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クマノザクラの葉の塩漬け

5月の桜狩り?

「クマノザクラで葉の塩漬けを作りたいんよ」
そう言って、私を連れ出してくださったのは、毎度の大家さん。
山々の緑はまだまだ若い。
けど、桜の葉を取るには、もう遅いくらいらしい。
軽トラの助手席に乗せてもらって、山道ドライブ。
時折、目に飛び込んでくる、藤の薄紫や山つつじのピンクが綺麗だ。
車が止まり、どうやら採取現場に着いた模様。
ん?
ここは見覚えがあるかも。いつだったかな……
って、今年の春じゃん。

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川沿いの桜、綺麗だなぁと思ってたら、これ、クマノザクラだったのか!
ちなみに、クマノザクラとは、数年前に発見された桜の新種だ。

でも、最近、品種改良でできあがったとかではない。
昔からあるけど、誰も品種を調べたりしなかった、ということらしい。
その辺も、熊野の人たちの大らかさなんだろうか。
ソメイヨシノより早めに咲くみたいだけど、ぱっと見、違いはわからない。
でも、今のところ、熊野でだけ発見されているようなので、これをお土産品等に活用できないかというのが、大家さんのアイデアだった。

ずんずん進む大家さんの背中を追って、川沿いの岩を昇り降り。
白がかった岩は、大小さまざま。
お借りした長靴が慣れなくて、おそるおそる一歩ずつ歩く。
「あれやな」
立ち止まる大家さんの指さす先。
向こう岸に生えている桜の木は、水の流れの上へ枝を伸ばしている。
少し大きめの岩へ登って、上空へ手を伸ばす大家さん。
おっとっと。
見てるこっちがバランスを崩しそうになっちゃう。
大家さんが枝を落とし、私が受け取る役。
切れ味するどいナイフで、若い枝を4-5本落として、採取完了。
これを持ち帰って、塩漬け加工するのだ。

葉っぱを取るだけ、でも、ちょっと一苦労

大家さんの仕事場の作業場をお借りして、さぁ、やっちゃうぞ~。
お知り合いのホテルの社長さんから、教えていただいたレシピ。
ちょっとアレンジして、10%の塩水でやってみることになった。
「その辺にある鍋とか、適当に使ってやって」
はいはい、遠慮なく~。
通販の対応で大変ご多忙の大家さんは、一旦、離脱。
桜ちゃんは私にお任せいただいた。
うぅ~、お土産の試作用とはいえ、ちょっと責任プレッシャーを感じる。
がんばっていきましょう。

ええと、手順は……。
まず、枝から葉っぱをぷちぷちと取りはずし。
沸かした鍋の湯にくぐらせてから氷水に漬ける。
その後に10%の塩水につけて。
その塩水は、葉っぱについた水分で濃度が下がる。
だから、さらに別の10%塩水で本付け、と。
ふむふむ、結構、手の込んだ作業になりそうだ。

ばっさり落とされた枝から、該当する葉っぱちゃんを手で取っていく。
いただいたプリントアウトのレシピには、
「固すぎず柔らかすぎない葉っぱを選びましょう」
という、初心者には大変、難易度の高い選定基準。
うん、すみません、その辺は適当で。
虫食いや欠けがなくて、適度な大きさのものってことにしよう。
(しかし、適度な大きさって何だ……?)
桜の葉と言えば、やっぱり桜餅だろう。
でも、お餅に巻くには、少し小さめの葉っぱが多いな。
よし!
できれば桜餅、小さければ手鞠寿司にちょん。
そんなイメージで、葉っぱを探していこう。

(……)

それは、中々に果てしない孤独な作業だった。

と思っていたけれど、気のせいだった、たぶん30分くらい。

しかし、緑に埋もれながら、葉の選定をするというのは、目が疲れるような、目にいいことをしてるような、不思議な気分。
(まぁ、急ぐでもなし、ぼちぼちやりましょう)
人生などに思いを馳せていると、いつの間にか取り終わった葉っぱ。
さて、お湯を沸かして、氷水と塩水を作って、と。
さぁ、お楽しみ。
緑、翠、みどりのお時間ですよ!

