらめきやワクワク感」を見出しながら、「日常を少しだけやっていくこと」で何とか乗り切るしかないと思っている。
だから、少しだけ考え方を変えて、小規模な「自分だけの旅」に出ても良いのではないだろうか。
ただし、コロナと熱中症の対策は万全に。