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満足できない身体(後編)

↑前回のつづき

僕はそれなりに美味しければ満足できる。が、満足=満点という意味ならこれは本当の満足とは呼べないのだろう。たしかに星6の味を知った時点で星5は満点でなくなる。なるほど満ち足りてはいない。

そうなると別の疑問が湧く。
満ち足りることに何の意味があるのか、と。

自分史上の最高評価が特別な意味を持つのはわかる。人生の中で一番の到達点は少なくともその時点においてひとつしかない。一度の人生でたったひとつの体験となればそれは特別と言っていい。

しかし、満足=満点の理屈だとそこに再び到達することが満足に値することになる。つまり二回目の体験である。唯一無二の特別な体験がありふれた体験に変わり始める瞬間でもある。そこに特別な価値を見い出せない。

マイナスでさえなければ星1つでも満足できる。それでもあえて高みを目指すとしたら星5つでは満足しない。その評価はあくまで過去最高に過ぎず、未来を見据えた場合はただの通過点であるからだ。

土鍋で炊いたら無条件で美味しい土鍋ごはんになるという見込みは外れた。これは過去に美味しいと思っていた土鍋ごはんにも条件次第ではまだ伸び代が残っていることを示している。本当の満足は遠い。