演劇の魅力満載のミステリーコメディー~舞台『パ・ラパパンパン』

『クリスマスイブに悲しい思いなんかしたくないじゃない』
全く関係ないし、そんな意図も全くないのだろうが、『劇団☆ドロップキック』の公演名『竜馬のクリスマス』(だったっけ?まぁ、そんな風なタイトル)を見た瞬間、何故か演劇集団キャラメルボックスの『サンタクロースが歌ってくれた』(成井豊作、1989年初演。2021年12月上演予定)の「すずこ」の台詞が思い浮かんだ。
いや、正確には、来栖てまり(松たか子)が『クリスマス・キャロル殺人事件』の結末を書き上げる直前に、だ。

舞台『パ・ラパパンパン』(藤本有記作・松尾スズキ演出。以下、本作)は、大いに笑って、ちょっぴり泣ける、ミステリーコメディーだった。
その仕掛けは「演劇的手法」にある。

コメディーとは言えミステリーなので、話の展開や結末は書かない。
だから本稿は、ただの私の感想だ。

一応ストーリーを大雑把に書いておくと、売れない小説家・来栖てまりが担当編集者・浅見鏡太郎(神木隆之介。それにしても良い役名だなぁ)と共に、クリスマスイブに新作ミステリーを書き上げる、という感じになるだろう。

で、上記「演劇的手法」で言えば、てまりが書いている話に沿って、登場人物が実際に動き・喋り、そして最終的には作者のてまり自身も物語世界に入ってしまうのである。
これはもう、生で演じられる演劇でしかできない手法だ。

本作は2幕劇で、締め切りに追われた(なにせ、クリスマスイブに執筆しているくらいだから)てまりが、クリスマスから連想して名作物語『クリスマス・キャロル(スクルージ)』を思い出し、その登場人物を使って『クリスマス・キャロル殺人事件』というミステリーを適当にでっち上げたまでは良かったが、最後にてまりが、適当に犯人に仕立て上げてしまった人物が犯人になり得ないことに気付いて、1幕終了。
2幕で物語世界に入ってしまった作者・てまりが、その中で自分が犯人捜しを始めてしまい、最終的に、真の犯人に到達するのである。

冒頭に書いた私の願いは、その真の犯人に到達する直前に思ったことだ。
つまり、てまり自身が犯人捜しをする中で、登場人物(=容疑者)が皆、それぞれ事情を抱えているものの「悪い人ではない」ことが、てまり(=観客=私)に強く伝わってきたのだ。
だから、誰も犯人であって欲しくなかった。
だって、『クリスマスイブに悲しい思いなんかしたくないじゃない』。

本作、松尾スズキ演出だが、脚本はNHKの朝ドラ『ちりとてちん』や、松尾スズキ主演で話題になった『ちかえもん』を手がけた藤本有記が担当している。
しょーもない・くだらない(いずれも誉め言葉)小ネタ満載だが、松尾スズキや宮藤官九郎の「大人計画」的な「人間の根底にある悪意」のようなものがなく、だから素直なエンターテインメントとして物語を楽しむことができ、その結果(「大人計画」の公演では絶対に思わない)「誰も犯人であって欲しくない」などと純粋な気持ちになってしまったのである。

あ、悪意、あった…1幕最後の松たか子の歌。
「ありの~ままの~姿見せるのよぉ」と、日本中の女性の共感を得、勇気づけた松たか子が、それを想起させるような音楽に乗せて、感動を呼んだあの歌い方で、「自信がない私は虚勢を張るの」と高らかに歌い上げるのだ。
これを「悪意」と言わずして何と言おう。コロナ禍でなければ、大爆笑しているところだ。

この「悪意」が伏線となり、2幕途中で歌われる『リトル・ドラマー・ボーイ』(アメリカで有名なクリスマスソング。本作タイトルは、この歌詞に由来する)がメチャクチャ感動するのだ(全然違うのだが何故か、大人計画の名作『キレイ』(2000年初演)の「ケガレ」と「ミソギ」が2人で地下室のドアを開けるシーンを思い出した)。
その感動を引きずったまま、それが冷めることのないエンディングを迎えた後のカーテンコールは、クリスマスの「祝祭」に相応しい素敵なものだった。

2021年のクリスマスイブ。私はもちろんサンシャイン劇場にいる。『サンタクロースが歌ってくれた』を観るために。

(2021年11月13日マチネ。@渋谷・Bunkamuraシアターコクーン)

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