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22-1.解決志向ブリーフセラピーWS

(特集 研修──秋の大感謝祭)
黒沢幸子(目白大学)
北原祐理(東京大学)
下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.22


1.心理職技能向上に向けて「秋の大感謝祭」

9月になり,秋風が立つ頃になってもコロナ禍がなかなか収まりません。デパートでは,秋の大感謝祭と銘打って秋物や冬物のバーゲンセールを行う時期です。しかし,残念なことにコロナ禍のためにデパートも入場制限や時間制限があり,例年になく寂しい秋を迎えています。

そこで,臨床心理iNEXTでは,9月後半に「解決志向ブリーフセラピー」ワークショップを,オンラインで開催することとしました。

講師は,解決志向ブリーフセラピーのエキスパートである黒沢幸子先生にお願いしています。日頃のご愛顧への感謝の気持ちを込めて,通常より廉価で皆様にお届けすることとしました。本号では,これらのワークショップの内容のご案内を兼ねてご紹介をさえていただきます。
多くの方のご参加をお待ちしています。

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2.解決志向ブリーフセラピーのオンラインWS

日頃の臨床場面において問題にどのように対処してよいか分からずに困ってしまうことはありませんでしょうか。実際に,クライエントに相談に関する動機が低い場合,短期間で問題解決に向けて介入しなければいけない場合,反芻思考が強く,引きこもり傾向がある場合,問題行動のパターンが繰り返されている場合などでは,通常の方法では対応は難しくなります。

そのようなときに役立つのが解決志向ブリーフセラピーの考え方とスキルです。今回の解決志向ブリーフセラピーのワークショップでは,対応が難しい問題状況に対して,より柔軟に対応できるための考え方とスキルを体験的に習得できる機会を提供します。

〈One Dayワークショップのお知らせ〉
解決志向ブリーフセラピーの技法と姿勢を学ぶ
─Blieving is seeing─

【日程】9月26日(日曜日) 9時~17時(昼休みあり)
【講師】黒沢幸子(目白大学)
【募集人員】30名
【申込】 下記URLから
◆臨床心理iNEXT会員:8,000円
 ⇒ https://select-type.com/ev/?ev=hk19TXLWYpI
◆iNEXT有料会員以外:10,000円
 ⇒ https://select-type.com/ev/?ev=K8ZZP7hFQNw

本号では,ワークショップの内容のご案内を兼ねてご紹介をさせていただきます。記事の後半では,講師の黒沢先生へのインタビューを掲載しています。

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3.ワークショップの内容のご案内

[ワークショップの目的]
◆解決志向ブリーフセラピーの理論と技法を,講義や書籍で学んだ方を対象に,その発想の前提と代表的な技法について,体験的演習(ワーク)とそのシェアリング,質疑応答,事例の話題などを交えて,ライブ感覚をもって学んでいただく。

◆このワークショップでは,解決志向において代表的な技法を体験的に学んでいただくとともに,その背景にある前提や狙いに触れていただきます。

◆対話の展開のなかで代表的に用いられる観点や技法である「リソース」「コンプリメント」「例外」「Howの質問(成功の責任追及)」「望む未来(解決)の姿を問う質問」「スケーリングクエスチョン」などについて,ブレイクアウトルームを用いたワークを通して,体験的に学んでいただきます。

◆研修の前半は「すでにある解決」,後半は「これから起こる解決」に焦点を当てていきます。

[解決志向ブリーフセラピーとは]
◆病理や問題を深追いせずに,むしろクライエントの「リソースやストレングス」「解決像やゴールの構築」「それに役立つ具体的なアクション」に焦点を合わせ,対話を通して新たに解決やクライエントの望む未来/生活を作っていきます。

◆クライエントのもつ枠組みを尊重しながら,質問と対話を丁寧に続けることで,自身の解決の専門家であるクライエントが,自らより良い状態を手にして行くことを手伝います。

[技法の特徴]
◆問題志向でものを考え見ている従来の種々のアプローチに慣れている方々にとっては,解決志向の技法のいくつかは斬新なものに映るかもしれません。しかし,技法は,あくまでクライエントの力を引き出し,その対話をクライエントにとって有用なものにしていくツールにすぎません。

◆技法はセラピストの姿勢が透けて見える道具でもあります。セラピストがクライエントをどのように見て,何を大切にしているのか,またクライエントをどのように信じているのかが間接的に伝わるものです。

