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13-1.Online事例検討会+参加者募集

(特集 心理職として技を磨く)
下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.13

1.Online事例検討会の提案

臨床心理マガジン13号のテーマは,「心理職として技を磨く」です。そこで,13-1号では,心理職の技能訓練の中心的方法である事例検討会を特集します。併せて臨床心理iNEXTが企画するOnline事例検討会を紹介し,参加者募集をします。

事例検討会は,事例担当者が,具体的な事例報告をし,参加者との議論を通して事例の問題理解を深め,問題の改善に向けて支援や介入の方針を導きだすための方法です。事例検討会の利点は,事例を報告する心理職の技能上達に役立つだけではないということにあります。検討会に参加するためメンバーも,そこでの議論を通して多くの事柄を学ぶことができます。その点で,心理職の実践技能の訓練において中心的役割を果たすものとなります※。
※事例検討会の「学び」については,山上・下山(文献1)が参考になります。
http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b195953.html

そこで,臨床心理iNEXTでは,多くの方に心理職の「技」を磨く機会を提供することを目的として,どこからでも参加できるOnline事例検討会を遠見書房と共催で企画することにしました。今回は,その第一弾として,米国在住で,マインドフルネスを用いたトラウマ治療で著名な大谷彰先生と,臨床心理iNEXT代表の下山晴彦がスーパーバイザーとなる事例検討会を,5回シリーズ(月1回)で企画しました。

オンライン事例検討会は,現在のコロナ禍で人々が集まることが難しい状況であるからこそ,有効な方法です。また,米国在住の著名な心理職である大谷彰先生の指導を直接受けることができるのも,オンラインだからこそです。

以下に,その内容をご紹介するとともに,参加者を募集する要項を記載します。募集は,臨床心理iNEXT会員を優先しますが,それ以外の方も参加できます。人数に限りがありますので,関心のある方は早めにお申し込みください。

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2.第1回iNEXT事例検討会(大谷彰+下山晴彦)の目標

今回の事例検討会のスーパーバイザーを務める大谷彰先生と下山晴彦は,下記の著作があります。ことからわかるように心理職の基礎技能として,臨床的コミュニケーション技能を重視しています。

■ プロカウンセラーが教える対人技術:心理・医療・福祉のための実践メソッド 大谷彰(著) 金剛出版
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515017.html
■ 臨床心理学をまなぶ2 実践の基本 下山晴彦(著) 東京大学出版会
http://www.utp.or.jp/book/b306612.html

それとともに,大谷先生は,マインドフルネスやトラウマ治療を専門としています。また,下山は,アセスメントとケース・フォーミュレーションを専門としています。

■ マインドフルネス入門講義
■ マインドフルネス実践講義:マインドフルネス段階的トラウマセラピー

 いずれも大谷彰(著) 金剛出版
⇒上:https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514768.html
⇒下:
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514901.html

■ 臨床心理アセスメント入門
 下山晴彦(著)金剛出版
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514532.html
■ ケースフォーミュレーションと精神療法の展開
 林直樹・下山晴彦(編著)金剛出版 
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515015.html


そこで,今回の事例検討会では,心理療法の学派にとらわれずに,心理職の基礎技能として「コミュニケーション技能」を確実なものとするとともに,中核技能として「アセスメント技能とケース・フォーミュレーションの技能」の習得を目指します。さらにトラウマ関連の事例,マインドフルネス活用なども含めた事例の「ケースマネジメント技能」の上達も併せて目指します。

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3.第1回iNEXT事例検討会の募集要項

【実施の形式と構成】
・Zoomによるオンラインカンファレンス
・参加者:計18名[討論参加10名+オブザーバー8名]
・スーパーバイザー:大谷彰+下山晴彦(司会兼任)

【実施の日時】
・2021年1月〜5月で毎月第3日曜日の午前9時~12時
 ⇒1月17日/2月21日/3月21日/4月18日/5月16日
・参加できなかった場合,2回分に限り,後日記録動画の視聴可能。

