たかが計算、されど計算
前回久しぶりに書いた「山本塾ドリルの取り組み方」の記事が、想像以上に多くの方に見ていただけて、少し驚いている市民です。今日はせっかくこういう形で拡散されたばかりということで鉄は熱いうちに打てということで、皆さんに注目頂いているこのタイミングで改めて「山本塾ドリルに取り組む意義」についてお話したいかなと思います。
取り組む意義、といったらそりゃ計算能力の向上だろうと思われるかもしれませんが、僕はこのドリルへの取り組みはそれ以上の物事を考える良いきっかけになるのではないかなと思っています。たかが計算ドリルで大げさな、と思うのかもしれませんが、冗談じゃなくそういう風に思っています。
あらかじめ述べておけば、僕は山本塾ドリルに取り組めば算数が出来るようになるとか、マスター出来るとか、そういった事は全く思っていません。以前のNoteで「計算は算数の7割を占めている」という話はしたのですが、逆にいえば、残り3割は計算以外のところで決まっているということです。計算が出来たから算数がマスターできるなら、苦労はしません。それが何か、ということについてはまた別の機会に語ることにしましょう。
じゃあ、計算だけなら山本塾ドリルでマスターできるかというと、それもそうではありません。山本塾ドリルは単純四則計算オンリーなので、複雑な数だったり工夫を扱う計算などは、別途何かしらの計算ドリルでトレーニングする必要があります(その鍛え方なども、またそのうち語ります)。
読者の方々も少し頭がこんがらがってきたかもしれません。「これをクリアすれば算数マスター!」という訳でもないドリルを、何故ここまで全員に取り組んでいただきたいと勧めているのか。前置きはこの程度にしておいて、その理由を、順を追って説明する事にしましょう。
まずは、計算能力の向上
まずは、当たり前のことからです。これは、一番最初に「算数って結局なんですの?」というNoteでも説明しました。山本塾ドリルが各々の四則計算に要求するレベルは、最終的に以下の通りです。
たし算 3桁+3桁を140秒で36問=1問3.8秒
ひき算 3桁-3桁を140秒で36問=1問3.8秒
かけ算 2桁x1桁を90秒で36問=1問2.5秒
わり算 4桁÷2桁(10の倍数)を90秒で18問=1問5秒
スピード感・正確性とともに、このレベルを要求するドリルは他にはありません。そしてこれが、中学受験レベルでいうところの「計算が出来ている」というラインです。この内容については、既に説明したことでありますので、上のNoteを参照していただくことにしましょう。
次に、「出来てるつもり」と向き合う
これが今回のNoteでまず伝えたい、大事なことです。恐らく、このことに気づけるかどうかということは、算数以外の教科を勉強するにあたっても、非常に重要なことになるかなと自分は考えています。
まだわり算などを習っていない低学年の生徒ならともかく、山本塾ドリルの計算は「ルールは誰でも知っている四則計算」であり、計算内容としては最も簡単な部類のドリルでしょう。しかし、それでも多くの人がクリアするのに苦しむのが実態。それが示している事は「基礎的な内容であっても、完璧に仕上げるのには膨大な努力が必要になる」ということです。
山本塾ドリルをやってみて「な~んだ、簡単じゃん」と思った方は、安心してください。あなたは、きちんとできています。しかし「想像以上に難しかった」と感じたり、ショックなほど点数が取れなかった方は、これをきっかけに今までの自らの学習について「無根拠に出来たつもりになっていなかったか」とその学習姿勢を反省してほしいのです。
果たして、こんなに簡単な計算ドリルが「自分が思ったほど出来ていない」結果に終わった人が、他の単元は「自分が思った通りにちゃんと出来る」ということがあるでしょうか。そんな訳はありません。そもそものところで、何かしら「出来ている」ということへの認識が甘いのです。
この単元はもう知ってると、復習もしないで「出来たつもり」。暗記科目なのに、テキストを眺めただけで「覚えたつもり」。本当はよく分かってないのに、適当に解説を見て「理解したつもり」・・・。そんなことになっていないかと、今一度足元を見直すきっかけとしてほしいのです。
よくある「スパイラル学習」への誤解
これは、自分は昨今の塾業界の指導方法にも問題があると考えています。その一つが「スパイラル学習」という言葉の誤用です。知らない方のために一応説明すると「スパイラル学習」というのは、同じ教材、内容を使いながら何回も勉強する学習方法のことです。昨今の大手塾では、自塾のカリキュラムはスパイラル学習になっていると何処もかしこも説明します。