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4.解決志向ブリーフセラピーはスキル向上につながる

[下山]カウンセリングや精神分析,認知行動療法などの多くの心理療法では,まず問題は何かに焦点を当ててアセスメントをします。そのような心理療法に慣れた人にとっては,解決志向ブリーフセラピーは,当初はわかりにくいかもしれません。問題志向ではなく,解決志向だからです。

しかし,解決志向ブリーフセラピーは,実際には,従来の心理療法のスキル上達にとても役立ちますね。クライエントさんの力を引き出し,問題解決に向けた会話を進めることができるようになります。そのような解決志向ブリーフセラピーについてお話をいただけますでしょうか。

[黒沢]ブリーフセラピーを少しかじった人の中には,「解決志向では,問題に焦点を当ててはいけない」「解決志向では,問題のアセスメントをしない」といった誤った考えをもってしまう人がいます。それは,大きな誤解です。クライエントさんは,面接に来てまずは困っていることを話すわけです。ですので,ブリーフセラピーでは,クライエントさんの語りを受容し,共感し,承認をします。むしろ,クライエントさんの問題に関する語りを妥当なものとして認めることをとても丁寧にするのです。そのプロセスをスルーして,「未来はこうなりたいのね!」「うまくいっているじゃない!」といったクライエントを置き去りにして技法オリエンティッドな話にもっていったり,解決の方向性へ強要をしていったりするものではありません。

解決志向ブリーフセラピーは,DVや依存症の方など,他の治療法でうまくいかなかった人を対象とした実践の積み重ねから役に立つことを抽出してきたモデルです。児童虐待の養育者や自殺企図の方にも対応できるものです。むしろ解決志向ブリーフセラピーは,困難な問題を抱えたクライエントさんにお会いする中で形成されてきたといえるものです。

[下山]確かに「解決志向ブリーフセラピーは,すぐに“例外”を探すものだ」という誤解がありますね。しかし,実際は,とてもオーソドックスにクライエントさんの問題を聴きながら,クライエントのニーズに沿いながら,どこをどう変えていくのが未来の変化につながるのかを考えていく方法ですね。困難事例にも適用できるということで,従来の方法を柔軟に広げるものでもありますね。

[黒沢]そうですね。私たちは,問題志向を“問題視”しているわけでもありません。ただし,今までの方法で対応しようとして,問題解決に限界があったり,クライエントの力がうまく引き出せずに迷走したり,ときには対立構造が深まったりする場合があります。従来の方法には,役立つスキルがたくさんありますし,効果性が高いとのエビデンスが出ている技法もあります。しかし,エビデンスがあるからと言って,その技法だけで問題が解決するかというと,現実はそれほど単純ではありません。特定の視点からだけで物事を見て対応するということには限界もあると思うのです。

もちろん心理療法の上達に向けて,何かひとつの方法のエキスパートになることも大切です。しかし,今は,公認心理師の活動が広まり,さまざまな分野や領域で心理職は活動をする必要がでてきています。特にコミュニティ場面では,多職種の連携の中で,多様なニーズに応えていくことも求められます。だからこそ柔軟な発想をもって,狭義の治療的な役割だけでなく,結果的にコミュニティメンバーをエンパワーできるような心理職の働きは大切だと思います。解決志向ブリーフセラピーを学ぶことで,多様なニーズに柔軟に対応できるスキルを習得することになります。

人の心は色々な角度から見ることができ,可能性を秘めているものです。時空間で言うと,過去から未来へのベクトルだけではありません。未来の視座から今の行動が方向づけられることもあります。これは,発達心理学の時間展望の理論でも言われていることです。
解決志向ブリーフセラピーは,このような未来に向けた展望を重視します。

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5.解決志向ブリーフセラピーは問題についての見方を変える

[下山]今回は,若手心理職でスクールカウンセラーでもある北原祐理さんもからも質問をお願いします。解決志向を学ぶことへの期待や質問はありますか?