【スケジュール】
・3時間で2事例の検討を行う。
・9時〜10時20分:事例検討1
・10分休憩
・10時30分〜11時50分:事例検討2
・最後の10分で総括

【参加者】
・2種類の参加形式:下記の①②は本人の希望によって選択。
参加形式①:事例発表をし,議論に参加するメンバー10名。
参加形式②:事例発表はせず,一部のみ議論に参加するメンバー8名。
・①②とも公認心理師および臨床心理士の資格保有者で臨床経験2年以上が条件。
・臨床経験に関する書類提出による選考。臨床心理iNEXT会員優先。

【発表と議論の形式】
・事例発表者は,最初の40分でケース発表
 (A4用紙に3枚ほどにケース内容を記載して発表)
・残り40分で討論とコメント
・形式①参加者は,最低でも1回は質問をする。
・事例検討の方法として,PICAGIP※を参考とする。
※PICAGIP参考資料
https://nsgk.emanabu.jp/course/info.php?id=4
https://www.amazon.co.jp/dp/442211543X

【参加費】
・上記①の参加費:全5回分で25,000円+税
・上記②の参加費:全5回分で20,000円+税

【参加条件】
〈形式①の参加者〉
「公認心理師と臨床心理士の両資格保有」+「2年以上の臨床経験」+「原則として全5回参加」+「個人情報保護を確保の発表事例がある」+「事例検討会における守秘義務」
〈形式②の参加者〉「公認心理師と臨床心理士の両資格保有」+「2年以上の臨床経験」+「原則として全5回参加できる」+「事例検討会における守秘義務」
【申込み方法】
・ 参加希望者は,1)「①又は②のいずれかの希望」,2)「公認心理師及び臨床心理士の登録番号」,3)「臨床歴」,4)「参加理由」の全て(1〜4)を800字以内で記載した資料をPDFとして添付して下記までメールで送付してください。

  送り先⇒ shimoyamalab@p.u-tokyo.ac.jp

・ 申込期限を12月24日(木曜)とします。申込みが多数の場合には,臨床心理iNEXT会員を優先させていただきます。
・ 年内に結果をお知らせします。確定後に参加費をお支払いいただきます。

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4.Online事例検討会の目的

第1の目的は,事例発表者の技能上達です。発表者が担当した事例の経過を提示し,スーパーバイザーを含む複数の参加メンバーがそれぞれの観点から,その経過を見直すことを通して,事例の問題理解を深め,より有効なケースマネジメントの方法を見出していくことです。

事例担当者は,問題状況に巻き込まれたり,自らの理解や方法にこだわったりすることで,ケースマネジメントのあり方が固定化し,柔軟に対応できていない場合が多くあります。そこで事例を発表し,参加メンバーから他者の視点を得ることで,自らの固定した見方から自由になり,より効果的な実践に向けてケースマネジメントのあり方を調整していくことが可能になります。

Online事例検討会では,日頃会って議論することない他分野の心理職,他機関の心理職,他地域の心理職がインターネット上で一同に会して議論ができるので,新たな視点や新鮮な議論を持つことが可能となります。

第2の目的は,発表者以外の参加者(メンバー)の技能学習を促進することです。参加者は,発表事例の経過を知ることでケースマネジメンの重要性を理解できます。検討会での議論を通して,事例の進め方や改善方法の工夫のあり方を学習できます。自身の意見を提示し,議論をすることで自らの見方を相対化して理解することもできます。

特にOnline事例検討会は,異なる分野,機関,地域のメンバーの意見を共有できるので,それぞれのメンバーが自身の見方を相対化できるとともに多様な見方や意見を学習することができます。

第3の目的は,事例検討会のメンバー全体がグループとして成長することです。事例検討会には,グループワークとしての機能があります。スーパーバイザーがファシリテーターとなって,議論が発展するとともに,グループ・ダイナミックスが生じ,それを通してグループメンバーの成長を促します。

特にOnline事例検討会では,多分野,多機関,多地域のメンバーが参加しているので,よりダイナミックなグループの成長が可能となります。これは,チーム能力の学習にもなります。ただし,多文化のグループなので,各メンバーがグループ全体の成長を目指して協力することが必要となります。

