【思い出】映画館でじいちゃんと恋愛映画を見た話
私が中学生の頃の話です。
私は小さい頃から映画を見に行くという習慣がなく、映画に全く興味がありませんでした。
それもそうでしょう、私が住んでいた島には映画館はなく、映画館に行った経験すらほとんどないのです。
年に一度おじいちゃんの家に遊びに行くときに、「暇があれば見てやるか」くらいのなんとも無関心で尊大な態度をとるだけで、映画とは何の接点もない生活をしていました。
しかし、私と映画の距離が近づいたのは、ある夏の日のことです。
私とじいちゃんは、何かの頼み事をされ、二人でショッピングモールに買い物に出かけていました。
私の島には当然ショッピングモールなどありません。
あり得ないほどの広さ、明るさ、喧しさ、眩しさに圧倒され、頭がクラクラする私。
あまり時間が経たないうちに、行き交う人々のキツい香水の匂いにトドメ打ちされ、もはや体力は尽きてしまいました。
ボコボコと沸騰しそうな頭を抑え、ゆっくり深呼吸をしつつ、どこかで少し休憩したいとおじいちゃんに頼みました。
おじいちゃん自身もド田舎の出身でしたので、私の気持ちを簡単に理解したのでしょう。
かすかな笑みをたたえ、「それじゃあ映画館にでも行こうか」と私に言いました。
さすがおじいちゃん。
疲弊した孫を映画館で休憩させる選択肢をとることができるとは、あっぱれです。
映画館はゆったりと座ることができるし、何といっても薄暗い。
すなわち、休憩スポットとしては最高の環境なのです。
ああ…ありがたや…
祖父…愛…
私には特に見たい映画もありません。
この時間ちょうどに上映する映画を適当にピックアップし、チケットを二枚買いました。
上映まで時間があったので、到着したときには座席はガラガラで居心地がよく、ゆったりと一息つくことができました。
休憩したら、さっさと帰ろう。
のほほんとした私は、これから自分の身に降りかかる災難を、未だ理解してはいませんでした。
上映の5分前。
入口側からどんどんとお客さんが入室してきました。
驚いたことに、なんと中学生から高校生までの女の子ばかりで、男性の姿はほとんどありませんでした。
私の横を通過していく若い女性たち。
馬鹿でかいストロー付きのドリンクを片手に、バチッと決まった服装をひるがえし、続々と歩いて行きます。
え?
完全に女の子集団に囲まれ、理解が追いつかないうちに早速上映が始まりました。
胸が動揺と緊張でバクバクと高鳴り、じんわりと汗がにじむ中、ようやく始まったスクリーンに映し出されたのは「きゃぴきゃぴ恋愛話」でした。
時、既に遅し。
「虹色デイズ」というタイトルに多少の違和感は感じていたのですが、本当に恋愛漫画だとは思っていなかった私。
展開される物語への圧倒的な興味のなさと途方もない場違い感から、「一秒でも早く逃げ出したい」と心から思いました。
しかし、始まってすぐに退出すると明らかに目立ちます。
今はまだ機ではない。
死んだような表情でタイミングを伺っていた私でしたが、どんどん物語が加速していき、周囲からは「きゃー!」という歓声すら上がるようになりました。
私は己の死期を悟ると同時に、隣で熟睡する祖父を心からうらやましく、妬ましく思いました。
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