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コーヒー牛にゅう 【二階建て小説/#たまごまると舟を編む】

おじいちゃんとソフトクリームをたべながらおふろ屋さんにいきました。
これがほんとうのソフトクリームだね、といったらおじいちゃんはそうだねといいました。

ぼくのいちばんのたのしみはおふろあがりの牛にゅうです。
白、コーヒー、フルーツ、といろとりどりできれいです。
おじいちゃんが、白にするかい?
というのでぼくはこないだ白いののんでおなかピーピーになったからぜったいにぜったいにいやだといいました。
白いのじゃないいろつきのなかからどちらにしようかなとまよっていたら、おじいちゃんがコーヒーとフルーツのりょうほうをかって、どちらにする?ときいてきました。
ぼく、きょうは、なんとなくコーヒーかな。
おじいちゃんはフルーツだね!
ごくごくのんだ。
わあ、なんだ!にがい!
うまれてはじめてのんだよごれたどろみずみたいなのみものにぼくはパンツをくらいました。
これおじいちゃんにあげる。ぼくいいよ。
れいぞうこにのこっているはちみつをおもいだしました。とにかくあまいのがほしくなってきました。

おふろあがりのおんなのひとがぼくたちのまえをとおりました。
ふんわりおかあさんのにおいがしてふしぎなきもちになりました。
ぼくはまだ五さい。
おかあさんのかおをおもいだしました。

おじいちゃんはあんなににがいコーヒー牛にゅうをいっきにのんで、さあいこうか、といいました。
おとなってすごいな。
おじいちゃん。
またいっしょにこようね。
あのすずきさんちのすっきりなめらかソフトクリームたべながらぼくがせんとうをあるくよね。
これがほんとうのおふろ屋さんでソフトクリームだね、とかえりみちもういっかいいいました。
そうだねとおじいちゃんはいいました。
やっぱりおじいちゃんさいこう!
ありがとう!おじいちゃん。

じいさんとソフトクリームをかじりながら銭湯に行った。
これが本当の「祖父とクリーム」だねと言ったら銭湯だけに流された。

この俺の一番の楽しみは風呂上がりに一杯ヤル牛乳だ。
白、コーヒー、フルーツ、とカラフルカラフルワンダフルだ。
じいさんが、白にするかい?
と言うので、俺はすかさず、否!こないだ激しい下り腹に見舞われたから、否!と叫んだ。
白を外して「色もの」の中からいずれにしようか迷っていると、じいさんがコーヒーとフルーツの両方を購入して、どちらにする?と訊ねた。
今夜の俺の気分はこの苦みばしったザ・コーヒー。
じいさんはフルーツにしときな!
ごくごくっ。。
う、なんだ!このベリーベリーハードビターなテイストは!
父が清水の舞台から飛び降りて母をものにした結果この世に生を享けて以来俺が初めて口に含むその液体、そうまさに泥質が溶解したようなその濁度の高い代物にパンツ(訳者注:パンチの誤記と思われるが原文を尊重)を食らった。
じいさん、これ飲みな。いや気にするな。
なぜかふとマイハニーのこと頭に浮かんじまったんだ。今宵はちょいと甘口の気分に浸るとするわ。

風呂上がりの女が俺たちの前を通る。
湯上りの女性の艶めかしい匂いを感じて男としての俺はこの沸き上がるパッションを抑えきれないのである。
しかし小生当年とってまだ五歳。
とにかく全身全霊で集中して母の顔を思い出しなんとかそれを封じ込める。

じいさんがあのレベルまでにハードビターなコーヒー牛乳を一息に飲んで、さあ行こうか、という。
大人なんていい気なものだという以外に言葉が思いつかない。
じいさん。
また一緒にここに来ような。
あの合資会社鈴木商店の乳脂肪分のほとんど入っていないソフトクリームを食べながら俺が「せんとう」を歩いてさ。
これが本当の「お風呂屋さんで祖父とクリーム」だね、と帰途さりげなく勝負をかけた。
そうだね、とじいさんはまた流した。銭湯だけに。
結局、じいさんの方がずっと面白かったりして!
ざぶとん三枚!グランパ。昭和だけに。