以上示したようにOnline事例検討会には,多様な目的があります。この他にも,実践技能を評価したり,研究したりするといった目的もあります。図1にそのような事例検討会の目的をまとめましたので参照してください。

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図1 事例検討会の目的(文献4を参考に作成)

5.Online事例検討会の方法

Online事例検討会は,さまざまな分野,機関,地域の心理職が参加します。その点でOnline事例検討会は異文化間交流のグループワークとなります。異文化交流のグループ・ダイナミックスが適切に生じた場合には,そこから多くのことを学ぶことができます。しかし,そのグループ・ダイナミックスを適切にマネジメントできない場合には,混乱や孤立が生じる危険もあります。

そこで,特にOnline事例検討会では,グループの運営が重要となります。一般的に事例検討会は,事務局,事例発表者,参加者,進行係(司会),助言者(スーパーバイザー),記録者から構成されています。今回は,事務局は,臨床心理iNEXTの事務局が担当します。進行係(司会)は,主催者である下山晴彦が担当します。助言者(スーパーバイザー)は大谷彰先生となり,下山も兼任します。記録者については,共催する遠見書房の山内俊介氏に依頼する予定です。

司会者は,参加者間の連携や協働を深め,グループとしての成長を重視します。進行は,開会→事例提示→事例情報の共有,論点抽出→論点明確化→論点検討→残された論点の検討→まとめと閉会となります。特にOnline事例検討会では,発表者の訓練,参加者の学習,異文化の経験が主要な目的となります。限られた時間内で,これらの目的を実行できるために,図2に示した構造化された進め方をします。

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図2 Online事例検討会の進め方(文献2を参考に作成)

事例の発表においては,「どのような人の,どのような問題」が,「どのような介入」で「どのように変化」したのかを具体的に提示することが重要となります。介入経過は,表1に示したように5W1Hを意識して具体的に記述することが望ましいといえます。

表1 介入経過を具体的に作成するポイント(文献3を参照して作成)  
【いつWhen】介入の開始時期と介入ポイントのタイミング。どのような状況で介入し,どのような変化があったのか,なかったのか。
【どこでWhere】介入の場や環境。どのような施設(病院,クリニック,心理相談機関,福祉機関……)のどのような環境で実施されたか。
【誰がWho】介入を実施する人や関わる人。どのような職種と役割の人が,どのようなチームや連携で介入したか。初心者かベテランか。
【何をWhat】介入対象:問題のどの部分に介入するのか。複雑なケースではどこから介入したか。
【なぜWhy】原因や理由についての仮説。アセスメントに関しては問題の発生要因や維持要因は何か,なぜ介入は上手いったのか,いかなかったのか。
【どのようにHow】アセスメントや介入の手段。どのように問題を評価したか,どのような方法で介入をしたか。


事例検討会では,事例情報の共有を通して他人が容易に知りえない個人情報を知りえることになります。そこで,クライエントに対してその施設の取り組みや規定を説明した上で,介入契約の際に「個人情報保護と秘密保持を条件に問題の改善・解決に向けて専門家内で情報を共有する」ことの同意書を得ておく必要となります。提供事例の個人情報については,暗号化する等により個人情報保護することも必要です。Online事例検討会では,多方面から参加する未知のメンバーから構成されているグループでの発表であるだけに,この「個人情報保護の確保」が特に重要となります。

文献
1)山上敏子・下山晴彦:山上敏子の行動療法カンファレンスwith 下山研究室 岩崎学術出版社 
⇒http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b195953.html
2)岩間伸之:援助を深める事例研究の方法[第2版]  ミネルヴァ書房
https://www.minervashobo.co.jp/book/b48974.html
3)飯倉康郎:(認知)行動療法から学ぶ精神科臨床プレゼンテーションの技術 金剛出版
⇒https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514612.html
4)下山晴彦:ケースカンファレンス in下山他(編)公認心理師技法ガイド 文光堂 
⇒https://www.bunkodo.co.jp/book/4YVILW8H7U.html

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