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校則違反の思い出

前髪が味噌汁に浸かるほど髪を伸ばしていた時期がある。高校に入ったあたりから床屋に行くのが億劫になって自分で散髪するようになり、それもやっぱり面倒で放っておいたらそうなっていた。

普通に校則違反である。注意されたら切るつもりだったが、なぜか容認されていた。髪型以外はどこからどう見ても従順な優等生だったので、指導の必要なしと判断されていたのかもしれない。

廊下を歩いていると他クラスの生徒たちからウザ絡みされた。

金八先生のモノマネやってよ
芸能人の誰々を目指してるの?

およそ知らない相手に対する友好的な態度ではない。僕から見たモブが、相手から見てもモブである僕を、見た目が異質だからと雑にいじってくる。また、それを肯定する周囲の空気。そこに日本人(あるいは人間)の嫌な部分を見た。

嫌なら髪を切れば済む話である。そもそも目立つことが嫌いなのだから当たり障りのない身なりを心がけるべきだ。なのに先生から注意されるまで髪を切らずに通したのは群衆に対する僕のささやかな抵抗だった。

彼らのようにはなるまい。名前のない、責任を取らない、自分の頭で考えない、そんな群衆には与しない。今も揺らぐことのないアイデンティティーが確立した高校時代だった。先生たちには感謝している。