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10-2.小学校におけるコロナ禍への対応

(特集 がんばれ学校! がんばれSC!)

内田かほ里(東久留米市立小学校校長)
中山美保(東京都公立小中学校SC/神奈川県私立中学校高等学校SC)
 Interviewed by 下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)

※本号は,前半と後半に分けて発行致します。前半(10-1~3の記事)をまず発行し、10-4~6は1週間後(9/4ごろ)に発行予定です。ご期待ください。

1.はじめに

東久留米市立小学校の校長先生である内田かほ里先生に,この半年間,学校としてコロナ禍にどのように対応してきたのかを伺います。

内田先生は,今年3月までは都内練馬区の公立小学校の副校長先生を務められており,4月より東久留米市小学校に校長先生として赴任されました。内田先生は,校長の立場から,未曾有の事態に対してどのように判断をされてきたのかをお聞きしました。

また,内田先生が副校長先生をされていた公立小学校でSCを務めた中山美保先生にも,ご一緒にインタビューにご参加いただきます。中山先生には,SCの立場から今後学校に貢献するためにSCはどのような役割を担うことよいのかについてお話をお聞きします。

インタビューは,2020年8月6日に実施し,司会は下山が務めました。1時間30分ほどのインタビューの前半の記録を記事として再構成した内容を掲載します。記事は,下山が原案を作成し,参加者全員がチェックをして完成させました。後半は,本号次項10-3に,SCの活用をテーマとした記事として掲載します。

記事の作成にあたっては,北原祐理(東京大学特任助教)がオンライン環境の運営と記録作成を担当し,一柳貴博(東京大学博士課程)が記録作成を担当しました。なお,本項では,インタビューの雰囲気をお伝えするために,「ですます調」ではなく,「である調」で文章を統一したことを事前にお断りしておきます。

2.自己紹介
[下山]コロナ対応が始まってからの経過,学校の現状,校長先生としての課題などをお話いただければと思っている。内田先生と同じ小学校でSCとして一緒に仕事をされたことのある中山先生にもご参加いただいた。学校の現状を受けて,SCは何ができるのかを,SCに対する要望も含めてのお話を聞かせていただければと思っている。まずは自己紹介を。

[内田]今年校長になったばかり。昨年度まで練馬区にいて今年東久留米市に異動した。自治体が違うと色んなことが違い,戸惑うことも多い。関係機関やSSW,支援センターも違う。子どもたちのために何がよいのか,探りながら進めている。子どもたちは比較的落ち着いている。300人ほどの規模の学校。とにかく探り探りの中で,最終判断しないといけないので,悩みながら進めている。最悪を想定してシミュレーションしながら,先生たちの話も聞きながら,子どもの様子をみながらで判断している。昨日OKだったことが今日だめということもある。難しさを日々感じている。

[中山]SCをはじめて10年。今年からは小学校2校,中学校1校,中高の私立1校でSCをしている。いろいろな学校でSCをしてみて,初年度のところではSCとしてどこまで期待されているかわからないと思う。新任のSCである私のことも様子を見られている。すでに長いところだと先生の話を聞いて欲しいとか,対応についても話がくる。SCの役割は,年数や先生との関係で変わると感じる。

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3.夏休み前の小学校の現状
[下山]SCって何をする人かよく分からないということがある。それで学校もSCも最初はお互い様子を見る。しかも,コロナ禍で学校も余裕がない。その中でSCは何ができるか,何をしないといけないかを学校に示す必要がある。それは,日本のSCの課題であると思う。そのための議論もできればと思っている。まずは現状を教えて下さい。

[内田]東久留米市は,8月8日~23日までの16日間が夏休みで,まだ夏休みは始まっていない。公立学校の休みは自治体に任されている。自治体でバラバラ。東久留米市は16日間。子どもたちにとっても少ないのかなと思う。先生も休みは取れない。

現状として,子どもたちの欠席は少ない。コロナが心配で休む子は現在いない。ただ疲れているかなと思う。ふれあい月間でいじめのアンケートをとったが,そこに心身面のことも付け加えたアンケートにしてみた。1クラスの1/3くらいが「なんとなくだるい」「イライラ」といった問いに1個でも○をつけている。1クラスに10人くらい。