さぁ、葉っぱを茹でるのだ

付け根わずかに残した赤い茎と、いろいろな緑色をした葉っぱたち。
わしっとひとつかみして、もくもく湯気のお鍋へ。
(おお、やっぱりお湯をくぐると、緑がさらに美しい!!)
などと、感動しているヒマはないのだ。
つぎつぎ掬って、氷水へ逃がしてあげねば。
お箸でざざざっと掬っていく。
お、なんか、楽しくなってきたぞ。
この楽しさ。
なんだったっけ……そう……これはきっと……

しゃぶしゃぶだ!

その発想がパワーになって、箸はぐんとペースを上げた。
だって、しゃぶしゃぶだと思ったら、つい考えてしまうじゃない?
(これがもしお肉だったら……)
ひと掬いで5枚、いや、10枚ものお肉をさらう。
そんなリアルしゃぶしゃぶでは、けして許されない禁断の行為。
今日の私は、誰憚ることなく、それをやっちゃっていいのだ。
いや、葉っぱですけどね。

そして、私は葉っぱしゃぶしゃぶマシーンと化し、黙々と作業を続けた。
左手は葉っぱを鷲掴み、右手の箸は鍋の葉っぱを氷水へ。
氷水の葉っぱをまた左手が鷲掴み、水を切って塩水へ。

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(……)

それは、中々に果てしない孤高の作業だった。

まぁ、それも気のせいで、たぶん1時間くらい。

全ての葉っぱを塩水へ漬け終わり、一旦、ひと息。
ふぅ、12時も回ったし、お昼休憩といきますか。

試作と称して趣味ご飯

作業場からてくてくと自宅へ戻り、直行したのは冷凍庫。
そう、ここには先日の筍ご飯がご存命なのである!

となれば。
(やはり、アレを試してみなければなるまい)
ある決意を胸に秘め、レンチンした筍ご飯を小分けに握る私。
小さめの丸いおむすびにして、タッパーにころころ詰めていく。
はやる気持ちで作業場へ戻ると……

ほい!

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そうです、これがやりたかったの!!
クマノザクラと筍ご飯の手毬むすび。
なんか、素敵な春っぽい。
思わず、いろんな角度から見ちゃう可愛さ。
(いいねぇ、ほら、こっち向いて)
写真を撮ってみたら、まだつややかな緑が映える。

さ、ひとくちでいただいちゃいますよ~
「いただきます!」
ぱくりっ。

葉っぱだけで味見した時は苦み先行だったけど、ご飯と一緒なら違う。
(ホントは筍ご飯に海苔を使いたかったけど、無かったのよね)
でも、桜の葉も悪くない、悪くないぞ~。
なにより、この見た目、この食感。
葉っぱをぷちっと噛み切って、甘うまご飯と一緒に味わうのだ。
塩漬け保存した後には、きっと、この色は出ない。
だから、この彩りの贅沢は今だけ。
そう思うと、余計に美味しく感じる。

この後まだまだ、本漬けと真空パック詰め作業があるけど。
もぐもぐしてると、そんなことも忘れてしまいそう。
この一瞬の幸せ。
たったひと口で飛び去る儚い幸せ。
ああ、いい春だなぁ。

桜狩りに連れ出してくださったアイデアマンの大家さん。
数日前に筍ご飯を冷凍保存した私。
クマノザクラという品種を発見なされた誰かさん。
みなさんにも、このたべびとの幸せが届きますように。
「ごちそうさまでした!」

◆オマケ:クマノザクラについて◆
気の長~い話ですが(笑)
来年のクマノザクラに興味を持ってくださった方はこちらもご覧ください。
クマノザクラとヤマザクラの違い、各スポットの開花情報など、まとまっています。
可愛いイラストを見て首を長~くしてお待ちください。


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