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オーバーライドを理解しよう

マスターオブジェクトのオーバーライド

マスターページ(InDesignでは、バージョン2022以降「親ページ」と改称)は、DTPソフトで欠かすことができない機能のひとつです。柱やノンブル、背景の地紋など、複数ページで同じように使われるオブジェクトをひな型のページに配置して管理するというこの仕組みは、共通オブジェクトの配置を自動で正確に行えるというのが最大のメリットです。

マスターページに置かれたオブジェクトは、そのマスターページが適用されたドキュメントページにも、同じ位置、同じ形で表示・印刷されます。ただし、そのオブジェクトをドキュメントページ上で動かしたり編集したりすることは基本的にできません。マスターページ上のオブジェクトはあくまでマスターページで管理されているからです。

とはいえ、マスターページに置かれた共通オブジェクトを、特定のページでだけ編集したり削除したりしたいといったこともあります。そういった場合、マスターページを複製し、複製したマスターページで共通オブジェクトを編集して特定ページに適用するというのが本来スタンダードなやり方でしょうが、それだと面倒なのも確かです。

そこで、InDesignではマスターページのオブジェクトをドキュメントページで個別に編集することもできるようになっています。これをマスターオブジェクトの「オーバーライド」と言います。オーバーライドとは“乗り越える”とか“前の決定をくつがえす”といった意味の英語であり、InDesignでは、「親クラスで定義されたメソッドを子クラスで定義し直して上書きする」というプログラミング的な意味で使われているようです。

マスターページに置かれたオブジェクトは、ドキュメントページ上では選択することすらできませんが、いったんオーバーライドされると、そのオブジェクトに限り、選択して移動や拡大・縮小など通常のオブジェクトと同様の操作が行えるようになります。

なお、オーバーライドされたオブジェクトは、一時的にドキュメントページでの編集が生きる状態になっているだけであって、元のマスターページ上のオブジェクトとの関係が完全に切れているわけではありません。そのため、元の状態に戻す機能も用意されています。オーバーライドされたオブジェクトを指定し、ページパネルで「指定されたローカルオーバーライドを削除」を実行するか、何も指定しない状態で「すべてのローカルオーバーライドを削除」を実行すれば元に戻ります。

オーバーライドされたオブジェクトは、ドキュメントページ上で編集することができますが、編集された属性以外は元のマスターページのオブジェクトの属性が継承されます。たとえば、ドキュメントページ上でマスターオブジェクトの色を編集した場合、マスターページでオブジェクトの色を変更しても、ドキュメントページ上のオーバーライドされたオブジェクトの色は変わりませんが、オブジェクトの大きさや位置といったドキュメントページ上で変更されていない属性はマスターページに合わせて変化します(なおテキストフレームがオーバーライドされた場合、テキスト自体はマスターに影響されなくなる)。

ちなみに、マスターページの影響を完全に受けないようにしたい場合は、オブジェクトを「分離」します。分離されたオブジェクトは、マスターページと完全にリンクが切れるため、それ以降はマスターページの影響を一切受けません。

なお、ドキュメントページ上のオブジェクトをオーバーライドして分離し、そのページにマスターページをあらためて適用した場合、分離されたオブジェクトに加えて、マスターページのオブジェクトもそのドキュメントページにあらためて表示されるので、オブジェクトが2つダブって存在することになります。不要なオブジェクトが思わぬタイミングで現れてトラブルになる可能性があるので注意が必要です。

スタイルのオーバーライド

InDesignにおけるオーバーライドには、マスターページのオブジェクトだけでなく、スタイルの上書きもあります。たとえば段落スタイルや文字スタイルが適用されたテキストで、そのスタイルの属性を文字パネルなどで一部変更した場合、スタイルパネルのスタイル名に「+」の記号が付け加わります。これがテキストスタイルのオーバーライドです。

オーバーライドされたテキストは、オーバーライドされた属性についてスタイルの影響を受けなくなります。たとえば、「本文」という段落スタイルを適用した後で文字列を選び文字サイズを変更した場合、その文字列では文字サイズに関してだけ段落スタイルが適用されない状態になります。

そのため、その後段落スタイルで文字サイズの設定を変更したり、あるいは別のスタイルを適用しても、オーバーライドされた部分の文字サイズは変更されないわけです。ただし、検索置換機能でスタイルを置き換えた場合は、オーバーライドは解除されます。

テキストのオーバーライドはスタイルの機能が部分的・一時的に制限されるものであり、きちんと把握しておかないと思わぬ結果になることがあります。ただし、実際の作業中にテキスト上でオーバーライドが生じることはしばしばあり、しかも、テキストのどこがオーバーライド状態になっているのかをチェックするというのは意外に面倒です。

そこで、InDesign CC2015以降で「スタイルオーバーライドハイライター」という機能が用意されています。段落スタイルパネルや文字スタイルパネルにある「スタイルオーバーライドハイライター」のボタンを選択しておくと、スタイル適用後にオーバーライドされた文字列が画面上でハイライト表示され、すぐに該当箇所を探すことができます(プレビューモードでは表示されない)。

オーバーライドされたテキストにあらためてスタイルの属性を適用し直すには、オーバーライドを消去しなければなりません。オーバーライドの消去は段落スタイルパネル下の「選択範囲のオーバーライドを消去」ボタンで行います。

段落スタイルと文字スタイルの双方にオーバーライドがある場合、段落スタイルのオーバーライドだけ消去する、文字スタイルのオーバーライドだけを消去する、いずれのオーバーライドも消去するという3通りの処理が考えられますが、これらの処理はオーバーライド消去ボタンとキー操作の組み合わせで指定します。

テキスト以外に、InDesignにはオブジェクトスタイルのオーバーライドも可能です。オブジェクトスタイルも、オーバーライドするとスタイル名に「+」が付けられ、スタイルパネルの下にある「オーバーライドを消去」ボタンでオーバーライドを解消することができます。

マスターページやスタイルは、レイアウトにおける繰り返し作業を省き、効率化する便利な機能ですが、個別のケースでの調整がある場合はそれだけでは対応できません。オーバーライドは効率化によって犠牲になりがちな個別の調整で役立つものであり、使いこなせばかなり有効な機能になるはずです。

(田村 2010.5.17初出)
(田村 2023.2.7更新)

※この記事はインフォルムホームページ内「技術情報」で公開している記事です。他の技術情報などもぜひご覧下さい。

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