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境目

道を歩いていると 後方より大音声が割れながら近付いてくる
何事かと振り向けば 手に機械を持ち自転車に跨った少年ひとり
自分が聴くものを 空気のよう纏いたい欲求の現れか
隠れてひっそり音と睦みしびれることも 弾くも聴くも皆でという
あっけらかんとした雰囲気も スタイルに過ぎぬ
何だか取り残されたような心持ちのまま 木々に目をやり

他者領域にやみくもに入ることは 今も昔もないのかも知れないが
唐突に思われる音や会話に遭遇する時は 心のしなやかさが失われている
虹が架かり窓外に富士を見つけと うれしいことに会うと近くの人に
話しかけていたことに似る 特定の何かに限らず日常のあらゆる場面を
共有する時代にあって お互いの存在や領域の境を意識すること自体
減りもしよう 超えられぬ線があるから客観視しやすかったこと

通信や何かで連絡の取り方も便利になるほど 近しさの消失にも繋がる
言葉の表すところ 意味範囲の広がりや境目はぼやけゆき
対面していると感じないことが 電話やメールでは浮き彫りになる
共通言語を用いての会話でありながら 末端までの冷えを感じて
己の内側の違和もあろう 心と躰の相関には狂いがない
手紙を開くと書かれた空間や流れていた時 文字の表情から想像も広がり
落ち着きを覚える 暮らし向きや情緒を感じ 届いたという喜びも

自分にとっての絶対的な文学 音楽 絵画があるよう
文字を好むひと 音がすきな人 意思疎通の図り方も様々に
卒寿を迎える文筆家の ユーモアあふれる語り口に思い廻らせた帰り道

Photo:T

Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