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10-4.コロナ禍に取り組む中学校からSCへの期待

(特集 がんばれ学校! がんばれSC!)

亀澤信一(東洋大学京北中学高等学校副校長)
松丸未来(東京都公立中学校SC/神奈川県私立小学校SC)
 Interviewe by 下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)


1.はじめに
都内文京区の東洋大学京北中学高等学校の副校長先生である亀澤信一先生に,この半年間,学校としてコロナ禍にどのように対応してきたのかを伺い,さらに先が見えない中で今後に向けての課題と,その課題に取り組む際のSCに期待する役割についてご意見を伺います。

亀澤先生は,都内の公立中学の校長先生を長く務められ,今年度より同校の副校長先生として赴任されました。そのようなご経歴から公立中学と私立中学の相違,さらに公立中学におけるSCの状況についてもよくご存知です。そのようにご経験が豊富な亀澤先生は,学校の管理職の立場から,未曾有の事態に対してどのように判断をされてきたのか,学校の先生方や生徒たちの反応はどうだったのか,今後に向けてSCに期待したいことをお聞きします。

また,亀澤先生が校長先生をされていた公立中学でSCを務めた松丸未来先生にも,亀澤先生とご一緒にインタビューにご参加いただきます。松丸先生には,SCの立場からどのようにコロナ禍に対応してきたのか,今後SCがどのような役割を担うことが可能なのかについてお話をお聞きします。

インタビューは,2020年8月4日にオンラインで1時間半ほど実施しました。司会は下山が務めました。北原祐理(東京大学特任助教)がオンライン環境の運営と記録作成を担当し,石川千春(東京大学博士課程)が記録作成を担当しました。記事は,記録に基づいて下山が原案を作成し,参加者全員がチェックをして完成させました。

2.自己紹介
[下山]コロナ対応の状況の中で学校の運営がいろいろと大変だと思います。緊急事態宣言が終わっても,連休が終わっても,夏休みが終わっても続く,先の見えない事態になっています。生徒だけでなく,先生方も疲れているでしょう。そのような学校の状況,そして学校の運営に関して,以前同じ中学でSCとして先生とご一緒したことのある松丸未来先生にもご参加をいただいてお話を聞かせていただければと思います。そして,そのような状況においてSCがどのようにお役に立てるのかについてもご意見をいただければと思っています。まずは,お二人に自己紹介をお願い致します。

[亀澤]この3月まで38年間,東京都の公立中学校に勤めていました。そのうちの18年間は管理職をやっていて,その中で副校長を務めている時と校長になってからの2回,SCの松丸先生とご一緒させていただきました。この4月から,私学の大学付属である中学高等学校に移り,そこの中学校の副校長をしています。本当は3月に退職だったので,いろんな意味で有終の美を飾ろうと思ったら,コロナの影響で生徒が学校に来ない状態になり,卒業式だけは形としてやりましたが,私個人としてもなんか締まりのない終わり方でした。

[松丸]東京都の公立SCを16年やっています。小学校は6年間,中学校は16年。新宿区,渋谷区,稲城市,調布市でやってきました。渋谷区では,タブレットを小・中学生全員に配るという時期にちょうど重なっていて,当時は賛否両論,どちらかというと批判の方が大きかったです。今は新聞にも取り上げられるくらいで,見直されているようです。公立の他に,2年前から私立の小学校でもSCをしています。

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3.休校とオンライン授業の導入
[亀澤]
4月からこちらの学校に移りましたが,やはり休校が続き,これで始まったのかどうか,わからない状態でした。自分自身,訳の分からない半年だったなと振り返ってみて思います。だから,退職したっていう実感もないし,みんなでやろうと言っていたことが,何もできずに過ぎていきました。

4月~5月は生徒たちも学校に来ていなくて,最初の1カ月は課題のやりとりだけでしたが,5月からZoomの授業が始まりました。そこで初めて画面を通して,お互いの顔がわかりました。これはとても助かって,Zoomによる個人面談ができました。じっくりできた部分があります。担任が自分のクラスの生徒と,1人10分とか,20分とか,時間を区切ってやっていました。じっくり話せたのがとても良かったと先生方にも好評でした。それから毎日,ホームルームをやって,元気かとか,いろんな話ができて,気になる子にはそのまま残ってもらって話ができたりしたのが良かったです。