[北原]大学院では,まずアセスメントをして,どのような問題が生じているのか,その問題を維持する悪循環はどのようなものかというケースフォーミュレーションを学びました。そうすると,問題が問題としか見えなくなるという,問題志向の枠にハマってしまう危険もあることに気がつきました。

そこで質問ですが,解決志向ブリーフセラピーの枠組みを学ぶことで,問題の中にも一部には解決に向かう要因が見えてくるということでしょうか。つまり,解決志向の枠組みを得ることで,問題についての見方を変えることができるということでしょうか。さらに,それに加えて,問題志向の枠で見えてこなかった,問題の外側にある可能性にも気づくことができるようになるということでしょうか。

[黒沢]私はそう理解しています。ただ,解決志向ブリーフセラピーを本格的に実践している心理職は,問題に正面から取り組んで,そこから解決の道筋を探っていくということはしません。むしろ,問題の中に“解決のヒント”や“問題の外にある解決のための資源(リソース)”を,優先的に見つけていきます。そのほうが,結果が出るのが早く,しかもお互いのリスクが少ないからです。

たとえば,その人が意識していないけれど実行力があること,少し工夫すれば発揮できる能力があること,大変な人生をやり抜いてきた経験があることなどは,問題解決のための資源になるのです。クライエントさんがそのようなことを自己の資源として感じることができれば,それがその後の礎になっていくという意味があります。

[下山]未来に向けての可能性や問題の外に可能性があるということですね。例えば,スクールカウンセラーなら,学校の資源や教員との協力体制も問題解決のために活用できますね。そういう意味では,解決志向ブリーフセラピーは,問題に囚われずに,未来の問題解決に向けてさまざまな可能性にアクセスするための方法ですね。

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6.解決思考ブリーフセラピーはスクールカンセリングで使える

[黒沢]外的資源に注目することも重要ですね。例えば,不登校の子どもが頑張って試験を保健室で受けたけど,試験が終わるとまた学校に来られなくなったというケースがあったとしましょう。親や教師は,「どうしてあのときは来られたのに,また来られなくなってしまったんだろう」とがっかりしたりします。

一方,解決志向では,「どのようにしてそのときは保健室で試験が受けられたのかな」「どんな力を使ったのかな」「何が役立ったのかな」と考えていきます。休み時間にお友だちが来てくれたとしたら,「どうしてお友達は来てくれたのかしら」と考えます。そして,「普段あなたは,お友達との間で何を大切にしているのかしら」と話し合っていきます。そういう解決志向の会話ができるかどうかで,問題の受け止め方(枠組み)が変わり,変化に向けての力が生まれてきます。

[下山]解決志向ブリーフセラピーは,子どもだけでなく,保護者などの関係者と関係も未来志向で,前向きに作っていきますね。その点で解決志向ブリーフセラピーは,コンサルテーションをする際にも役立つ方法ですね。

[北原]確かに私のスクールカウンセラーの経験からも,解決志向ブリーフセラピーは,学校の先生との関係を作るのにもとても役立つと思いました。コンサルテーションでは,コンサルティの職務能力の向上も重要な目的のひとつと言われます。ただ,私のような若手心理職にとっては,ベテランの先生方の職務能力をサポートするのは難しいです。

ベテランの先生に一歩踏み込んでお話を聞くことを躊躇してしまうこともあります。一番近くで長く子どもを見ているのは先生方なので,「あなたに何がわかるの」と思われてしまうのではないかと心配になるからです。しかし,未来志向で生徒の力や資源を教員と一緒に考えるということであれば話しやすいと思います。その点で解決志向ブリーフセラピーでは,コンサルティとの関係は作りやすいのかなと思いました。

[下山]解決志向ブリーフセラピーは,子どもの家族や教員との関係作りに生きるものですね。今回のワークショップは,スクールカウンセラーを含めて子どもの心理支援だけを対象としたものではありません。いろいろな年代で役立つ方法だと思います。「スクールカウンセリングにおける解決志向ブリーフセラピーの活用」のテーマは,できたら次回の研修で取り上げたいと思っています。

今回は,教育分野だけでなく,5分野全般で役立つ解決志向ブリーフセラピーの基本技能の習得をめざすワークショップです。最後に,黒沢先生から,ワークショップ前までに読んでおくことをお勧めの本はありますか?

[黒沢]『森・黒沢のワークショップで学ぶ 解決志向ブリーフセラピー』ですね※)。すぐに読めるものだと思います。
※)https://www.honnomori.co.jp/isbn4-938874-27-X.htm

[下山]今日は,貴重なお話をありがとうございました。

■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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臨床心理マガジン iNEXT 第22号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.22


◇編集長・発行人:下山晴彦
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