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魂の誕生日

盲ろうの少女ヘレン・ケラーのもとに、家庭教師のアニー・サリバンが初めて訪れたのは、1887年のことである。ヘレンは後にこの日を「私の魂の誕生日」と呼んでいる。

サリバンはこのとき20歳。
パーキンス盲学校を首席で卒業した優秀な学生だったが、教師経験はなかったわけである。
一方、ヘレンは6歳9か月。1歳7か月のときに視覚と聴覚を失い、周囲の人に意思を伝えるのには、身振りや仕草に頼るしかない子どもであった。この出逢いの日から、1ヶ月後に、ヘレンは、「モノには名前がある」ことを学ぶのだから、サリバンは、まさに「奇跡の人」である。

ただ疑問に思うのは、「なぜ新米教師のサリバンが、ヘレンの可能性を信じることができたのか」ということである。

「ヘレンはできる」と決して妥協を許さないあの強い信念は、いったいどこから来たのか。ということで
ある。

それは、パーキンソン盲学校にて、ローラ ブリッジマンに出逢っていたからである。

盲ろうでありながら読み書きのできる世界初の女性に教えを受けていたからである。

ローラも、ヘレン同様に、2歳の時に視覚と聴覚を失ったのである。

そして、ヘレンと同じように教育を受けずに成長し、7歳10か月のときにパーキンス盲学校に入学する。

そこで、盲学校の創設者のサミュエル・ハウという医師から、最初は点字、後にはアルファベットを表す指文字を習い、言葉を身につけることに成功したのである。

ローラにとって、ハウ博士との出逢いは、「魂の誕生日」だったのである。

サリバンは、彼女の生きざまから、「幼児期に視覚と聴覚を失った人間でも、指文字の習得によって、書物を読みこなすほどの知性を身につけることができる」ということをすでに学んでいたのである。

それゆえ、サリバンは、ヘレンに逢った瞬間に彼女の中に「無限の可能性」を発見することができたのである。

「奇跡の人」とは、「魂の誕生日」を経験した名もなき偉人に支えられた「奇跡の物語」だったのである。

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