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夜行列車 IRN402 ブカレスト→キシナウ プリエテニア号

夜行列車プリエテニア号です。IașiとUngheni経由でブカレスト北駅とキシナウを結びます。これまでの夜行と同様、Schlafwagen(Sleeper)の2等車のシングルで乗りました。2024年6月2日19時08分発車、翌日8時44分到着、走行時間13時間36分です。運賃と寝台の予約あわせて55ユーロ。ヨーロッパ最後のソ連製車両といわれています。



【チケットの予約と購入】

ルーマニア鉄道(CFR)のオンラインサイトから予約・購入しました。去年のボスフォラス急行では予約のみ可能でルーマニア国内の駅でチケットを発券・受け取りする必要がありましたが、今回は完全にオンラインで完了。どうやらスマホなどで見せるだけでも良いらしいのですが、心配なのでA4のPDFで発行されたチケットを印刷して持って行きました。
ちなみにルーマニア鉄道は国内便と国際便で分かれています。駅の窓口もなのですが、サイトのほうでも「International journeys」のほうに行かないとプリエテニア号は出てきません。

【ブカレスト北駅でスーツケースをピックアップ】

宿で夕方までスーツケースを預かってもらうことができなかったので、出発駅であるブカレスト北駅の荷物預かり所のお世話になりました。

去年の写真ですが、今回もこのままだったので流用。営業時間は5時から21時まで。

誰もいないように見えても大丈夫。ノックすると誰か出てきます。担当のおばちゃんは英語は話してくれませんでしたが外国人慣れしているようで、営業時間と値段を指差しで教えてくれました。ティミショアラ駅同様ここでもパスポートを見せる必要あり。24時間で12レイ(€2,4)。

引換券

受け取りはパスポートを見せて引換券を渡して終了。この開いてる窓からスーツケースなどの大きい荷物も受け渡しするのでちょっと大変ですが、窓口の人と協力してやれば大丈夫。多分この窓口を通れる荷物なら拒否されないかと。
宿のある旧市街など街中にも荷物預かりサービスはあるようなのですが、ロッカーや店舗を自前で用意して運営しているのではなく提携してるお店やホテルなどが預かってくれる形式のようで、提携店舗の情報がアップデートされていなくて最終受け取り時間などで揉めた報告がネットにあったので、確実にやってる駅の預り所にしました。どうせここから出発するのだし。

【いざ乗車】

いつも通りスーパーで水とオヤツを買って駅構内で待機です。治安面で評判の悪いブカレスト北駅ですが、周辺の公園などは別として、駅構内はお店も人もいっぱいでにぎわってますし個人的には割と安心できる雰囲気かと思います。KFC、マクドナルド、サブウェイ、Carrefour(スーパー)、コーヒーショップ、カフェ、パン屋、キオスクとなんでもあり。夜遅くだったり心配な人には待合室がおススメです。電車のチケットを持っている人しか入れないし職員さんが常駐しています。

上から3つ目、キシナウ行き。国際寝台にしては珍しく国境の駅ではなく最終目的地が表示されてるパターン。

ホームが表示されたものの、なかなか来ない列車。発車時刻ちょうどにやっと車列が来て乗車開始。ドイツと違って(まあいつも機能してるわけではないのだけど)自分の車両がどの位置に来るのかわからないので、大量の乗客がホームで右往左往の大混乱。全く写真を撮るチャンスナシ!しかも何号車なのかもよくわからないので、近くの車両の出入り口にいる車掌さんに聞くも英語が通じない…チケットを見せると「あっち!」っと指さされる。ちょっと怖い…時間のせいで殺気立ってるのかな……。
ともあれ無事自分の車両を見つけ乗車。こちらの車掌さんも英語は話してくれませんでしたが、怖そうな人ではなくちょっと安心。去年のイストリア号やコロナ号もそうでしたが、出入り口がもはや梯子です。車掌さんや他の乗客と協力して荷物を揚げます。

【ぎゃんキャワッ!】

さて、車内の様子です。

おおーレトロ!でもこの段階ではイストリア号やコロナ号と大差ない気もするけれど
どうだこのレトロっぷり!
事前に写真は見ていたけれど、実際にその場に来るとテンション爆上げ
意外とふかふか

アアアアアア!!!!!!!なんというレトロ!まだこんな子が走っているだなんて!!おばあちゃん家(概念)!ヨーロッパのおばあちゃん家(概念)!
おばあちゃん家ならもてなされるのですが、ここはソヴィエト車両。シンクなし(これは事前にネットの写真からわかってたからいいけど)、支給品ゼロ。水さえない。発車してちょっと経った頃に車掌さんからシーツを支給されましたが、それだけ。ベッドメイクも自分でやります。一応Liegewagen(クシェット)ではなくSchlafwagen(スリーパー)なんだけどなぁ……。ソヴィエトにそんなサービスねえよってか。それはそれでらしくて好き。

