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熊野比丘尼の熊野紀行-熊野の入り口編-

本命の熊野紀行、第1弾!(何弾まであるんだろう? 笑)
このシリーズを始めるにあたって、「熊野は捉えどころのない聖地だ」と書きましたが、わかりにくさのひとつとして「熊野エリアの入り口は複数ある」ということも、挙げられるかもしれません。
そこで、熊野紀行は、まず、入り口編からスタートしたいと思います。

熊野初心者の三択

多くの方にとって、熊野旅の始まりは海の近くになります。
紀伊半島では、空港も鉄道の駅も海沿いにあるからです。
初めて熊野にいらっしゃる方は、だいたい以下の三択から旅の起点を選ぶことが多いと思います。

A.メジャーな古道ルート(中辺路)を歩きたい 白浜空港や紀伊田辺駅から、古道入り口までバスで向かう。
B.有名どころを短時間に見て回りたい ⇒那智の滝へのアクセスの良い温泉地、紀伊勝浦を拠点にする。
C.ともかく熊野本宮大社を目指したい ⇒東京・名古屋方面からは、新宮駅からレンタカーやバスで向かうのが便利。

上記はそれぞれ、紀伊半島の西側(白浜・紀伊田辺)と東側(紀伊勝浦・新宮)で、紀伊半島に入るまでのルートも異なります。
熊野のどこへ行きたいかによって、例えば、東京からであれば、東海道新幹線を名古屋で降りるか、新大阪で降りるかも変わってくるわけです。

ただ、私はひねくれ者でして(笑)、標準ルートでは飽きたらないのです。
そのため、ご縁あって私と熊野旅をご一緒した方々には、例え熊野が初めての方でも、大抵、上記の三択以外のルートをお勧めしています。

私のお勧め “花の窟”からのスタート

私がよく、熊野旅の入り口にしているのが熊野市駅と花の窟です。

D.奥熊野で日本古来の信仰の地を辿る⇒熊野市駅からレンタカーor周遊バス

東京から行くと、名古屋で特急南紀に乗り換えてから約3時間、C.の新宮駅よりも一つ手前に熊野市駅があります。
私が熊野で最も魅力的だと思うエリアは、和歌山と三重と奈良の県境付近にあるため、東京から向かうと必然、三重県の和歌山県境付近からスタートすることが多いのです。
熊野市駅からは、市内の世界遺産スポット等を巡る周遊バスが出ています。
200円で1日乗り放題、温泉などにも停まるので、レンタカー無しの方は便利です。

花の窟だけならば、駅から歩くこともできます。
熊野市駅から歩くこと10~15分で、こんな感じの鳥居が見えてきます。

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ちょっと、異界の入り口みたいでしょ?(笑)

イザナミの墓所 "花の窟”

ここは“花の窟”、イザナミの墓所と言われる磐座(いわくら)です。
日本の島々を生んだ二柱の神さまイザナギ・イザナミの伝説は、古事記にも載っていてご存知の方も多いのですが、「イザナミのお墓」なるものが存在していることを知っている方は多くないのではないでしょうか。

伝説では、火の神カグツチを産んだ時に、イザナミは女陰の火傷が原因で死んでしまったとされています。(産褥で亡くなった比喩という説もある)
妻が亡くなったことを悲しんだ夫のイザナギは、生まれたばかりのカグツチを斬り殺してしまいます。
ですので、この゙花の窟“には、カグツチも一緒に祀られています。
゙花の窟“の宮司さんによれば、その後、イザナギが妻を黄泉の国へ追いかけて行った時、暗がりを照らすために、殺した息子の力である「火」を使いました。これが、この世で初めての「火」の使用になったそうです。強い悲しみのあまり、自分の手で息子を殺してしまったイザナギですが、明るく温かい「火」をその手にした時、妻と息子、本当はどちらも愛していたことを知ったのかもしれません。