しかし、私がお話を伺った多くの保護者の方々は、殆どの方が自らが通う塾の先生から「またこの単元はもう一度出てくるから、今はこれくらいの理解度でいい」という意味で「スパイラル学習」という言葉を用いられているようです。これは、そもそも学習というものを理解していない、極めて舌足らずで誤解が多い説明だと私は思います。
山本塾ドリルは、上の定義に則ればある意味「究極のスパイラル学習」です。同じレベルを何度も何度も復習することになります。そして、これに毎日真剣に取り組んでいる方は計算能力の向上を日々感じることが出来るでしょう。では、山本塾ドリルを制限時間も図らず、ただ解くだけでも、計算力が向上するでしょうか?そんな訳はありません。それは、運動も食事制限もせずに痩せるダイエットみたいなもので、ありえないのです。
学習というものは、そもそも「自分なりのベスト」を尽くして取り組むことが大前提なのです。それを何度も繰り返すから、1回目は7割でも2回目は8割になり、3回目に9割・・と成長する。ただ形式上「やったふり」をしても、それはやってないのと同じで、別に何の意味もないのです。
しかし、上のような「この単元はまたやるから、今は大丈夫」といった説明は、そういった人にとって耳障りの良い逃避の言葉となってしまうのです。それは「真剣にやっているのなら、1回目の今は7割の出来でも心配する必要はない。2回目で8割目指して頑張ろう」という意味であり、もし現時点で3割の出来なら今すぐ復習が必要なのです。考えたら当然の事です。
それでも、「やれば出来る」を感じてほしい
ここまでの話を聞いて、ギョッとした方も多いのではないでしょうか。やったつもり、理解したつもり、またやるから大丈夫・・・。色々と心当たりがあり、焦る気持ちになるかもしれません。でも、焦る必要はありません。今日から一歩一歩コツコツやれば、ちゃんと前に進むのです。
ただし、そこで大事なことは「自分のレベルに合ったことを、徹底的に反復練習」することです。Lv5の計算が出来ない子が、Lv10を何回こなしても酷いスコアが残るだけで、成長しません。これは20キロのダンベルしか持てない人に100キロのダンベルを渡しているようなもの。そもそも持ち上がらないし、怪我にも繋がります。必要なのは20キロ+αのダンベルなのです。
門下生の方々の山本塾ドリルのスコアを毎日見ていると、とても楽しいです。人によって進みが速い、遅いは当然あります。でも、毎日コツコツやっていれば、ちゃんと皆計算が速くなるのです。そして、それはテストで計算ミスが減ったとか、宿題を終わらせる時間が短くなったとか、計算へのチャレンジ精神が出てきたとか、色々な形で実を結んできます。
これは「算数の才能」の話ではないでしょう。勿論「上達速度の違い」は才能と言えるかもしれません。でも、コツコツと毎日計算を積み上げた子は、こういった「地道な努力」で中学受験で通用する十分の計算力は身につけることが出来ます。何なら、才能があっても磨いていない子より上に行くでしょう。世間の言う「算数の才能」の程度なんて、そんなもんです。
勿論、算数や数学に才能はあると僕は思います。でもそれは、灘中の算数で満点を取るとか、算数オリンピックや数学オリンピックでメダリストになるとかそういうレベルの世界の話であって、中学受験レベルの算数に才能も何もないかなと思います。ただ、それぞれの人が「正しいトレーニングの方法」を知らないだけで、情報の海で混乱しているのです。
算数なんて、別にそんなに難しくないです。一生懸命頑張っているのに出来ないのなら、一つ一つの取り組みが浅いか、自分のレベルに合わないことをやっているか、何かやり方がおかしいのです。まずは「誰でも分かっているはず」の山本塾ドリルの計算を通して、「灯台下暗し」となっていないかを確認する。そういうステップにして貰いたいなと思っています。
まとめ
なんだか偉そうな記事になってしまいました。要約するとこうです。
でも、算数の道はここから始まるというくらい大事なことだと思っているので、丁寧に説明させてもらいました。この「出来てるつもりが一番怖い」という話は、中学・高校数学は勿論の事、実は大学レベルの数学になっても続く話です。誰もが「基礎が大事」とは口にするものの「基礎が出来ているとはどういうことか」を理解するのは、本当に難しいのです。
ただ、いずれにせよ受験生の方々は毎日本当によく頑張っていると思います。頑張っているのに、空回りになるのはもったいない。その頑張りをより一つでも多く成果に繋げられるように、一つ一つの「ちょっとした意識改革」のスパイスとして、計算練習に取り組んでほしいと思います。
次こそはもうちょっと計算の技術的な話をするかな~。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?