[下山]Zoomは上手に使いこなせば,生徒との関係づくりでも役立つ面があるということですね。

[亀澤]そうです。ただ,Zoomを取り入れるまでは大変でした。コロナ禍は4月で終わると思っていました。しかし,5月も休校が延長されることになり,これではさすがにダメだぞと覚悟しました。ある教員がZoomを提唱し,まずは教員で研修会をやって,使い方を学び,絶対これをやらなきゃいけないだろうということになりました。やり始めると,面談もできるし,これはいいぞということになりました。私たち管理職は全部で6人います(校長,副校長2人,教頭2人,事務長)が,管理職も自宅にいて,学校へは交代で勤務していたので,毎日,Zoomを使って会議をやれたのはとても便利でした。

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4.学校におけるオンライン活用の課題
[下山]
そのような迅速なZoomの導入と活用は,私立の大学附属の中学高等学校だからできたということでしょうか。

[亀澤]やはり,公立だと難しかったと思います。私の学校では,Zoomの授業を自宅からやる先生もいました。6月から生徒たちが学校に来るようになりました。最初は分散登校で,Zoomと対面の組み合わせでやっていました。2週目から全員対面になりました。Zoomは確かに良かったです。ただし,今になって「学んだ内容が全然定着していない」と先生方は言っています。一方通行の授業で,先生はやった気持ちになっていました。ところが,定期テストをやったところ,全然定着していない,やっぱり対面の方がいいという感想が,ここにきて出てきています。もちろん,Zoomの授業のやり方もいろんなところで研究されていて,もっといいやり方があるというのを研究しないといけません。もしかしたら,これから先も休校になるかもしれないので,そこが課題です。

[松丸]公立だと厳しいというのは,端末がないといった事情からですか。

[亀澤]そういう事情はあります。区や市町村によってデジタル化の状況が違います。端末を配布したところもあります。本校の生徒に対しては,実施前にアンケートを取りました。パソコンやタブレットを持ってない家庭もありましたが,スマホがあればできるため,ほぼ全員が参加できる見通しがあったので,Zoomの授業を行いました。ただし,開始して,「オンライン授業に入れない」とか,「切れた」などいろんな問い合わせが学校に来ました。

[松丸]オンラインで授業をする場合,課題を提出することに対して,家で勉強をしている子は伸びるが,やらない子はやらない。そのため,オンライン授業のほうが,対面授業よりも生徒の学力に差が出るのではという保護者の不安を感じることはありませんでしたか?

[亀澤]オンライン授業では,生徒の顔を出すことができますが,家庭の状況などが全部映ってしまうので,「無理に顔を出さなくてもいい」ということにしました。すると,最初だけ顔を出して,あとは隠す子が多かったです。本当に聞いているかどうかわからないし,寝ているかもしれないということは,教師間で話をしていました。

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5.コロナ禍の未知の事態に対する意思決定の難しさ
[亀澤]コロナ対応の場合,先が見えない中,オンライン授業を含めて,1週間後にどのような体制で何をするのかを常に考え,発信をしながら状況に取り組んできました。立場的には,1週間後にどういう体制でやるかを常に考えて発信しないといけません。「来週はこれでいく」と決めて伝えていく。そういうことばっかり考えていました。

[下山]全国的にみたら,デジタル教材やオンライン活用の授業というのは,課題ではありました。しかし,ほとんどの学校にとっては,まだまだ未知の世界であったと思います。ところが,コロナ禍は,そのような学校の課題をあぶり出したという側面があったといえます。コロナ禍で休校となり,オンライン対応をしなければいけないが,経験もなく先に進めない。しかし学校全体がオンライン化を考えないといけないという事態になっていますね。年代が上の先生たちは,特に大変だと思います。

