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踊らない米

かまどで炊いたご飯が実は踊っていなかったというエピソードが好きだ。わりと最近のことだと思っていたら、あれから2年も経っているらしい。

端的に言えば騙されていたという話である。それによって何か実害があったわけではないので、目くじらを立てて怒ることもない。ただ、悲しいような、寂しいような、何とも言えない気持ちにさせられたのだった。

たぶん、かまどで炊いたご飯を食べたことはない。遠い昔にどこかの旅館で食べたご飯がそうだった可能性はあるが、だとしたら印象に残っていないので劇的に美味しいものではなかったのだろう。

それでもテレビCMで炊飯器がかまど炊きをウリにし始めたあたりから、かまどで炊くと美味しいという思い込みは強まっていった。実際、それらの炊飯器で炊いたご飯は美味しいのかもしれない。ただ、確かめる機会がなかった。

そして「おどり炊き」が登場する。米が踊って美味しくなる理屈はいまいちわからないが、なぜか妙に説得力がある。食べたこともないのに、やはりご飯はかまど炊きに限る、みたいな気分になっている。

そんなかまどに対する憧れを米が踊っていなかったという事実はいくらか打ち砕いた。この感傷には覚えがある。

そうだ、サンタクロースはいなかったんだ。