筍掘り 前編
初体験の筍掘り
「筍掘り、行かん?」
ブログを書き終えてぼーっとしてた私に、大家さんが声をかけてくれた。
筍は、食べたことはあるけど、掘ったことは無い。
「行きます!すぐ追いかけます!」
脊髄反射でそう答える。
スニーカーを履いて、竹林へ向かう大家さんの背中を追った。
そうか、筍も近所で取れちゃうんだな。
竹林に入ると、さっそく鍬を構えた大家さん。
地上にひょこっと出ている緑と茶色の芽の周囲を掘る。
「この辺まで来たら、あとはエイッと」
カッと力強い音の後、しゃがんで根本から折り取るように筍を確保。
ほほぅ、折れた端にピンクのぷつぷつがついてる。
これが後々根っこになる部分なのかな。
「こんな感じ。ホレ、そこにもあるからやってごらん」
鍬をお預かりして、私も筍掘りに初挑戦。
筍さんの周りの土は、なかなか固い。
竹の根なのか、他の木の根なのか、いろんなものが絡んでくる。
えいやっと鍬を振り下ろすのはいい。
問題は、それを掘り起す時のパワー不足だ。
四苦八苦しながら掘り進めると、大家さんが声をかけてくれる。
「最後は、斜面の下から上に向かって鍬を入れるんや」
ほうほう、筍さんの山裾側に鍬を入れるのね。
と理解はしたものの、この急な斜面でどこに立ったらいいものか。
迷ってちょっとキョロキョロしながら、自分の足場を決める。
よし!えいっ。
(……)
大家さんの時とは違い、「コッ」と可愛らしい音しかしない。
2~3回、山裾側に鍬を入れ、それでもうまく折れてくれない。
芽先の方から体重をかけると、ゴリッとへし折れてしまった……
「あ~、これはまだまだ、根っこはあと20cmくらい地下にあるね」
と大家さんの残念そうな声。
そんなに?す、すみません。
「ホレ、あっちにもあるから、どんどん掘ってごらん」
気を取り直して、次の筍へ。
これはなかなかに重労働だ。
そして、私、ホント体力無いなぁ。
結局、会心の1本は掘り出せないまま、4~5本掘って終了。
あーあ、なんか、申し訳ない気分。
せめてもと思い、帰り道、筍を載せたリヤカーをトボトボ押す。
「筍は掘るとすぐえぐみが出る。ほんまは掘る前に、その場で火を焚いておく方がええくらいやけどな」
ふむふむ、それは聞いたことあるぞ。
陳夫人の料理人にも描いてあった。
竹林の中で筍を蒸し焼きにして食べると、素晴らしく美味だそうな。
いつかそんな贅沢もしてみたいなぁ。
大家さんの軽トラに筍を載せて、一旦の作業はここまでらしい。
「あとで茹で上がった筍、あげるよ。今日は筍の刺身やな」
ほくほくと楽しそうにそう言ってくださる大家さん。
役立たずなのにちょっと申し訳ないけど、今日もお言葉に甘えます。
献立妄想もまた楽し
夕方、いただいた茹で筍をむきながら考える。
(お刺身と……お吸い物と……)
鰹節でお出汁をひいておいてよかった。
心の中で数日前の自分に快哉を送りつつ、献立妄想は続く。
筍は、何と言っても筍ご飯なのだ。私にとっては。
しかし、今日はまだ昨日炊いた玉ねぎ炊き込みご飯があるから。
うん、明日の朝ご飯にしよう!
そう決めて、その日の晩ご飯は筍のお刺身とお吸い物でぱぱっと済ませた。
大家さん提供の酢味噌が、筍のお刺身のコリコリ食感とぴったりですな。
お吸い物も、筍の香りとお出汁の風味がいい仕上がりになった。
時短なのに、贅沢。最高だ。
君のためなら起きられる(気がする)
ところで、私は朝が弱い。
でも、筍ご飯のためなら起きられる気がする。
むしろ、起きるために朝ご飯を素敵にゴージャスにした方がいいのかも。
(とはいえ、朝、お料理の工数をたくさんこなすのは難しいだろうなぁ)
あまりに手間が多いと、低血圧の脳みそが嫌がりそうだ。
きっと「面倒だし、やっぱりやめよう」って思って二度寝するよね。
そうならないためには……
夜のうちに仕込み、朝は炊くだけ、これだな。
夜ご飯の食器を洗い終え、取っておいた筍をトントン刻んでいく。
お味噌汁に入れようと思って買った油揚げさん。
まさか、こんな使い道になろうとは!
ホントいいお買い物したなぁ。
筍掘りの失態を取り戻すように、料理中の脳内は自画絶賛で進行する。
煮汁の配合は毎度のごとく適当。
かつお出汁と薄口しょうゆと、友だちに教えてもらった特別なみりん!
刻んだ筍と油揚げを浸して、小鍋でコトコト煮始める。
(お米くらいは明日でもいいかな……)
いやいや、朝の私の怠惰をなめてはいけない。
研ぐだけ研いで、ザルにあけるまではやっておこう。
どうせ、筍を煮るまで今晩の作業は終わらないんだし。
ちょうどいいからやっちゃえ!
ザッザッとお米を研いでいると、ひと掻きごとに水が白濁する。
2番目の研ぎ汁だけはボウルにあけて取っておく。
本日の私の化粧水にするのだ。
漫画「娚の一生」で得た豆知識、西炯子先生は偉大だなぁ。
ホントこれだけで肌には十分なのよね。
そうこうするうちに、背後からふわっといい香り。
あのみりん、ホントいい仕事するわぁ。
お醤油とみりんのあったかい湯気がキッチンをただよっている。
料理中の匂いが、すでにご馳走だ。
ますます、明日の朝ご飯が楽しみになってきた。
お米をザルにあけたら、筍さんをちょっとだけ味見。
うむ、上々!
火を止めて冷まして、お片付け。
あの香りで炊きあがるご飯を夢見て、今日は早く寝るのだ。
後編へ続く!
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