[亀澤]うちの学校には教員が70人いて,パソコンが苦手な先生もいましたが,できるようになりました。もともとZoom授業の案は,管理職からではなく,若手の教員から出てきました。ある若手の教員が,私学の同じ教科の先生たちと勉強会をやっていて,あそこの学校はZoomを始めたというような情報が入ってきました。それで問題提起があり,幹部の先生方もやらないといけないとなり,とにかく1回研修会をやろうというところから始まりました。

[下山]コロナ禍は,誰も経験したことがないことなので,誰がどう意思決定をし,学校全体がどう動いていくのかについては,初めての経験ということも多かったと思います。副校長という立場ですと,わからない中で判断することもあったと思います。前代未聞の状況の中,これで良かったのかどうかと迷うこともあったと思います。

[亀澤]そうですね。公立と違うのは,私立の場合は教育委員会にお伺いを立てる必要がないので,これで大丈夫と思ったら,たとえば機材の用意も含めて,どんどん前へ進めていくことができます。パソコンが何台必要というのがあれば,比較的早く準備できます。

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6.新しい事態に立ち向かうチームワークの重要性
[松丸]
それは,チームワークのいい学校だから実現できたのだと思います。私立学校でも,文科省からオンライン化のお達しがあっても,先生方の中で温度差があり,足並みを揃えて進むことができずに,何度も会議があり,皆さんが疲れてしまうこともあると聞いています。

[下山]学校は,特に公立はそうだと思うのですが,文科省,教育委員会が決めたことを実行する仕組みでルーチンが決まっていました。今は,それができない状況になり,1~2週間後の先も読めない中で,自分たちで判断しないといけない状況になっています。学校におけるリーダーシップとチームワークが問われている事態になってしまっていますね。

[亀澤]私たち管理職も,Zoomをまず管理職6人で使ってみようというところから始めて,ミーティングをやってみました。それで,これ便利だよねって実感できたので,利用しようということになりました。

[下山]まずはチャレンジしようという,精神の自由さがありますね。しかも,管理職が若手の先生の意見を取り入れて動いています。管理職に聞く耳があり,連携が取れている。そういうチームワークがうまくいくには,何が影響するのでしょうか?

[亀澤]うちの学校は,元々あった男子校が6年前から共学になり,大学附属になり,今どんどんいろんなことが変わっている時期です。改革,改革できているので,いろいろな,新しいことに挑戦しやすいです。ただ,ICT環境はうちも進んでいるわけではなくて,タブレット導入もこれからどうするかっていう段階です。

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7.対面の良さとリスク管理の難しさ
[亀澤]コロナ対応で,危機感が高まって皆でICT化に取り組みました。その一方で,対面の良さというものをすごく感じます。6月に登校が再開し,全体的に生徒たちがすごく楽しそうです。やはり対面で会えることの意義もあると感じます。

ただ,学校に来ても制限がいっぱいあります。まず,グループワークが一切できない。昼食の時間が一番自由な時間ですが,生徒同士の対話が禁じられています。対面になってはいけないので,みんな同じ方向を向いています。喋ってはいけない。かなり我慢していて,ストレスが溜まっていると思います。楽しいけど,自由にできないもどかしさがあります。

[下山]オンラインの良さもあるけど,限界がありますね。皆が集まる対面の,リアルな場は楽しい場ですね。しかし,そこでも制限があり,ストレスが溜まる。さらに,感染の危険も高まるということで,かじ取りが難しいですね。

[亀澤]部活動は7月中旬からできるようになり,それはすごく楽しそうです。でもリスクはすごく高まっていると思います。東京の新規感染者が300人を超えるようになり,夏休みの開始を3~4日早めました。ただ,こうなってくると,学校に来させる中で,いかに感染させない対策をとるかが大事となっています。

学校に入るときには,サーマルカメラでチェックし,健康チェック表も見ています。カメラで引っかかった生徒には非接触型の検温を行い,健康な生徒が入っているという安心感はあります。ただ,いつ感染するかわからないリスクはあります。いつかは感染があるかもしれませんが,それでさらに活動制限をすると,生徒たちの心の安定が保てません。限界だなというところまで来ていました。