ソ連製車両によくあるらしい、ベッド下の収納空間。箱の右側は何もないのでスーツケースなどを突っ込めるっぽい。

枕とマットレスを発見。しかしブランケットが見当たらない。ないのがデフォルトなのかな。暑かったので、自前の大判ペシュテマル(トルコの薄手のタオル)をブランケット代わりにしたらちょうどよかった。ちなみに枕とマットレスのシミのつきっぷりに、その上にシーツをかぶせるとはいえ、ちょっと心配になりました(多分ダメな人はもう絶対ムリだと思う)。
しかしワシはまだ知らなかった。こんなのまだ始まってすらいなかったということを……。

【洗礼】

さて、検札も済んだことなので早速食堂車へ。立食形式の簡易なモノではあるものの食べ物飲み物を売っていると聞き、いざ……のはずが隣の車両に行くところで足が止まる。連結部分が野性的すぎる。これまでの列車はどの子も蛇腹の構造物で「ちゃんと覆われて保護されてる感」があったのですが、プリエテニア号は「一応繋がってる感」しかないうえに揺れが激しい…夜行の車内ではビーサンで歩いているのですが、これビーサン挟まって即死するんじゃ……とおじけづき、次の停車駅前でスピードが落ちるのを待って移動。暗いしめちゃくそ揺れるので写真撮れませんでした。
どうにかハードルを越え食堂車のカウンターへ行きつき「One beer please」と唱えるが、食堂車担当のおじさんから返って来たのはまさかのロシア語ここルーマニアとモルドバの間だよね…?英語通じなくてルーマニア語オンリーは想定してたけど、ロシア語?!「ルーマニアのお金、モルドバのお金、カード」と聞こえたので支払い方法の話だと思い「カード」。その後売ってるビールを見せてくれた。キシナウというビールがいたので1本注文。カード払いもちゃんとできました。500mlで40MDL(約2ユーロ)。最初ルーマニアレイかと思って「は?」って言ったらおじちゃんに「モルドバのだよ」と言われホッ。いや、それでもたけぇ!でも車内販売だしね。冷え冷えだし。自分のコンパートメントに持って行っていいのかも聞くとOKとのこと。一昨年卒業しそびれて「大学卒業したら教科書代だけで教えてもらえるチャンスなんてないしなー」くらいの理由で始めたロシア語が役に立つとは。中央アジア旅行を念頭に勉強は続けていたけど、もうすでに助けられました。

立食スペース
ロシア語でがんばらないと飲み物食べ物にありつけないカウンター

その後ビールを飲みながら、マジかよ…こっからしてロシア語かよ……とビビり散らす。これまでルーマニアでは割と英語を話してくれる人が多かったし英語を話さない人はイタリア語を出してくることが多かったのもあって、キシナウはルーマニアよりはちょっと困ることもあるかなくらいの気持ちだったので面食らいました。すでにここから。多分食堂車のおじちゃんはモルドバ(鉄道の)人なのかと。キシナウの記事でも書きますが、マジでロシア語が強い西側世界の英語のポジションがロシア語。しかしロシア語話すの恥ずかしい。相手にわかってもらえなかったらどうしようとか返答が理解できなかったらどうしようではなく、単純にロシア語を発することに抵抗がある。なんだ、この辺の日本人マインド抜けてなかったのか。でもわかんなかったらグーグル翻訳すればいいし、ロシア語で返してくる相手にはなから英語オンリーで行くのもな…と。うん、いい練習の機会だ!それにワシだったら、ワシがわからない言語で流ちょうに話されるより、下手くそでもカタコトでもワシがわかる言語で話してくれた方が嬉しい!そういえば初めてドイツ来たときも、流暢な英語より下手くそなドイツ語のほうがみんなあたたかくしてくれたっけ。

ルーマニア語とロシア語のみ
なんならロシア語単品だったり。ピクトグラム優秀。

ビールを飲んだらトイレです。そしてドアを開けてさらに洗礼。まあ快適そうなトイレは期待していなかったけど……。そして流してみてびっくり。まさかのお外にポイ。いいのか、ここ一応EU領土内だぞ。エコっちゃエコなのか…?乗客の栄養分で線路沿いの草、めっちゃ生えそう

一応トイペはあった。だがしかしすぐに出てくるところの穴に詰まって誰も使えなくなってた。持参してたワシ、高みの見物。
蛇口の後ろにソープディスペンサーみたいなのがあるので、そいつを上に向けて押すと水が出てくる。なお翌朝ここでカップとか洗ってる人いたという衝撃。

