ブラックミュージックこの一枚 ジェームス・ブラウン
いまから20年前の2003年に、『ブラックミュージックこの一枚』(知恵の森文庫)という音楽エッセイを上梓しました。ブラック・ミュージック周辺の100アーティストに関する思いを記したもの。その内容を大幅に加筆修正し、ここで公開いたします。ゆくゆくは新規原稿を加えていこうと思ってもいます。よろしくお願いします。
今回は、ジェームス・ブラウン。
小学校6年のころには、近所のレコード屋を覗くことが日課になっていた。どっちみち買えやしないのだが、レコード・ジャケットを眺めているだけでも幸せな気分になれたからだ。というよりも、そうするしか欲求を満たす手段がなかった。
ある日、1枚のチラシに目がとまった。新譜やらなにやらの宣伝用のあれだ。なんというかこう、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになっていた。なぜってそこには、大きくてカラフルな太い書体でこう書かれていたのだ。
ジェームス・ブラウン セックスマシーン!
下の方にはジェームス・ブラウンという男がいかにすごいかというようなことが書いてあったような気もするが、もう、そんなことはどうでもよかった。
思春期一歩手前のガキにとっては、ちょっとばかし刺激が強すぎるフレーズだったってことです。
なんだそのセックスマシーンってやつは?
き、気持ち悪いぞ!
これはもう完全に、僕が聴いてはいけない音楽なんだな。
そんな思いが頭をかけめぐった。同時に、黒人のお姐さん方が真っ暗な部屋のなかでうねうねと踊っているような、なんだかよくわからないがとてもコワい映像を思い浮かべた。ジェームス・ブラウンのレコードのなかには、どうにもいやらしく、一度入り込んだら抜けだせないような、魑魅魍魎うごめくねっとりと汚らしい世界が広がっているような気がした(想像です)。ルックスもジャングル・ブギーなジェームス・ブラウンとは、変態マスターっぷりを売りものにする三流アーティストなんだろうと思い込んだ。
なにせ子どもでしたから。
以後数年、僕が変態ジェームスを避けて通ったのはそんな理由があったからだ。
もったいないことした。
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