[下山]なるほど。コロナ禍の状況は,いろいろな意味で心の安定が難しいですね。先生たちは,常に微妙な判断をしています。細心の注意を払いながら,非常に厳しい中で責任を負って前に進めていることがよくわかりました。いつかは感染が来るのではというリスクを背負って判断をしているわけですね。

[亀澤]私立なので,電車で遠くから,いろんな方面から来ます。公立と違うのは,そういうリスクもあります。その不安が保護者にとっては大きいです。それで今,1時間遅れて,9時10分から授業を開始しています。ラッシュに会わないように,早く来たい生徒は7時半から自習室で過ごせるようにしています。放課後も4時が下校時間ですが,6時まで自習室を開ける工夫をしています。それで,保護者からの苦情はなくなりました。

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8.コロナ禍において学校がSCに期待すること━ーオンラインで個人相談
[下山]先生たちは,休校時には,慣れないオンライン授業の体制を整えて実施し,再開となれば,保護者からの苦情に対応して授業時間も調整し,早い時間から遅くまで学校を開けて,生徒のケアをしている。先生方のストレスや疲れも溜まってきていると思います。しかし,夏休みに入ってゆっくりはできない。短い夏休み明けに備えなければいけないわけですね。そこでは,感染リスクも高まるということもありますね。

そのような難しい状況において,SCはどのような活動をすることで学校運営,生徒や先生方のメンタルヘルスに貢献できるのでしょうか。従来のSCの方法は基本的には相談室に来談した人に面接室で会話をするということで,密な状況になりやすいという特徴があります。そのためコロナ禍においては,機能しにくいということがあります。

その一方で,生徒も先生方もストレスは高まっています。SCは,課題の解決や改善に向けてどのように貢献したらよいのか,何かできるのか。先生方からの期待や要望もあると思います。現状への批判もあると思います。ご意見をいただければと思います。

[亀澤]1つはオンラインの相談をどんどん取り入れてもいいと思います。実際には,担任が生徒と面談していますが,不登校の生徒とも面談できています。実は,保護者会もオンラインでやっている学年もあります。1対1の話もできるし,全体の会議もできます。デジタルを取り入れるのは,一つの手だと思います。こればっかりではもちろんダメですが。

[下山]私もオンラインを取り入れた心理相談を実施しています。やってみていろいろなことがわかってきました。家庭訪問をして面接をしている感じですね。家庭の様子もわかりますし,ときには急に近くにいた親が面接に参加するということもありました。対面相談とは,異なるコミュニケーションができることは,確かにありますね。

[亀澤]これからコロナ禍に限らず,さまざまな災害が起きる可能性が高いです。いろんな意味で不安定になることがあります。SCには,生徒だけでなく,大人も含めて相談にのっていただけると助かります。

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9.リスク対応を支援するSCの役割──集団への働きかけ
[下山]コロナに感染するリスクもあるし,災害リスクもあります。その中でSCは何ができるかは重要なテーマであると思っています。テーマは2点あると思います。

1つはリスクが起きた後のケア,特にトラウマ対応です。これについては,東日本大震災のときの経験があり,そのときの方法や情報を援用できると思います。
もう1つは,リスクを予防するための対応です。不安やストレスに適切に対処する方法を学ぶのを支援する活動です。これは,心理教育といって授業でプログラムを実施します。

[松丸]対処のレパートリーをいろいろともっておくようにすると,不安やストレスを適切に対応できます。特に辛いときに,早めに「助けて」とSOSを出すのは恥ずかしいことではないと学ぶことは意味があります。

私たちのチームは,「安心GETプログラム」といって,授業で集団対象に実施できるプログラムを持っています。しかし,以前そのプログラムを学校で実施することを相談したら,生徒たちはそんなに不安ではないから「寝た子を起こす」ようなプログラムはしないでほしいと,多くの学校で言われました。でも,それを受けて,改善を重ねました。今は,生徒も先生も不安なので,今こそ,そのような予防プログラムが必要とされる状況かと思います。