塾のことだったり,家のことだったりもあるので,どこまでが,コロナでの制約に起因しているのかわからないが,1/3くらいの子は一つでも○をつけている状況でありながら,登校している。これからの16日間の夏休みがどうか,夏休み明けどうなるかは気になる。

先生については,消毒など,教員としての仕事以外のことがある。それが大変だったという話は出ている。夏休みが短いので,どれだけ休めるか。休めたとしてもすぐ2学期。2学期の準備もしないといけない。先生もきつい部分がある。発達に課題がある子どもは,マスクが苦手で我慢できないところもある。そういう子にとっては,現在のコロナ対応のこの状況は過ごしにくい。そんな話を担任からは聞く。

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4.校長としてコロナ禍にどのように対応したか
[下山]
現状は,いくつかの課題が並行して動いている。しかも,夏休み期間も地域で違うように,それぞれの地域や学校で状況がコロナ対応のあり方が異なってきている。そのような中で校長先生の判断が重要となっている状況だ。
子どものストレスだけでなく,教員の先生方の疲れがどれだけたまっているのか,夏休み明けで大丈夫かと考えなければいけない課題が多い。指導要領も変わったということで学習対応も課題であると思う。発達の特性を持った子どもへの対応もある。さまざまな状況や課題をみて判断をされてきた経過を,その都度のご心配や苦心されたことも含めてお話し下さい。

[内田]基本的に,消毒は私たち教員の仕事ではないと考えていて,先生方に伝えている。その中で,必要最低限の消毒作業はしている。それよりも,私は,子どもたちが自分で手洗い,うがい,マスクの着脱ができるようにするのを徹底させることが大原則と考えている。「自分の命は自分で守ること」が大切だと考えているから。でも,変えられることは変えていく。学校での感染対策についてテレビなどでみるが,すべてを大人が用意するのではなく,子どもたちの手洗いとうがい,マスクの着脱を徹底することを目標とした。

例えば,水道のところに足跡の表示を置いたり,本校の音楽専科が作詞作曲した感染予防のオリジナル曲を朝は繰り返し流したりして,子どもに自分から意識させていく。そういうことで先生の負担も減らす。子どもの過剰な心配も減らしていく。

学校を再開した6月に全校朝会で,子どもたちに「先生たちも分からないから一緒に考えていきましょう」「先生たちも迷っている。大人もそうなんだよ」と話をした。「だからみんなで考えていく。先生もみんなも一緒に」と伝えた。

そうすると,子どもたちの方が,例えば委員会活動で「こういうことができるんじゃないか」と考える。代表委員会ではソーシャルディスタンスを考慮した遊びを紹介している。子どもの方が,発想が柔軟。一緒に考えて,一緒に学校をつくっていく形の方が前向きでいいのかと思う。

[下山]なるほど。不安が先に立つ。何かあったら保護者は学校の責任だと言う。感染者が出たらどうするか。それを考えると心配が止まらない。どんどんやることが増えていって,先生方の疲労が高まる。先生のケアはどうしたらよいのか。先生が休んだらカバーしないといけない。

校長先生は,いろいろと考えなければいけないことが増えていく。だからこそ,その状況を逆手にとって,余計なことは気にしないで,「大事なことはこれだよ」という形で方針を決めて,子どもと協力して作業を進めていく。そういうやり方もあるのだなと初めて知った。

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5.コロナ禍への対応におけるリーダーシップ
[内田]皆さん不安だと思う。自分がかかったらと心配にもなる。でも,大人が変に,過剰に心配しすぎてしまうと,子どもたちにとってよくないのかなという思いですね。

