読了
僕は中学3年の頃から駅前の集団指導塾に通い始め、しばらくして帰りが遅くなるから連絡を取りやすくするためという理由で親が新しくケータイを買ってくれることになりました。(それまでも折り畳み式でないケータイは持っていたのですが、古かったためか電波が繋がりづらく、ほぼ機能しなくなっていました。)これはそのケータイを買ってもらった頃の話です。
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親に連れられて近くのデパートにいった僕は、auショップで取り扱い機種を確認し、高級感のあるブラウンカラーのケータイに決めました。当時は青や紫のカラーが周りで流行っていましたが、あえてシックな色にして大人な男を装いたかったのを覚えています。
参考:「Woooケータイ W53H」に新色登場――“フレンチピンク”と“アラビアンブラウン”
ケータイを購入した後、親は日用品の買い物があるからとスーパーに移動しましたが、僕はそちらについていっても楽しくはないので一人で本屋に向かいました。その頃の僕は本の虫で、いろんなジャンルの小説を読み漁っており、本屋に寄っては立ち読みを繰り返していました。
その日はホラーコーナーで面白そうな本が無いかを探しており、たまたま「着信アリ」という小説が目に留まりました。すでにシリーズ何作か映画化されているのは知っていましたがまだ見たことがなく、手にとって中身を確認し始めました。その小説のあらすじを簡単に表すと、「ケータイに自分の番号から着信が入り、それに出ると自分の死ぬ瞬間の声や周囲の音が聞こえてきて、数日後に同じ状況になって死に至る」というものでした。
我ながらホラーへの耐性は人並み程度にはあると自負していたものの、想像以上に緊張感のある展開と生々しい死の状況の記述でどんどんとストーリーにのめり込み、読み終わった頃にはだいぶ「着信」に対しての恐怖感が植え付けられていました。
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家に帰ってから買ってもらったケータイのセットアップをしたものの、その日に読んだ「着信アリ」の内容が頭から離れず、怖さのあまり結局数日間はケータイを持ち歩かない日々が続きました。本末転倒なことに、その間は塾に行くときもケータイを家に置いていっていました。
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僕の通っていた塾は全国展開している集団指導型の塾で、田舎な感じのアットホームな雰囲気があり、授業中もたびたび脱線して講師と学生達で他愛もない雑談をすることがよくありました。
その日はどういうケータイを使っているかという話題で盛り上がり、僕にもその話題が振られました。僕は普段家に置いているから今日も持ってきていないと答えると講師から「ケータイなんだから携帯しろバカ」と当たり前のツッコミをもらいました。ですが、僕としてもケータイを家に置いている理由がちゃんとあるので「本屋で着信アリを全部読んだら怖くなって持ち歩けなくなってしまった」と答えました。それを聞いて周りの同級生はウケて爆笑していましたが、講師だけは呆れた顔で
「立ち読みで読破するんじゃないバカ」
と言いました。この言葉は恩師の教えとして唯一今でも守っています。
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