[亀澤]2年くらい前に東京都がSOSの出し方に関する教育のDVDを出して,前任校で取り入れていました。今は,「いろんなところに相談できるんだよ」ということは,保護者を含めて周知しています。困ったときの相談先の啓発はしています。

去年「東京都児童・生徒フォーラム~の不登校への適切な支援に向けて~」に現場サイドの代表として出させてもらいました。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/sos_sing.html

そこで発表したのは,「集団づくり」の大切さです。不登校が出たときにどうするかの前に,集団づくりをしておくことで,不登校を未然に防止したり,不登校になりがちな生徒が出てきたときに対応できます。要は学級づくり。コロナでここが不安になっているところですが,学校に来て,集団をしっかりつくることが大切になると思います。そこを焦点にして話をしました。コロナで個々別々になっていますが,逆に学校に来て,集団づくりをしっかりやるのも大事だと思います。

[下山]ソーシャルディスタンスを上手に保ちながらも,集団を作り,そして,そこでSOSも含めて自己表現ができる,安心できる集団作りが必要ですね。

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10.誰もが相談しやすい体制づくり
[亀澤]
そう思います。どのようにみんなで安心感を持てるクラスにするか。家庭も安心感を得られることが大事ではないでしょうか。

[松丸]家庭については,SCとしては相談室便りを作っています。「焦らないで。まずは生徒の声を聴いて,そうすると安心できるから」といった内容を発信しています。健康度が高いご家庭なら,異常事態だし焦らずに受け止めることができます。でも,そもそもSCはリスクが高い家庭に関わるので,コロナの影響を受けて問題が出ていると感じます。個別のケースだけでなく,心理教育や集団作りもSCが学校と協働してできたらと感じています。

[亀澤]今は,本当に相談してほしい人はたくさんいます。まずは相談しやすいようにしてほしいです。全部受け付けると,パンクしてしまうかと思いますが,生徒や保護者だけでなく,先生たちも不安です。コロナ対応で教室の消毒業務等もして疲れ果てています。そのような相談に加えて,SOSの出し方の教育をしていただくのも助かります。ただ,時間の余裕がないかもしれません。

[松丸]実は,私がSCとして勤務している中学校で,登校再開後に「安心GETプログラム」を実施しました。これは,不安対処スキルのレパートリーを増やす集団対応の心理教育プログラムです。中学1年生4クラスに3回ずつ実施しました。本来なら1年生には,全員面接をするのですが,それよりもニーズがあり,優先的に「安心GETプログラム」を実施しました。この状況なので,学校側が優先順位を上げてSCに頼んでくれました。生徒が相談しにきやすい関係作りにも役立ちました。

個別面接も立て込んでいたので,時間のマネジメントは難しかったですが,8時から45分個別面接をしたり,なんとか時間を作ったり,先生方が重要度の高い生徒・保護者を相談に入れるなど,協力をしてくださったおかげで放課後もそんなに遅くならずにすみました。その時に必要だと感じたのは,先生方のストレスマネジメントです。先生方のセルフケアも大事だと思いました。

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11.SCができることを学校に伝える
[亀澤]先ほど集団の話が出ました。SCについては,個人相談をするというイメージを持っていました。しかし,今のお話しで集団に関わることをしていただけるのであれば,とてもありがたいです。保護者に対しても講習などをしてもらえると,とても助かります。

[松丸]SCが管理職の先生とお話しする時に,学校全体のことなどで困っていることなどを話していただけると,その困りごとを解決するために,個人面接以外の心理教育授業や,研修会などの活動の提案がしやすいです。

[亀澤]私たち教員の側からすると,SCには個別の面談をしていただければいいという固定観念があります。もっと活用させていただいてよいのですね(笑)。

[下山]以前のSCは相談室内に籠って,生徒が個別に来談するのを待っているという傾向がありました。だから,先生方は,「SCは学校全体の運営や授業とは関係なく,個人相談をする人」というイメージが固定しているのだと思います。

