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手がかりの「数字」、経験者の「目分量」

 ちょっとモヤモヤしているのでまとめてみます。


レシピとしての数字

 ものを作る時、それが初めての取り組みなら、経験者による「レシピ」が重要な手がかりとなり、「まずやってみよう」という意欲につながります。だから、レシピは重要です。これは今回の大前提。
 初めて作る外国の料理をイメージするとわかりやすいかと思います。調味料やスパイス、香草の使い方や分量など、初めて手にするものや用意するべきものの概要を掴んでおくことで、安心して準備にかかることができます。
 何をどれくらいの量(g)で、どれくらいの時間(分)をかけて、どれくらいの強さの火(温度)で調理するのか。各数字が明確になっているほど、取り掛かりやすくなると思います。そして、「基準となる仕上がり」を知るためには一番重要な情報となります。これは間違い無いと思います。

 さて、その先の話です。
 例えば家庭料理なら、「自分の家庭の好みの味」に徐々に変化というか調整をしていくと思うのです。手元で色んな工夫が加わることも珍しくない。そうこうしているうちにレシピで公開されていた諸々の「数字」はそれほど重要でなくなっていく。そうなってこそ、その「家庭の味」に定着するのだと考えます。
 だから、レシピに記載されている数字は、あくまでも目安ととらえている人は多いのではないでしょうか。「目安」ということは、それが「絶対」ではないという認識がベースにあるということで一般認識から大きく外れていないと考えます。

 ところが、これが藍染となった場合、ちょっとめんどくさいことになると感じています。目安のつもりで記載した数字は、なんとなくそれが「絶対」であるかのようなニュアンスを持って理解され、流布されてしまいがちだと感じているのは、私だけでしょうか。うっかりしたことを言えない雰囲気が濃厚に漂っている…恐ろしくて「藍染レシピ」なぞ書き記せません。
 もしも私が「藍染レシピ」を書くことがあった場合は、目安として書いただけのものだから、実際の作業時に手元で確認しながら、「もっと足そうかな」「もっと温めようかな」「もっと時間を長くしてみようかな」という微調整は最終的に各人の感性に頼っているというのが本音。お料理レシピと同じ感覚でお付き合いいただくことが前提となると思います。

かなり正確な目分量

 今回の話題は、何を急に言い出すのかと思われそうな内容なのですが、今執筆中の次回作の「藍関連レシピ」に相当するところで激しく悩んでいるからです。目安としての数字だとしても、それはやはり私の周辺で育った藍で調整するものが基準となったものだから、書籍に記載していいものなのかどうか。
 でも、私の手元ではそれで用が足りているということは確かなので、事実としてのいちバリエーションをご披露する感覚でいればいいのかもしれません。そもそもここまで悩む必要のないことなのかもしれず。

 先ほどの家庭料理の話に戻すと、作業の流れと完成の味のイメージが定まれば、レシピの分量は徐々に目分量になっていくし、その方が自分好みの味に仕上がっていきます。つまり、レシピより正確に自分好みの味に仕上がるのが「さまざまな感覚の蓄積から算出された目分量」ということにならないでしょうか。
 その延長線上とも思われる職人仕事のあらゆる場面では、長年の経験に育まれた肌感覚のようなものから、とても正確な目分量が日々弾き出されています。それは、時には「定説」とされるセオリーを逸脱したところで成り立っている場合もあります。結局は、現場の数だけ「基準値」のバリエーションがあると考える方が自然なのではないかと考えています。
 それから、私が学者さんの学説でカバーできる事柄には限界があると常に感じているのは、私自身が藍農家の人間で、今までに藍の技術書や研究書のどこにも記載されることのなかったさまざまな「事実」を、畑や作業場で目の当たりにしてきたからです。
 学説を含めたさまざまな記述は、いわゆるパズルの「ピース」だと考えています。それもあり、これもあり、あれもあり、他もある。さらにまだ見つかっていないものがあることも忘れてはいけません。それらを絶妙に組み合わせることで、俯瞰できる事実が現れてくるように思うのです。
 正確な目分量を裏付ける経験値をどのように重ねていくのかが実は重要で、「レシピ」はそのとっかかりとなる入り口の提示にすぎない。そうして各現場で育まれた「事実のピース」を持ち寄ることができれば、より開かれた現実をみんなで把握することが可能になるのでしょう。

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