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一年ぶりの シマ

バスの中 ふたつの人生が 行き交う瞬間
かそけき奇跡に 心にぽっと火が灯る
25年ほど前に 家族で奄美に3年住まわれたそう
それはうつくしい 青海原で
豊かに受け継がれる伝統行事 名物おばあちゃんの黒糖かりんとう 
紬に染め 朝早くから機織りの音が響いていたよと 
書物でしか読んだことのない情景が 目の前に立ち上がった

⋆⋆
ゆるやかに 高度を下げ始めた機体 
この世のものとは思われぬ色が 瞬く間に視界を染め上げてゆく
一年振りの奄美は 葉に包まれる感触が心地よく 
海を眺め 波に抱かれては 自然に還る

沖縄より 一足先に梅雨を迎え
しっとりと濡れそぼった緑は
一層麗しく 呼びかけ居る

横殴る雨は 勢いを増し
フロントガラスに次々と打ちつける 雨粒の群れ
真っ白の内に 取り残され
染めの工房から 2度目の電話が
こっちの周りは だいぶあぶないよと
ぶらり回り道 引き返す道すがら
至るところに咲き誇る 月桃
首を垂れた白い花房 涼やかにすっと伸びた葉先
サネンの 香りのよい葉
淡い黄色が 時折顔を覗かせ
可憐な姿に 心奪わる
月桃よりも小さく 白色が印象的な
直立する花序の アオノクマタケラン優勢の場所も


山手を目指す朝
昨夕 漸く会えたアカショウビン
真っ赤な嘴と 爪先が思い起こさる
朝から響いてきた キョロロローの声
あいくるしい姿を 思い描いて
森で 昼間のルリカケスをみられるか
町と同様 柔らかなアイボリーの花を
いっぱいに咲かせる イジュ樹
きっぱりとした白さが際立つコンロンカが いっとう目に染みる 
中央には 月のような明度のイエロウ
モダマ・ダマダマ 行き会わなかったけれど
迸る水音の傍 緑たちとの交歓は
何にも代えがたい時
冠水エリアを ひそりひそりと抜けながら 
前日の 南下路の無謀さを思う
アメリカデイゴが 頼もしいガイドさながら
赤々と 道を染める

⋆⋆
灯台には猫 低く咲く花
とおく迫り来る 船を眺め
湾を越え 山を越え されど 
集落の先に 立現る次のシマ  
北や市街地に比べれば けして多くはない交通量
途切れぬ対向車は どこへ向かうのか

ケラマツツジが 咲き誇る一帯
その気高さに 言葉を失う
山のものは 山にあって美しい
ただ 其処に花開くだけで 
言いようのない安堵と はっとする驚きにつつまれる

漸く辿り着いた 湯湾岳
屋久島に次ぐ 琉球列島内最高峰 
靄に煙りし 霊峰の響き

林道で 久しく目にしていなかったウサフンをみつけ
すっかり乾いたものも まだ新しいものも
昨夜の大雨でも 流されずに残ったか
瑞々しい緑とのコントラストに 溜息
森も海もひとも 爬虫類に鳥類 昆虫たちも
みな繋がりを保って 生きていて
輪禍に遭うウサギは 奄美にも徳之島にも
人間が出来ることに ずっと目を向け続けられるように
生命続く限り 問いかけは終わらぬ
彼らの痕跡に この地に息づく命のダイナミズムを
糧を育む豊かなシマを 守り継ぎたい

⋆⋆ ⋆
移動は 違う次元をみせてくれる
呼吸せねば とまってしまう命
空に上がり みずに浸って 息を吹き返し
今日も今日とて 歩みゆく

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ノボタン

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ケラマツツジ

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湯湾岳より

Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