初めて訪れた時には、なぜこんなメジャーな神さまのお墓とも言われる場所が、どうしてこれほどまでに知られていないのかと、本当に驚きました。
私が知らなかっただけというのもあるのですが、世界遺産登録スポットにしては人が少ない。
というか、その頃は観光客がほぼ居なくて、大変に静かな場所でした。
最近は、PR活動が実を結び、少しずつお客様も増えてきたようです。
国道沿いで、お隣の道の駅「お綱茶屋」に素敵なお土産がたくさんあることもあり、大型の観光バスで寄られる方々も出てきたみたいですね。
(余談ながら、お綱茶屋の大内山ソフトクリームはマストです!)

「 花の時には花もて祭る 」お綱掛け神事

この“花の窟”では、日本書紀に書かれたのと同じ方法で、今もお祭りを行なっています。
お綱掛け神事と呼ばれるこのお祭りは、年2回、2月2日と10月2日にあって、誰でも参加できます。
私がお邪魔した時は、こんな感じでした。

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お祭りの開始は10時頃ですが、少し前(9時ごろ?)に伺うと、神事のお綱にお花を1輪ずつ挿すことができます。
地元の方のお話では、参拝する人自身が花を持参するのが本来だそうですが、私はその場に用意してあったお花を挿させていただきました。
ふらりと来た観光客にも優しいですね。
敬意と祈りを込めた、自分のお花を持って行けたら、それもまた素敵かもしれません。

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神事の核になるのは、ご神体の岩にお花の付いた新しい綱をかける「お綱かけ」、お祭りに参加した人たちみんなで、お綱を海沿いの浜まで引っ張って、大回りしてかけていきます。
私は、早々に離脱して様子を見ていたら、地元のガイドさんがいろんなことを教えてくれました。
偶然に隣り合った人と生まれる会話も、「ムスヒ」の神の地である熊野らしい楽しみ方。
お祭りの華やいだ空気と、古くから伝わる神事の不思議さ、なぜだか耳に入ってしまう情報の数々、いろんなものが一度に味わえる、面白いお祭りなのです。

今年2020年の2月2日は日曜日なので、お勤めの方でも参加できそうですね。
(今、気づいたけれど、日付が2020/02/02というシンメトリーに!)

もしご興味を持っていただけたら、これを機に、熊野旅の入り口として、花の窟へぜひお出かけください。

★おまけ:リアル忍者を見たければ、2月6日に新宮へ行くべし!

初心者の三択で挙げた、C.の新宮でも2月に面白いお祭りがあります。
すっかり日も暮れて真っ暗な中、たいまつを持った男性たちが、超絶に急な石段をダッシュで駆け降りる、クレイジーな神事、“お燈祭り”です。
開催は毎年、2月6日。いつもは静かな神倉神社もその日だけは、「下り竜」とも「火の滝」とも言われるたいまつの明かりを撮るために、多くのカメラマンが鳥居の前で待ち構えています。
多くの方は、一段一段、足元を確かめつつ降りて来られますが、1番乗りの方や最初の10名くらいは、本当に忍者のような機敏さで駆けおりてきますので、必見です。

こちらは男性だけのお祭りなので、神事の会場となる神倉神社は、当日の午後から女性は入れなくなります。
でも、石段のふもとから、駆け降りる男性陣を見ているだけで、十二分に楽しい!
寒い中でお祭りの開始を待つ間、ふもとの女性陣のおしゃべりも弾みます。
できれば、お祭りの前後に、神社の石段をご自身で登ってみてください。
あの石段を夜の暗がりの中で駆け降りることがどれだけクレイジーか、実感いただけます(笑)

お祭りの翌日、早朝の参拝も素敵ですよ。火で浄められた後のせいか、いつも以上に気持ちの良い道になっている気がします。

男性で、お燈祭りが気に入られた方は、来年はぜひご自身で走り抜けてみてください。
毎年、県外の参加者も、結構いらっしゃるみたいですよ。
目指せ、リアル忍者!


2020年1月30日

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