見出し画像

伝説のプログラマー

そう呼ばれたことがある。この話は最後までちゃんと聞いてもらわないと嫌味な自慢になりかねないので誰かに話したことはない。過大評価が独り歩きされても困る。

開発したソフトウェアのデバッグで大阪に出張したときのことだ。報告された不具合をその場で秒殺していたら関西人のお客さんが独り言のようにつぶやいた。

「伝説のプログラマーや……」

実際には電灯を設置したのに電球を付け忘れていたレベルの凡ミスを連発しており、言われて気づいて修正するという惨状だった。それが傍目には凄腕の技術者に見えたのだろう。本当に申し訳ない。

しかし僕は自分の失態をよそに表現の妙を味わっていた。

基本的に伝説は世代を越えて語り継がれるもので存命中の人物には使われない言葉だと思う。生ける伝説という言い回しもあるが、あれは伝説になり得るという意味の言葉であってまだ伝説ではない。

出現が予言されているタイプの伝説もあるが、現実の予言は全部オカルトなのでやはり伝説の人物が目の前に現れる状況は想像しにくい。

その幻の伝説に自分がなれた。へっぽこプログラマーが誤解で高評価を得たのは心苦しいが、伝説呼ばわりされたことは愉快な思い出として記憶に刻まれている。

もしかして関西のノリだとそこかしこに伝説は存在しているのだろうか。