しかし,生徒の問題は環境との関連で起きてくることが多いです。その点で授業も含めて学校の環境が変われば,生徒たちの問題も減るだろうし,予防もできると思います。先ほど先生が言及された「集団づくり」も環境と関わっています。それと関連して,最近のSCは,個別相談だけでなく,松丸先生が実施した安心GETプログラムのように,先生と協力するチームティーチングで心理教育の授業をするなど,活動の幅を集団や組織への対応へと広げています。SCも少しずつメニューを広げています。

ただ,そのことをSC自身が学校や先生方に伝えていないことが課題であると思っています。特に今回のコロナ対応のように先生方も先が見えない中で試行錯誤しているときに,SCとしてはどのような協力が可能かというメニューをしっかりと提示していく必要があると思っています。

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12.教員とSCが協力してグループワークをする
[松丸]先生方はやはりグループワークがすごく上手。一方で,集団に対する授業に慣れているSCは多くないです。しかし,SCは,心理学をベースにした自己理解や対人関係,ストレス対処やメンタルヘルスの知識を伝えることはできます。先生方にも協力してもらえるならば,SCならではの授業ができるのではないかと思います。

[亀澤]今聞いて思ったのは,30~40人に授業をやるのは,ハードルが高いかもしれませんが,グループに対してやるのは一つの手かもしれません。3月まで勤務した学校で昼休みに校長室で5~6人の生徒を集めて「問答ゲーム」というものをやっていました。そういうやり方であればやりやすいのではないかと思います。

[松丸]テーマを決めて,関連する生徒でグループをしてもよいかもしれません。たとえば,リスクの高い子に対する二次予防の考え方になるかと思います。一次予防が生徒全員に対する予防活動。海外では,二次予防として,例えば,ひとり親の子のグループなどのように,同じテーマやリスクを抱えている生徒を集めてグループワークをやっています。

[下山]今は,コロナ禍でいろいろなストレスも高まっている。先生方も危ない生徒が見えていると思います。その対応にSCは協力できることはあると思います。

[松丸]先生方は,SCになにができるのかわからないでいると思います。頼んでいいのかしらと思う先生もいれば,逆に丸投げになっている先生もいます。「頼んでおけば大丈夫だろう」という感じです。私としては,一緒にできたらと思います。

[下山]今は非常事態なので,お互い協力することをもっと探ってもよいと思います。若手の先生がZoomやろうと言ったように,SCから提案して,先生方と一緒にやることはできるのではないでしょうか。

[松丸]時間的に厳しいのなら,例えば,事件があったなどの緊急の場合には,SCを教育委員会に要請することはできます。コロナストレスなどについての心理教育をしたいというのであれば,出前で授業をするSCをプールしておいて派遣するシステムがあってもよいかと思いました。本当は,自校のSCが行った方がSCと生徒が知り合えるよい機会にはなりますが,派遣型にして,時間が合えば自校のSCがTTで入ってもいいかもしれません。

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13.今後に向けて─バランスを見つめて進むこと
[下山]コロナ禍への対応として先生方は,難しい判断をしつつ,オンライン授業をはじめとして新たなチャレンジをしておられます。その点でコロナ禍は,私たちに従来の活動の在り方に変更を迫るものといえます。それに対応して,学校は変わってきています。同様にSCも従来の在り方に拘らずに,活動の幅を広げ,先生方と協力してコロナ禍に対応していくことが求められていると思います。管理職の立場から,SCに期待することがあれば,ぜひお願いします。

[亀澤]コロナ禍に対応することで,いろいろと新しい課題が見えてきて,新しいものを取り入れないといけないことがわかってきました。今は,まさにそれを取り入れている状況です。ICTやオンラインは大切だと思います。でも,その反対側にあるものの大切さも忘れずに,両方を見ながら,進めていかないといけないと思います。個への対応もありますが,集団への対応もあります。デジタルとアナログ,集団と個のバランスを見ながら策を練っていくのが良いと思います。

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第10号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.10


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