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【思い出】入学式で殺害予告された話

私が中学校に入学するときの話です。

私は離島出身で、その離島には中学校が一件しかありませんでした。

入学するのは小学校から知っている同級生たちばかりで、小学校の延長のような感覚がありました。

一見すると「なんだ、すごい安心だね」と思うような環境です。

実際に、この学校には子どもの個性を尊重するような雰囲気がありました。

例えば。

制服を着崩す人ばっかり。

制服を着てこない人すらいる。

テスト用紙を紙飛行機にして遊ぶ。

飛んでいった紙飛行機は、輝かしい未来に希望を抱く若者のように、どこまでも羽ばたいていったといいます。

そんな中学校の入学式。

私たちは体育館に集められ、入り口で入場を待っていました。

周囲の同級生たちは、投獄される囚人よろしく、顔を蒼白にさせていました。

それもそのはずです。

私が以前「中学校の体験入学」に来たときには、おもちゃのナイフをお腹に刺されましたし、道ばたですれ違ったときには「ゴラァ!!」と脅されたこともありました。

いずれも、怯える姿を見た先輩は「ギャハハ」と笑っていました。

そんな人たちとの生活が始まるのです。

いっそのこと、動物園に入学したいと思いました。

キリンやゾウの優しい目を、何度も思い出しました。

そんなことを考えていると、突然入場のBGMが体育館内から聞こえていました。

しばらくすると、先頭に立っている先生が入場していきました。

同級生たちもゾロゾロと後に続いていきます。

私は強ばった筋肉に「うごけ、うごけ」と命じながら、少しずつ歩き始めました。

玄関をくぐると、正面に大きな空間が広がりました。

正面には「入学式」という看板が、ゴシック体で吊り下げられていました。

見せしめにされてる?? と思いましたが、そんなことはありません。

そして視線を下げると、何百もの「眼」がこちらを見ていることにも気がつきました。

私はギョッとました。

虚ろな目をした先輩たちが、じっとこちらを見つめていたのです。

その見定めるような目とは裏腹に、彼らは両手で乾いた拍手をしていました。

奇妙なギャップに一層の恐怖心を感じながら、この先輩の間を通っていかなければならない運命に絶望しました。

まあでも、友達もいるし大丈夫だろう!

私は気分を切り替え、前後にいる友人の陰に身を隠すように歩いて行きました。

背を縮ませながら先輩の間を通っていると、ふと一人の先輩がこちらを見ていることに気がつきました。

その先輩は、じっと私の方を睨んでいました。

彼は鎧を着ているかのような体格で、顔の彫りは深く、眉間にしわを寄せていました。

あっこれヤバい。

私は本能的に顔をそらし、顔を強ばらせました。

しかし、私の足は前へと歩き続けています。

その恐怖の先輩にどんどん近づかなければなりませんでした。

何事もなく過ぎ去ってください・・・

私は激しく高鳴る心臓を抑え、その人の真横を通りました。

その時、私だけに聞こえる声で、彼は言ったのです。

「おい〇〇、お前殺すからね」

キ――――――ン!!

極度の緊張で張り詰めた糸が、ちぎれる音がしました。

ついでに大切な何かもプチンプチン! と千切れ、全ての音が聞こえなくなりました。

入学式からこれかい・・・

私は、この先訪れる楽しい学校生活に思いを馳せました。


その後の学校生活といえば、特に不幸なことはありませんでした。

先輩からも特に暴力を振るわれることもありませんでした。

それもそうでしょう。

私は「先輩を刺激しないこと」を第一優先事項とし、温厚に、平静に学校生活を送ったからです。

ここで、私の社会性スキルは培われたといっても過言ではありません。

どのような悲しい過去からも、人は学べるのです。



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