[中山]学校は,校長先生のご判断によって全然違う。たとえば,養護の先生は,専門知識のもとに「手洗いを徹底すればいい」と伝えたとする。でも,アルコール神話みたいものがあり,それだけでよいのかと不安がある人がいると意見がまとまらない。そういう時に,校長などの管理職のご判断が明確だとありがたい。でも,管理職の先生も不安が高くて,どうしたらいいか分からず,養護の先生に丸投げをすることもある。
私としては,子どもは考える力はあると思う。だから,大人は,子どもにも方針を伝えて,子どもが自分達からやるという形になっていくと,方向性や捉え方も変わってくる。子どもが判断できるようになるとすごくいいと思う。

[下山]リーダーシップが大事。コロナ禍への対応は,方針が決まっている事態ではない。日々変わる中で柔軟な判断や協力が大事。児童生徒も巻き込んで問題に対処する環境を作るリーダーシップが問われている。それは,日本の弱いところだと思う。

[内田]それはすごく思う。新型のインフルエンザが約10年前くらい前大騒ぎになった。だから,今回のコロナ禍に類似することが,近い将来起こることが想定される。この子たちが20代になった時,大人になった時に同じことが起こったら,この子たちが今度考えて動いていかないといけない。だったら今から考えようというのが,私の考え方。

自分で考えるとか判断するとか責任とるとか,そこが新学習指導要領のねらっている所だと思う。主体的で対話的で深い学びができるというのは,大人が作るのではない。教師が種をまくが,子どもが自分で作っていくもの。だからこそ今この状況を逆にチャンスととらえて,子どもたちが自分で考える。そういう風にして大人になった時に,そういえばあの時にこうしたなとか,ああすればよかったのかなとか,こういう風に変えてみようかとか,そういう子になってほしいっていうのが私の中にある。

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6.学校としてのコロナ禍への取り組み
[下山]今は,コロナ禍で不確定で,危険のど真ん中にいるともいえる。そこで大切なのは,「逃げ出すことではなく,学ぶこと」という考え方ですね。確かに,いつ災害が起こるかわからない。それに備えることを考えるならば,今の状況を次の練習にするという前向きの意義がみえてくる。

そのような前向きな対応に関して,少し遡って先生のご判断や迷いも含めて教えていただきたい。3月にコロナが大変になってきた。ちょうど学期末。休校になって,いろいろなものを中止にせざるをえなかった。卒業式や入学式をどうするか,休校,分散登校,登校再開,夏休みと次から次に起きてきた。いろんなところで判断をせざるを得なかったと思う。そのあたりことをお話しください。

[内田]まだ3月は,私は練馬区の小学校の副校長だった。校長先生と方針を話し合いながらも,次の日にその方針が変わるということが多かった。本当に毎日話し合う状態だった。先が見えない状態だった。判断も迷うことが多かったが,校長先生は,判断,決断が速い方だったので,それに沿って進めた。卒業式についても何度話し合いをしたかわからない。最終的にはある程度の形でできた。形式がどうであれ,教員も保護者も「できてよかった」と感じた。

校長として異動してすぐに「入学式,始業式をどうするか」から始まった。4月に着任し,職員会議で確認をしたが,結局,その週の土日に出勤をして,副校長と主幹の先生3名も休日出勤をお願いし,入学式・始業式の段取りを考え直した。始業式は全部外で行うことにして,渡すものを全て封筒に入れるなど。入学式も外で行うことになった。

とにかくドタバタの3月終わりから4月の始まりだった。ありがたいことに東久留米市がYouTubeでの配信など,オンラインを使ってよいと判断してくれた。それで,オンラインで子どもたちに課題を出すことにして,何十本も課題の映像を制作した。それを使って子どもの学習を継続することができた。自治体の判断が早かった。東久留米市はタブレット貸し出し,モバイルルーターの貸し出しもOKにしてくれた。とてもありがたかった。

オンライン対応について教員の中で出てきたのは,ツールに関する格差があることだった。オンラインができない家庭もあった。ただ,何が平等かの判断は難しい。私は,多少の格差があっても前向きに進める判断をした。オンライン対応ができない家庭や学年の実態のことも考慮して,子どもたちは,週1回は元の課題を持ってきて,新しい課題を受け取る。下駄箱に新しい課題を置いておいて,古い課題と交換をした。そのやりとりを何回も行った。

