「トム・アット・ザ・ファーム」

グサヴィエ・ドラン監督の作品。

ただのホラー映画ではなく、家族愛・同性愛を深く描いた作品。

死んだ弟と、兄、トムの愛の交差が直接的な表現はなくとも絶妙に描かれている。

例えばタンゴを踊るシーン。兄とトムで踊るシーンが映画では描かれている。基本的にタンゴは男女で踊るものであるが、トムは女性役の踊りを完璧にこなした。ここで矛盾が生じる。

この前に女性用の衣装を誰かに渡しそびれた話を兄がトムにする。きっとそれは弟のことだろう。となると、兄が男性役、弟が女性役で踊っていたことになる。

だが、弟と恋愛関係になったトムが踊れたのは女性の踊り。となると弟は、兄と踊っていた時は女性役、トムと踊っていた時は男性役で踊っていたこととなる。弟には家を出てから、あの事件からなにかしらの心境の変化があったのだろう。この説をさらに強めるのがお母さんの発言。

弟はこの家を出る時は長い綺麗な髪だったのに、一度だけ返ってきた時は短髪になって帰ってきたと。

母親はここからも微妙な弟の気持ちの変化を感じておりただの死ではないことを予感させる。何がその気持ちに変化を付けたのか。

また兄とトムは同じ部屋でねとまりするが段々とベッドの距離は近くなる。弟の気持ちの変化によって、その違う時期に接した二人が恋愛関係を持っていく。切ないようで微妙な関係を描く技術の高さを感じる。

ここまで考えると、バイセクシャルである兄が女性を抱くシーンでは、トムは何に嫉妬していたのだろうか。

さらに最後には、彼らの家族愛が垣間見える。彼らは守るべきものを守り町で現在のような立場に追い込まれていたのだ。そうなると街を出ていき、髪型も気持ちを変えた弟に対する兄と母親への気持ちには怒りも含まれているのかもしれない。その怒りを感じつつもまだそこに愛を感じるトムは、この家族に惹かれていく。決してただサイコパスを描いた映画ではない。

こういった背景を読み解くと、最後トムは戻ったのかまっすぐ進んでいったのか少し違って見えるのではないだろうか。

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