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コーラス・インフィニ☆~リトアニアを巡る合唱と親善の旅~➀


 2017年、インフィニ☆は演奏旅行でリトアニアへ行きました。当時の記録を今回から全3回に分けて連載します。初めてリトアニアを訪れた団員の目線で演奏旅行中のさまざまな出来事を綴っておりますので、みなさまも共に旅するような気持でお楽しみいただければと思います。


Part1

 2017年3月22日水曜日、旅は成田空港から始まった。大きなスーツケースと旅先へのお土産を詰め込んだ段ボール、チャリティーコンサートMūsų sakuros~私たちの桜~でお寄せいただいた日本の皆様の気持ちを抱え、指には日本に残るメンバーお手製の指輪を身に付け、コーラス・インフィニ☆は念願の海外演奏旅行へと旅立った。約10時間のフライトを思い思いに過ごした一行は、フィンランド、ヘルシンキ空港に到着。小雨と強風に煽られながら、小型のプロペラ機に乗り込んだ。ヘルシンキからリトアニアへの旅路は約1時間。離陸前、プロペラの放つ大きな回転音に若干の不安を感じはしたが、飛び立ってしまえば心配ご無用、安心・快適な空の旅。日本ではなかなか出会えない機内サービスのブルーベリージュースを味わい、雲の高さから地上を見下ろすと、自然の中にぽつりぽつりと赤い屋根、わずかに残る雪が目に入った。相当な寒さを覚悟していたが、今年は意外にも春の訪れが早いのだろうか。

リトアニア・ヴィリニュス

 リトアニアの首都、ヴィリニュスに降り立った私たちを温かく迎えてくれたのは、現地の添乗員さんとヨーロッパの広い空を染める夕焼けだった。日本時間では日付を越えての到着で、眠気やフライトの疲れもあったが、美しい光景に思わず笑みがこぼれる。バスを揺られホテルに辿り着くと、メンバーからわっと歓声が上がった。ロビーで柔らかな笑みを浮かべていたのは、ユリユス・カルツァス先生その人だ。リトアニアの作曲家であり指揮者でもあるカルツァス先生とは以前から親交があり、インフィニ☆にとって特別な方の一人。高揚した気分のまま、先生とお話をしながら豪華なディナーをいただき、心もお腹も満たされた私たちはあっという間に眠りについた。

カルツァス先生とのディナー


 3月23日木曜日。私たちは、寝ぼけ眼をこすりながらバスへと乗り込んだ。リトアニアで迎える最初の朝は、演奏尽くしの旅行の中では貴重な観光の時間。初めに、リトアニアの歴史を感じられるスポット、三つの十字架の丘へとやってきた。上り坂で熱くなった身体には少し肌寒いくらいの空気も心地よく感じられる。坂を登っていくとすぐに、すっきりと澄んだ青い空と、まっすぐにそびえる三つの十字架のまばゆい白が目に入った。そのコントラストの美しさに、わあ、と思わず声が漏れる。が、驚くのはまだ早かった。十字架が立っている丘の上まで辿り着くと、眼前にはヴィリニュスの町が広がる。赤みがかった屋根の家々が軒を連ねる様、ぽつぽつと見られる背の高い宗教施設などを一望し、ヨーロッパへやって来たという実感がようやく湧いてきた。

三つの十字架の丘
三つの十字架の丘にて



 その後訪れたのは、教会全体に施された漆喰彫刻が印象的な聖ペテロ&パウロ教会。そちらで、添乗員さんの粋な計らいと教会のご厚意により、一曲歌わせていただくことになった。思いがけない演奏旅行一曲目に戸惑いながらも歌い始めると、教会一杯に柔らかな響きが広がり、心が震えた。再びバスに乗り込み、辿り着いたのは国立フィルハーモニーホール。歴史あるホールの地下に現在も小川が流れていることには皆目を丸くしていた。見学中、オーケストラのリハーサルを聞くことが出来、なんとも嬉しい気分に。ホールを出て、奇跡を起こすとされる、聖母マリアの金色のイコンで有名な夜明けの門、ヴィリニュス旧市街にどんと構える大聖堂を見学した後は、旅の楽しみの一つ、お待ちかねの昼食の時間だ。初日はリトアニアの伝統的な料理、ツェペリーナイをいただいた。ドイツの飛行船、ツェッペリンを模したじゃがいも料理で、練ったじゃがいもの中にひき肉が詰まっているものが定番であるようだ。肉の角切りが入った酸味のあるクリームソースを付けて、もっちりとした食感を楽しんだ。

聖ペテロ&パウロ教会
国立フィルハーモニーホール
ツェペリーナイ



 満腹になった後は、カルツァス先生が教鞭を取っていらっしゃる音楽アカデミーの校内、指揮法の授業を見学させていただいた。普段はなかなか目にすることがない指揮の授業を、楽譜を目で追いながら熱心に聞いていると、配られた楽譜の中に見知った曲名があり、ざわつく一同。急遽合唱で参加させてもらうことになり、指揮を執る学生さん、インフィニ☆共にぴりっと緊張した面持ちになった。互いに集中力を高めて演奏した曲が終わると、ほっとしたように空気がほぐれた。指揮が変われば音が変わる。見知った曲がまた新鮮に思え、指揮の面白さと難しさを改めて感じ、校舎を後にした。

音楽アカデミーにて①


 こうして振り返ると、既に充実した一日を過ごしたかのように思えるが、インフィニ☆の一日はまだ終わらない。夕方には演奏旅行最初の本番、在リトアニア日本大使館で東日本大震災復興イベントに出席させていただいた。懐かしさを感じる日本の歌や復興支援ソングとして作られた「花は咲く」などの楽曲を演奏し、温かな拍手をいただいた。遠くリトアニアから日本に思いを馳せる人々の姿には、込み上げてくるものがあった。

 大使公邸での本番を終えると、一息つく間もなく、演奏会で今回の旅行で交流する合唱団の一つ、Chorus Vivaとの練習へ。溌剌とした女性たちのパワフルな歌声とダイナミックな指揮に圧倒されながら、合同曲の練習に励んでいると、Vivaからまさかのサプライズが。合同曲「Exultate Deo」の作曲者ヴィタウタス・ミシュキニスさんの思いがけない登場に、騒然とするインフィニ☆。あまりのことに緊張を隠せなかったが、作曲者に直接指導していただくという非常に贅沢な体験をさせていただいた。ホテルに戻って夕食を取るときには、途中で舟を漕ぐ団員がちらほら。団員のバースデーをお祝いし、長い長い一日がようやく幕を閉じた。


音楽アカデミーにて②


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