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7.学校のオンライン化への対応
[下山]
YouTubeやタブレットの活用については,東久留米市の判断が早かったと思う。学校のオンライン化という課題があったが,多くの公立学校では進んでいなかった。コロナ禍への対応ということで,やり残していた課題が浮き彫りになった側面があると思う。

[内田]オンライン化については,環境が整っていないとか,親がいないと使えないなど,家庭の判断もいろいろあるので,学校としてそこまで立ち入れない部分もある。

[下山]でも,平等が重要と言ってやらないでいると,どんどん遅れていく。

[内田]実際には,完全に平等にするのは難しい。それでもやれることはやろうというのが私の考え方。とりあえずやってみて,課題を見つけて,直していけばいいと思っている。Zoomも5月の中旬くらいから取り入れている。6年生だけ。朝の会や学活(ホームルーム)的なところで,まず取り入れた。わりと好評であった。不登校傾向のお子さんも,それには参加してくれて,臨時休校明けも登校できたということもあった。

[下山]オンラインの効用もあると思う。対面ではないからダメだという意見もあるが,通常来られない人が来られたりする。オンラインはコロナが終わった後も使える部分もある。

[内田]なんとなくコロナが落ち着けば,オンラインの部分は忘れられるかもしれない。今後,オンラインをどう活用していくかは考えていかないといけない。東久留米市にはルーターの貸出延長をお願いしている。GIGAスクール構想もある。平等にできるようにという課題も残っている。

ただ,オンラインをしてみて対面の授業の良さもすごくよくわかった。対面で何を子どもたちに学んでもらい,何を伝えていくのかは,とても問われている。対面であることの良さをどう活用していくか,これからの課題である。オンラインの使い方と対面で何を学ぶかは,その次の課題。それについては,先生方にも伝えている。

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8.感染リスクへの対応
[下山]
それと関連して分散登校から全面登校への移行の課題もあったと思う。対面授業が始まって,子どもたちの密な交流が増えてきて感染の危険も高まる。その判断や調整は難しいと思うが,どのように進めてきているのか。

[内田]感染の心配はある。「心配があれば,休んでよい」と保護者には伝えている。ご家庭の判断でよいと思っている。だから,オンラインも大切になってくる。緊急事態宣言が解除された後,時差・分散登校をしてきた。2~5年生は3カ月間,学校に来ていなかったから。再開後の感染の心配もあったから。

最初は1時間くらいで進め,最後の週は4時間と,少しずつ延ばしていった。それは,先生方が消毒や健康観察に慣れるためと,子どもたちは学校に慣れるためということがあった。慣れてくると,先生方も軌道に乗ってくる。次は,休み時間や掃除のあり方の判断が難しいところだった。

6月の3週目あたりから,中休みを設定して,手洗い・うがいの指導もしながら,遊ばせることにした。掃除は7月に入ってから始めた。慣れてきたところで,新しく1つ入れるという進め方をした。1つ1つ段階を追って,見通しをもたせながら進めた。

[下山]登校を始めることにもリスクもある。しかし,それを恐れるのではなく,どう活用するかという観点で判断していくということ。しかも,そこで見通しを伝え,先生方や子どもたちとそれを共有し,進んでいくことが重要。

ただ,「前へ進め」だけでは,不安や不満が出てくるかもしれない。そこで,必要なのが,見通しを共有し,きめ細やかな情報提供やルール作りをしていくことになる。

[内田]私自身が,行け行けドンドンタイプで,でも,見通しが立たないと,不安になるタイプ。だから,自分が不安にならないために見通しを持つようにしている。

[下山]見通して共有できることが,皆さんの安心につながる。

[中山]私の経験では,内田先生にようにクリアに見通しを持って指示してくださる先生は,他にあまりいらっしゃらない。内田先生のご判断もあり,分散登校から通常登校への移行が適切に進んだと思う。分散登校のときには,不登校の子どもが学校にくることができたのはよかった。少しずつ通常登校に移行したことが,一定の子どもにとってはスモールステップでの登校練習になったのだと思う。

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