『ブラックミュージックこの一枚』 スティーヴィー・ワンダー
いまから20年前の2003年に、『ブラックミュージックこの一枚』(知恵の森文庫)という音楽エッセイを上梓しました。ブラック・ミュージック周辺の100アーティストに関する思いを記したもの。その内容を大幅に加筆修正し、ここで公開いたします。ゆくゆくは新規原稿を加えていこうと思ってもいます。よろしくお願いします。
今回は、スティーヴィー・ワンダー。
小学校高学年のころ、テレビでスティーヴィー・ワンダーのライヴ・シーンを見て衝撃を受けたことがあった。驚きと表現した方がいいかもしれない。
ソウルのソの字もろくに知らない子どもの目にさえ、指とキーボードが完全に一体化しているように映ったからだ。クラヴィネットという鍵盤楽器を弾きながら歌うスティーヴィーの指先が画面に映し出された瞬間、腕に鳥肌が立ったのをいまでもはっきりおぼえている。使いこなすというより、まるでキーボードがからだの一部になっているみたいだった。
そのとき彼が歌っていたのは『Fulfillingness' First Finale』からシングル・カットされた“You Haven't Done Nothin' (邦題「悪夢」)”だった気がする。あのころ、ラジオからもひんぱんに流れていた。
楽器のたぐいを使いこなす能力に長けているアフリカン・アメリカンは多いが、スティーヴィーの才能はさらに上の次元にあるといっていい。つまり生楽器だろうがデジタル機材だろうが、表現のために使える要素のすべてが彼にとっては肉体と同等なのだ。
しかし、それを彼が盲目であることと関連づけるってのは大きな勘違いだと思う。そりゃ多少は影響もしておりましょうが、これは明らかに才能のなせる業である。
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