【国境越え】

そうこうしているうちに車内の気温も下がり、国境越えが朝の3時台なので早めに就寝。シミだらけの枕とマットレス、寝心地よすぎて衝撃。あれか、イイ感じにへたったソファーがキモチイイあの原理だ。ぐっすり寝た後、目覚ましで起きてモヤモヤしていると車掌さんがノックしてきました。起きてるワシを見て「ヨシ」という顔。これまでの夜行では国境越えの前に余裕をもって起こしに来てくれることが多かったのですが、なんとノックの後すぐに停車し国境警察登場。残りの乗客を手荒く起こす国境警察。なんか怖そうと思ったけれど、現れたのは親切なお姉さんでした。今年からルーマニアはシェンゲン協定加盟国なので、合法なシェンゲン滞在を示すためにドイツの滞在許可証もパスポート一緒に出す。顔を見て預かって去っていきました。
暇なのでここで駅で買っておいたクロワッサンをつまむ。朝焼けが見え始め、日が昇る。近所の鶏大合唱。朝ご飯なのかなこれは。無事パスポートが返却された。スタンプはIasi名義。
そして列車は川を超えてもう少し前進し、今度はモルドバ側の入国審査。パスポートを預けると、観光か、何日か、帰りの手段と宿泊施設の予約はあるのかときかれる。キシナウに観光で2泊と言い予約のコピーを見せるとOKと言い残し去っていった。次に来たのは税関職員。開けっ放しのスーツケースをライトで照らして「何もないわね」と言い去る。うん、課税・摘発できそうなものは何もない。一部の乗客は荷物を持って降りて事務所に行っていたのですが、ワシは降ろされることもなく。なんで降りていたのかはわかりません。税関関係かな。無事Ungheniスタンプが押されてパスポートも帰還。

出入国スタンプ集め、好き

【ここから広軌】

入国審査も終わったしホームに降りてタバコでも吸おうと出口に行くと、車掌さんが「ダメダメ」とジェスチャーする。タバコを吸うジェスチャーで返すと「あー、それならここでやりな」と、出入り口横のボイラー設備っぽいものが置いてある場所を指す。え、いいんかい?よく見るとストーブらしきものの周りに吸い殻が落ちてる。もうそういう扱いみたい。

ちゃんとよく見れなかったけれど、石炭入れて使うのかなって見た目。
喫煙所もとおいストーブの裏の給湯タンク。マジでお湯タンクあるのね。画像が荒いのは、外暗いし中は電気で明るいわクッソ揺れるわでスマホじゃこれが限界だったの。

そして列車は逆方向に進行。出入り口ドアは施錠されておらず、モルドバ鉄道の作業着を着たお兄さんが立っている反対側のドアに至っては開けっ放し。これドイツだったら安全のために絶対乗客入れない場面では。ちなみに端っこの車両で、反対側から押されていたようで前進する先がよく見える。線路の左右に何か柱のようなものがずっと先まで何本も立っていた。居合わせた乗客と一緒に動画を取る。
柱の間で停車。線路上に作業員さんたちが立っている。こんな朝早くからありがたい。モルドバは広軌なので、足回りの交換をするそうです。ぜひ写真を!とスマホを構えた途端「Foto nein! Schlafen!(写真ダメ、寝てなさい)」とオジサンに叫ばれる。オジサンを狙って撮ってると思われたのかと思い説明とお願いをしてみようかと思ったけど、ロシア語でもルーマニア語/モルドバ語でもそんなことできないし多分設備自体撮らないで欲しいのだと思う。ネットには線路上に降りて撮っただろう写真もあるから、交渉次第なのかもしれないけれど。一緒に動画取ってたお兄さんとともに退散。国によっては駅や車両の撮影に厳しいところもあるって聞くしね。しかしなぜにドイツ語……ワシからドイツオーラ出てんの?って、ドイツ語で交渉してみればよかったかもと今頃気づく。
そして乗客を乗せたまま車両がジャックアップされる。外から見れないので何をどうしているのかはわからないけど、大作業なのはわかる。これを毎日2回(プリエテニア号は両方向毎日運行なので、それぞれの方向に1回ずつ)はやっていると思うと、すごい手間なのでは。どうせ国境審査あるわけだし乗客を降ろしてモルドバ側の車両に歩かせればいい気もする。そもそも出入り口が梯子みたいな車両なので、自分で歩けない人はそうそう乗れないし。そんな手間をかけても直通させるのは、やはりこの二国は結びつきが強いんだろうな。プリエテニアの意味は友情。少なくともこの作業を担ってるモルドバ側の思いは相当だと思う。

プリエテニアちゃんのお靴ですかね?

【到着】

作業が終わり再び列車が動き出したので二度寝。遅延してるっぽかったので三度寝をキメてたら車掌さんに起こされた。シーツをはがしてマットレスと枕をベッド下に戻し、リネン類は車掌さんに返却。あれよあれよとキシナウ到着。
想像を超えた"レトロ"っぷりといきなりのロシア語環境と色々な雑さにショックを受けたものの、降りる頃にはいいものを見た幸福感でいっぱい。コーカサスでは数年前にソ連製車両がそこそこ新しいものに置き換えられたらしいし、ぼやぼやしているとプリエテニア号も新調されてしまうかもしれません。乗るなら今だ、で乗って本当によかったです。

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