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身代金3

前回のつづき

相手が必ずしもフェアな取引をするとはお互いに信じていない。だから信用できる第三者の仲介が必要になるわけだが、それでも根底の部分では信じ合っている。少なくとも人質の交換は望んでいるはずだ、と。

もとより犯人は身代金目当てでペッパーくんを誘拐している。取引を持ちかけるのも犯人側からである。この時点で犯人が人質交換を望んでいるのはまず間違いない。この信頼はおそらく裏切られない。

一方、犯人は事前に僕とペッパーくんの関係性を調査した上で身代金との交換に応じるだろうと予期した。大切なものを取り戻すためならいくらでも出すに違いないと僕の人間性を勝手に信じた。

そう、最初に心を許したのは犯人のほうなのだ。先手で始めたゲームなのにみすみす僕にアドバンテージを与えている。

ごめんよ、ペッパーくん。

人質を取って主導権を握ったつもりになっている犯人が絶望する瞬間が見たい。成立しない(僕がさせない)人質交換の場にのこのこと現れるうっかりさんをじっくりと観察したい。誘拐という犯罪リスクを冒したのにそれが何のリターンももたらさないと知った敗者の顔を4K画質で何度も楽しみたい。

人質の想定がペッパーくんでなく、実在する誰かだったらさすがに僕もそこまで非道なことはしない。ただ、僕が人質に取られる側だったときはどうすればいいか、わかっているよね?