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やさしい 顔/Gentle face
「僕の顔ってやさしいの?」
と、大きくなった子に聞かれ。
え。突然になに。そう思うの??
と、返したら、
「自分では全然わからない。でも、そう言われるんだ。どこでも必ず、誰かから。だから不思議で。これがやさしい顔なのかな?と思って聞いた」と、言う。
現実を生きるがゆえに。
この子が生まれて離れるまでに、わたしたちは7回引っ越した。
違う土地。違う人々。
自分はなんにもしていない。なのに「やさしいね」と、みんなが言うから、それが不思議だったのだと。
そうなんだ。そうだったの。知らなかった。
考えたこともなかったけれど、そう言われてみてみれば、確かにこれは、やさしい顔だ。
・・・
そして、記憶をたどってみれば。
このことには覚えがある。
すっかり忘れていたけれど。
あれは寒い吹雪の翌日。
この子が生まれてきたときに、わたしのすべては空っぽだった。
それはちょっと危ういことで、そう本能が知っているから。まっさらなまま、目に留まった本を開けたのだ。
「情緒もめちゃくちゃだし、人間関係にも妙にクールでね、いろいろちゃんとしてないけど……やさしい子にしたくてね、そこだけは必死に育てたの。あの子は、やさしい子なのよ」
そうなんだ。そうかそうか。そうしよう。
そう思った素直なわたしは、ただただまっさらなこの子の上に、そのまますっと、その言葉をまいたのだ。
まっさらゆえの、浸透圧よ。
白雪に一滴の血がすい込むように。
鮮やかに。
そんなこと、もちろん意識になかったけれど。
大きくなったその子が「やさしい」を言葉で発したことで、ずっとどこかに埋まっていた、その場面がくっきりと再生されたのだ。
ああ、わたし。
ごめんなさい。思いっきり覚えがあるわ。
あのときのわたしたちは、「まっさら」の二乗状態だった。
いま、生きてきてみて思うけど、
あんなに染み込む状態は、人生の中にそんなにない。
刻印は消えない。
ただひとつだけなにかがあれば、人は存在ができるから。
わたしはそれを「やさしい」にしようと確かに決めた。
誰にも言わなかったけど。
決めるって呪いだけれども。
だからこそ、か?
それはしっかりと作用した。
Truth,
I surely gave the command just once.
I completely foget it.
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