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都電駅前パン教室の家


ローカル鉄道の駅と連続する空間

 都電荒川線の西ヶ原四丁目駅に直結した敷地に計画したパン教室とパン販売を営む兼用住宅。東京の路面電車は最盛期には41系統あったが、1960年代の地下鉄+自動車交通を優先する都市政策により自動車渋滞の原因となることを理由に次々と廃線となった。都電荒川線は主要な道路との併走軌道がほとんどない専用軌道が多かったことと沿線住民の存続希望が多かったことから唯一廃止を免れた。他の都市のトラムが都市の主要な商業集積地を通っていることに比べ、都電荒川線は沿線の多くが住居を主とする地域を走っていることが特徴的である。都電荒川線は沿線住民の生活に密接につながった東京のローカル鉄道である。
 過去の経緯から敷地から都電駅ホームに直接出入りすることができる階段がついており、地域の生活動線が敷地の中を通っていた。パン教室、パン販売と住居を兼ねるボリュームが相応に必要であったため、三角形の敷地に対して最大のボリュームを想定し、そこから1階部分は駅前地域に開放される空間と生活動線としての通路が快適にとなるオープンスペースを削り出すように外形が決められていった。


所在地:東京都北区
用途:店舗兼用住宅/新築
規模:木造 地上3階建 敷地面積:約80㎡
延床面積:約130㎡
設計:インクアーキテクツ
構造:KKSエンジニア
施工:渡辺富工務店 竣工:2022年5月
不動産:創造系不動産

インクアーキテクツ

建築的視点で不動産取得をサポート

 このプロジェクトは自宅とパン販売+パン教室を開業したいということでご相談いただき、土地を探すところから始まった。自宅としてのエリアの希望だけでなく、これから開業しようとされているパン販売とパン教室にとっと相応しいエリアや立地はどういったところか運営面の検証を丁寧に行った。オペレーションを行うのは基本的に奥様の一人であり、パン教室が行われている時はパン販売は営業することが出来ない。そのため毎日パン販売を営業することは無い。閑静な住宅街でも成り立つプログラムである。一方、パン販売は周辺認知を広めるためにある程度の人通りを期待したい。商店街の不動産も検証したが敷地面積、容積、建築計画と工事費、不動産取得費用のバランスが合わなかった。このちょうどバランスの良い立地はどこなのか、というポイントに絞り、不動産の探索を進めていった。
 最有力候補となった都電荒川線の西ヶ原四丁目駅に直結した敷地はその全てのバランスに一致した土地であった。駅前とは言え1日の乗降者数2,500人/日程度であり同路線の主要駅の王子駅の1/4程度の規模の小さな駅であるが、JR線の銚子駅と同程度の乗降者数であり、加えて路線利用者総数45,000人/日のポテンシャルがある。一方で敷地は三角形の不整形で、接続する道路が細く入り組んでいるため施工の難易度が非常に高い。そのため価格も周辺相場に比べ低く設定されていたが長年売買が成立しなかったと聞いている。建築計画、施工計画を検証したところ、設計の内容次第で施工性の課題は解決できることを確認した。運営面での検証、建物の設計面での検証をクリアし、その他住居としての希望するエリア、資金計画、など諸々のバランスの取れた不動産として取得に至った。


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